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「さて、何処から話すか・・・そうだな、其方はこの地に来て不思議に思った事が有るであろう?遠慮無く話してみるがいい」
「そうですね、では遠慮無く。先ず最初に水路の無い畑に、そして領主の伯爵様が住むには武骨過ぎる館と何一つ装飾の無い庭に違和感を覚えました」
「で、あろうな。では、作物には必須の水をどのように調達していると思う?」
「魔導具で地下水を汲み上げている位しか思いつきません」
「では、この館と庭については如何だ?」
「ん?畑の魔道具と何か関係が有るのでしょうか?僕は館は防衛のための要塞で、庭は領民の避難用に空けてあるのだとばかり・・・・・」
「良い推察だな。もしだ、遥か昔に周囲の畑を含めたこの領都の地の全てが中央に巨大な湖を頂く窪地だった。と言ったら其方は信じるか?」
「え・・・・・まさか!この街や畑はその湖の上に作られたと言うのですか?!」
「クックックックック・・・・・そうだ、この街の下には湖を含めた広大な空間が広がっておるのだよ。正確な年数は失伝してしまっていて解らんが、話は今から約千年程前に遡る・・・・・」
当時この周辺は何処の国にも属していなかったと、領主様は遠い目をして語り始めた。
建国して間もないブランデル王国は北と東にある王国の脅威に怯えながら逃げるように南へとその版図を広げ始めた。
「国力の低い新興国にはそれしか生きる術が無かったのだ」
東の王国が積極的に攻めて来る事は無かったため南部への探索隊を幾度となく送り、街道を南へと伸ばして行く。北の王国からじりじりと攻められて王都も南へと、現在の位置へ移転し、攻めきれなかった北の王国と一時停戦となった時だった。
「東の国境を越えて百人程の傭兵を名乗る一団が現れたのだ」
彼等は東の王国では自分達の要求が通らなかったので敵国であるブランデル王国へと来たと言う。
彼等は安住の地を探していると言い、自分達に領地を与えてくれるならば忠誠を誓いその地を守り続けようと言った。
国王は彼等を南へと送り、現在のロードルデルフとの境までを国土とした後、更に彼等を西へと送った。
魔物を倒し、木を切り倒して街道を西の海岸まで伸ばし終えて王都へと向かう彼等を待っていたのはブランデル王国軍だった。
二千対百と言う圧倒的な戦力差で襲い掛かる王国軍を迎え撃つ傭兵団。誰もが王国軍の勝利を疑わなかった。
だが、結果は違った。
勝負は一瞬で着いた。
「傭兵団の一人が放った強大な魔法が大地を抉り、王国軍を陣地ごと消し飛ばしたのだ」
「その跡地がここ・・・・・」
「うむ。傭兵団はそのまま姿を消し、二度と現れる事は無かったと言う。一説には南の山脈へと入って行ったと言われておるが定かではない」
それ以来この地は強大な魔力にさらされたせいで魔物はおろか草木の生えない不毛の地となって放置されていたのだそうだ。似たような場所をここに来る前に見たな。あそこは草原になってたけど。
「王国軍の大半を失い開拓も進められなくなった我が国は荒れた。陛下は責任を取らされ退位し、身分を伯爵に落とされ城に軟禁状態となり、その十年後、息子がこの地の開拓を命じられたと言う訳だ」
「えっ?!と言う事は領主様は・・・・・」
「そうだ、初代ブランデル国王の直系と言う事になる。それ故未だに謀反を企てている等と馬鹿げた事を言う者が後を絶たんのだ」
「あ、もしかしてデカルド様が僕を疑ったのって・・・・・」
「ああ、子供達には幼少より言い聞かせておるので過剰に反応してしまったのだ。言い訳にもならんが・・・・・」
「その件はもう・・・・・それにしても窪地の湖の上に街を作ると言う発想には驚きました」
「当初は窪地の周辺に畑と村を作る所から始めたのだが、畑が広がるにつれ水を汲み上げる魔導具が有るとは言え効率が悪くてな。ならば真上に街を作ってしまえ、と言う訳だ」
ちょっと雰囲気が悪くなったので無理やりだけど話を戻して領主様の昔話の続きを聞いた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




