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食後のデザートとして出て来たのは皮を剥かれ種を取り除きスライスしたオレンジ色の果物だった。杏かな?
「さあマルス殿、遠慮せずに食して感想を聞かせてくれ」
勧めてくる領主様と笑顔で僕を見るお嬢様。でも僕はその果物の乗せられたお皿の隣に置かれたお茶の方が気になっていた。
「如何された?何か気に入らぬ事でもあったのか?」
お茶から微かに香る違和感・・・これって・・・・・
「皆さん動かないで下さい。領主様、少々失礼します」
領主様に断りを入れて席を立ち、全員のお茶の匂いをかいで回った。
「な、なんだ?何をしているのだ?」
「父上のお気に入りだからとは言え無礼にも程が有るであろう!」
「マルス様?一体何をして・・・・・」
「何かあったのですね?遠慮なく申して下さい、マルス様」
「うむ、其方がそのような険しい顔をするなど余程の事であろう?遠慮はいらん、申してみよ」
「・・・良かった・・・・・僕のだけみたいだ・・・・・」
「何だ?其方のだけ・・・・・まさか!」
「・・・僕のお茶におそらく毒が盛られています・・・微量ですが間違いないかと」
「ボーロ!直ぐに屋敷を閉鎖せよ!誰一人として逃がすでないぞ!!」
「ハッ!直ちに!!」
「ヒギンス!館中の使用人全てをここに連れて参れ!!」
「は、はい!畏まりました!」
あ・・・今の遣り取りと表情で犯人が解ったけど・・・・・
「申し訳ありません領主様!失礼します!!」
テーブルに置かれた毒入りのカップを収納に仕舞って食堂を駆け出し一番近くの窓から外へと飛び出した。
「待て!何処へ行く!!」
「マルス様!!」
僕を呼び止める領主様とお嬢様の叫び声を背に、僕は壁を駆け上がり夜の街へと身を隠した。
犯人は間違いなく次男のデカルド様だ。犯行の動機は解らないけど、ヒギンスさんを使って僕の監視をしていたのも彼なのだろう。僕が毒を盛られていると言った時の彼の青ざめた表情が全てを物語っていた。
領主様に詰問されればヒギンスさんが喋ってしまうかもしれない。でも証拠が無ければ上手く誤魔化してくれるかもしれないし、僕が逃げた事で僕が嘘をついたか勘違いしたと思ってくれるかもしれない。
領主様に自分の息子を罰するなんてして欲しくなかった。だから僕は証拠を持って逃げた。
もう領主様に会うのはやめよう。明日の朝一で組合が開くと同時にトロールとオーガを預けてこの街を出ようと、裏路地を組合のある北へと向かった。師匠の名に傷が付いちゃうかもしれないな・・・如何謝ったらいいのだろうか・・・・・
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「飯時に済まねぇな」
「如何した、フォルマ。お前がうちに飯食いに来るなんて珍しいじゃねぇか。ライエルの味に飽きたか?」
「飯食いに来た訳でも飽きた訳でもねぇよ。この時間なら確実に屋内に居るだろ?だから来ただけだ」
「なんだ?屋内じゃなきゃ拙い事でも有んのか?」
「ああ、屋外で渡したらパンドラに見つかっちまうからな」
「パンドラ?ん?何だそりゃ?俺は本なんて頼んだ覚えはねぇぞ?」
「以前パンドラの事聞かせて欲しいって言ってただろ?こいつにあいつが転生してから国を立ち上げた頃の事が記されている。あいつにバレないようにしろよ、見つかったらあたいが怒られちまうからよ」
「・・・・・ふぅ~ん・・・『光と闇の偉業』ね・・・筆者は日本人か・・・この玄田ってのは信用出来んのか?」
「ああ、当時パンドラに関わった日本人の中じゃ一番信用出来る」
「解った。後で読んでおく」
「今更かもしれないが、それを読んだらお前の性格じゃ後戻り出来なくなるからな」
「ハッ!ほんとに今更だな。とっくの昔に手遅れだろ。でも何で俺に教える気になったんだ?」
「フゥ・・・・・アレスが・・・もう長くない・・・・・」
「なっ!・・・・・解った、心しておくわ・・・・・」
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商業組合の裏の倉庫の隅に身を隠して日の出を待つ間、魔力操作の訓練をした。
師匠のように完全に魔力を隠せるようにならないとと、魔力を抑えていたら隠蔽魔術が切れて獣人の姿に戻ってしまって慌てて掛けなおした。
近くに人が居なくて良かった・・・また新種の魔物扱いされたら騒ぎになって見つかっちゃうじゃん・・・・・
ここまで読んで頂き有難う御座います。




