06
防壁の上から北の森に意識を集中する。木々が多過ぎて気配が掴み切れないが間違いなく近付いて来ているのを感じた。
「アインさん!カインズさん!森の中に魔物が集結してきています!!間違いなく北門が狙いです!!門の周辺に人を多めに配置して下さい!!」
「わ、解かった。カインズ、冒険者の方は任せたぞ」
「あ、ああ・・・・・」
防壁の上から二人に叫んだけど動きが悪い。そんな悠長に構えてる場合じゃないだろ!
「御二人は防壁の上から全体を見て指揮をとって下さい!!もう来ますよ!!」
「す、すまん!直ぐ行く!!」
二人が階段を駆け上がって来た。
カラーン・・・カラーン・・・カラーン・・・・・
昼を告げる鐘が町に鳴り響くとほぼ同時に二人が防壁の上に着き、魔物達も動き出した。昼時の忙しい時間帯を狙うなんて相手も良く考えている。敵の大将はそれなりに頭が良いようだ。
「射撃準備!!北門正面!!間も無く森を抜けて来ます!!」
「出たぞ!撃てええぇぇぇ!!」
「って、焦り過ぎ!全然届いて無いじゃん!!自分の射程距離位把握して無いの?!」
森から狼の魔物が出てきた瞬間、防壁上の衛士達が弓矢と魔法で攻撃を始めたけど全然届いてない。衛士達がちょっと浮足立ってる?防壁の外に陣取ってる冒険者達は落ち着いて待ち構えてるのになんで?慣れてるんじゃなかったの?!
「がはははは!お前等相変わらず下っ手くそだなぁ、おい!!」
「全くだ!矢が勿体ないとか言って練習さぼってるからだよ!!」
「おい、メイリー!手本見せてやれよ!!」
「冗談。あたいだってこの距離じゃ上から撃っても届きゃしないよ」
慣れてるってそっちかよ・・・何時もこんな感じなんだろうなぁ・・・・・
狼達も射程が解っているかのように近寄らずに森との境目をうろうろしている・・・もしかして何か狙ってる?あっ!陽動か!!
「門正面の冒険者の皆さん!下です!!地下から上がってきます!!」
「なっ?!うお!アイアンアントだ!盾持ち前出ろ!!」
「相変わらず固てぇな!!関節狙え、関節!!」
「衛士の皆さんはもっと全体を見て!狼が詰めて来てます!!アインさん、カインズさんは指揮取って下さいよ!!」
「あ、すまん・・・このような事態は初めてでどうしたら・・・・・」
「ああ・・・なんなんだこれは・・・・・」
「相手が魔物だって言う意識は捨てて下さい!!軍隊が攻めて来てると思って指揮を取って!!」
「そ、そう言われても・・・・・」
「軍隊相手なんて想定した事が・・・・・」
〝絶望〟の二文字が頭を過った。今までは唯突っ込んで来る魔物しか相手をした事が無かったのだろう。そりゃあ指揮なんて取る必要も無い訳で、放っといても力量差だけでケリが付いていたのだから碌な経験も積んでいなかったし、作戦なんて考える必要も無かったんだ。
「次が来ます!!全員防壁を背に!決して前に出過ぎないで下さい!!今までと同じようにやってたら負けますよ!!」
「さっきから何なんだてめぇは!!ガキが口出すんじゃねぇよ!!」
「こちとら前線で身体張ってんだ!口だけの奴は発見報告だけしてろ!!」
ダメだ・・・状況把握出来てる人が衛士にも冒険者にも居ない上に指揮を取れる人もいないんじゃ勝てっこない・・・・・
「クソッ・・・・・アインさん、カインズさん、戦場の全体を見て門を護る事を最優先に指揮を取って下さい」
「い、いや、そう言われても・・・・・」
「私達より君がやった方が・・・・・」
この期に及んでもやろうとしない二人の態度に流石にカチンときた。
「煩せぇ!やれって言ったらやれ!!出来なきゃ全員死ぬしかねぇんだ!!死にたくなかったら死に物狂いでやるしかねぇんだよ!!」
「ヒッ!・・・・・そ、それじゃ君は・・・・・」
「俺はもう勝手にやる!!他の奴が何人死のうが知った事か!!」
「お、おい!」
もう良い。犠牲を出さないようにと様子を見ていたけどもう知らねぇ。
使えない指揮官と衛士に加え、言う事を聞かない冒険者達に腹を立て、半ば自棄になりながら防壁から飛び降りて下手糞な矢と魔法が降り注ぐ最前線へと駆け出したのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。