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明けて収穫祭初日。朝食の席で領主様に準備が出来次第迎えを送るので部屋で待機して居てくれと言われたので本を読んで待つ事にした。
粗筋を読んだ限りでは、愛する女性を守るために悪の道を選んだ魔法使いを天から遣わされた魔法使いが仲間を集めて悪の魔法使いを倒す話らしい。
冒頭部分を読み始めて直ぐに迎えが来たので栞を挟んで部屋を出て、案内をしてくれた使用人の後に付いて館の南側から出ると、僕以外は皆揃っていた。
「お待たせてして済みません」
「いや、我々も今来た所なのだが・・・例年よりも集まるのが早い気がしてな」
「そうなのですか?」
「ふむ・・・トロールの件が漏れているのかもしれん。あれ程の物だ、隠し通すのは無理であったか」
領主様の視線の先、南門の前には演台が置かれていてその両隣には布の掛けられた荷車が止められていた。何時置いたのか解らないけど最初に見かけた人が広めたかもしれないな。
領主様達について南門へと向かう。集まって来た人達の喧騒が次第に大きくなっていった。
「おい、ひょっとして・・・・・」
「あの方が噂の・・・・・」
喧噪に紛れて囁く声があちこちから聞こえてきた。噂?僕がトロールを寄付したって知られてるって事?
「我が臣民よ!良く集まってくれた!今年は例年以上の収穫だったと聞いている!良くやってくれた!来年も、再来年も、更なる努力を期待している!農業に携わる者だけでなく、領民全てが一丸となってこの領地を盛り立てて行こうではないか!!」
「「「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」」」
「「「「「バレリー伯爵領万歳あぁぁい!!」」」」」
「さて、皆も既に気が付いておるとは思うが、両脇の荷車に注目して欲しい。覆いを外せ!!」
「す、すげぇ・・・・・」
「何だありゃ・・・初めて見るぞ」
「この魔物はトロールと言う。この二体以外にもトロール三体とオーガ五体をこの領地のために寄付して頂いた。それらは解体後に衛士隊の装備を作る運びとなっている。マルス殿此方へ」
「はい」
「紹介しよう、こちらの方はあの使徒として有名なジン・マキシマ殿の技を継ぐマルス・ガーランドと言う。この領地の為、領民の安全の為に多くの魔物を寄付して下さった彼に感謝を捧げようではないか!!」
「使徒様の弟子?」
「こりゃ間違いなさそうだ・・・・・」
「きっとそのためのお披露目だぜ」
「「「「「おめでとう御座いまあぁす!」」」」」
は?何でおめでとうなの?
「こいつは目出てぇ!」
「今年の収穫祭は忘れられない物になるな!」
「お嬢様!マルス様!ご婚約おめでとう御座います!!」
「え?・・・婚約?なんで・・・・・あ、いや!違います!」
「「「「「おめでとう御座いまあぁす!!」」」」」
何で僕とお嬢様の婚約って話になったのか解らずに困惑しながらも否定したが、領民達から上がった歓声に掻き消されてしまい誰の耳にも届いていなかった。
*
*
*
「・・・・・叔父様、お爺様、宝玉を貸して下さいなの」
「ん?宝玉?ああ、あれは大切な預かり物だから貸す訳にはいかないんだ」
「セリーヌ、あれは玩具じゃないからね。可愛い孫の頼みでも貸せないんだよ」
「む~・・・遊ぶためじゃないの!急がないと大変な事になるの!」
「何を言ってるんだい?」
「セリーヌ、聞き分けなさい」
「もういいの!お母様!ジン様の所に行くの!」
「待ちなさいセリーヌ!」
「離してお母様!離して―――」
行かなくちゃ
世界が光に塗り潰されてしまうから
確定した筈の未来が
強大な力によって書き換えられ見えなくなって行く
行かなくちゃ
今直ぐに
今行かないと手遅れになってしまうから
ここまで読んで頂き有難う御座います。




