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「あんたほんとに酔ってない?あたしが誰だって?」
「しらばっくれても無駄だ。あたいが何年あんたの事だけ見続けてたと思ってんだ。人の癖ってのはそう簡単に変わったりしねぇ」
「偶然その人と同じ癖だっただけじゃないの?大体どんな癖よそれ」
「フッ・・・あたいが惚れた男の癖を忘れる訳がねぇだろ。大体ホレスですら気が付いてなかったあたいだけが知ってる癖なんだぞ、教えてなんかやるもんか・・・クックックッ・・・何にしてももう諦めな、何で隠してたのか吐いちまいな」
「ハァ・・・怖かったんですよ・・・・・今の私はベルフォード・ラングレイで・・・見た目も変わってしまった・・・・・何よりも泣きながらキスまでして見送ってくれた貴女にどんな顔をして切り出したらいいのかと・・・・・」
「そ、その事は忘れろ!」
「忘れるなんて出来ませんよ。それともう一つ、何か意味があるのではないかと様子を見ていたんです」
「意味?何のだよ」
「何故今この星のこの地でハンスとしての記憶が戻ったのかと疑問に思いまして。最初は貴女やパンドラさん達に再開したからなのではと思ったのですが・・・何か別の理由がある気がしてならなかったのです。貴女は何か心当たりは有りませんか?私と言う存在が必要な何かが」
「ああ・・・アレスがもう長くない・・・・・」
「アレスさん・・・まだ生きていたのですね・・・・・本当に〝忠臣〟の言葉が彼程似合う男もそういません」
「違うんだ、そんなんじゃねぇんだよ・・・あいつも、パンドラも、ライラの遺言に囚われちまったんだ・・・・・」
「ライラさんの遺言・・・・・それを教えて貰えますか?」
「ああ・・・アレスには『私の分まで主様を守り続けて』って。パンドラには『何時までも変わらぬ優しい主様のままで居て下さい』って・・・・・」
「それだけ?・・・他には?!他に何か言い残してはいませんか?!」
「な、なんだよ。そんなに焦るような事か?」
「私を、人一人を転生させるだけの理由にはそれだけでは弱い気がします。思い出して下さい!私が亡くなった後に何が有りました?!他に何か重要な事を言い残した人が居るんじゃないですか?!」
「落ち着け、ハンス。声がでけぇよ、ライエル達が起きちまう・・・それに急に言われても・・・・・」
「ヘリオス君は?ヘリオス君は帰ってきましたか?」
「ああ、帰って来たぜ。確かアイリスが亡くなって暫くしてからだったな。嫁と子供連れて帰って来て、セレネに怒られてたな」
「と言う事はマルス君は直系か・・・弱いな、まだ何か・・・・・」
「う~ん・・・そういやセレネの奴が時々変な事言ってたな。闇がどうとかなんとか・・・・・」
「闇が?・・・・・フォルマさん、私の事はもう暫く内緒にしておいて貰えますか?」
「何でだよ!っと・・・・・理由は?納得出来る理由を教えてくれよ」
「見極めたいんです。その闇がパンドラさんの事なのかどうかを。尤もその時がくれば私ではどうする事も出来ないのでしょうけど」
「・・・解ったよ・・・・・けど、二人きりの時は良いだろ?あたいはパンドラが転生者だって知ってからお前も何時か生まれ変わるんじゃないかってずっと探してたんだからな!」
「済みません・・・長い事待たせてしまった上に我儘を言って。こうして二人きりで呑む時なら大丈夫でしょう。昔話に花を咲かせるのも悪くないですし」
「言質は取ったぜ。今更無かった事にはさせねぇからな?」
「私を誰だと思ってるんです?『ハンス商会会頭』が約束を違える事は有りません。って、フォルマさん?!」
「クックックッ・・・長い事待たされたんだ、逃がしゃしねぇよ・・・・・観念して大人しくしてな、悪いようにはしねぇからさ」
「ちょっ、それは男の方が言う台詞で・・・あっ・・・・・あ―――」
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「おはよう御座います。お嬢様?大丈夫ですか、具合が良く無いようですけど」
「・・・おはよう御座いますマルス様・・・・・その、何か・・・良く無い夢を見たような気がして・・・・・」
「夢ですか?・・・体調が優れないのでしたら休んでいた方が良いかと思いますが」
「そう、ですね・・・失礼します・・・・・」
自室へと戻って行くお嬢様を見送ってから食堂へと足を運んだ。明日からのお嬢様が楽しみにしていた収穫祭だし治ると良いな。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




