02
ベックさんにせかされてアインさんの冷たい視線を浴びながら鞄から獲物を出して行った。
「・・・・・なぁ、隊長さんよ・・・今更なんだが、俺はこの坊主よりヤバいもんに気が付いちまったぞ」
「奇遇だな、ベック。私も気が付いてしまったぞ・・・まさかこんな物がこの世にあるなんて思いもしなかった・・・・・」
冷蔵庫一杯に広がった土竜、猪、熊、鹿、蜥蜴が各十匹から三十匹に加え、蟻と蜘蛛に狼も同じ位あるから驚くのは無理もないんだけど、二人の視線は魔物の山よりも僕の左手に下げられた鞄に向いていた。
「と、兎に角だ、こんなに買い取れねぇからサンダーボルト十匹だけ残して仕舞ってくれ」
「あ、はい」
ええっと、サンダーボルトって鹿の事だったよね?
「ちょっと奥の金庫に金取りに行ってくるわ。隊長さん、暫く頼む」
「ああ・・・さて、少し話を聞かせて貰おうか、マルス」
「はい・・・・・」
何を、と言うか、色々聞かれるんだろうなぁ・・・嘘は付きたくないけど全部話す訳に行かないし。
「先ずは何処から来た。それとこの町に来た目的から答えて貰おうか」
行き成り一番答え難い処から来たよ・・・まいったなぁ・・・・・
「何処からかは答えられません。多分理解出来ないと思いますから。目的は偶々この町が一番近かったからとしか言えません」
「ふむ・・・嘘は言っていない、か・・・では、その鞄は何処で手に入れた?今出した物以外にも入っているのだろうし相当な容量だ。子供が、いや、王侯貴族の持ち物でもおかしくない代物だぞ」
参ったな、この人真贋系のスキル持ってるみたいだ。嘘所か言い回しにも気を付けた方が良いかも。
「この鞄は旅の餞別に貰った物なんです」
「では、その旅の目的とは何だ?それ程の物を与えられる身分の子供が一人で旅をする等考えられん」
「理由、ですか・・・僕は、この上着をくれた人、師匠を超えたい、唯それだけなんですけどね・・・・・」
「あれだけの魔物を一人で倒したと言う君の話に嘘は無いが、君が越えたいと言うその師匠とは何者だ?」
「真羅流継承者ジン・マキシマ。人のまま人を超えた地上最強の武術家です」
「地上最強?それ程の者なら名前位はこの辺境に届いてもおかしくは無いのだが・・・・・何処か別の大陸か?・・・いや、だとしても・・・・・まさか!君の目的とは王都で開かれる武道大会か?!」
「です」
「馬鹿を言え!開催まで後一月しかないのだぞ!今から行って間に合う筈が無い!それに、出場の登録も締め切られて―――」
「出場が目的じゃないんですよ・・・僕が狙っているのは大会の覇者、この大陸最強と言われている男、唯一人です。間に合う筈の無い短い期間と勝てる筈の無い相手。無理と思われる全てを覆し勝利する。それ位軽く熟さなければ師匠の相手なんて夢のまた夢なんです」
「マルス・・・君は一体何者なんだ・・・・・」
「真羅流師範マルス・ガーランド。守護者の血と英雄の技を受け継ぎし者です」
「・・・ぉ・・・あっ・・・・・」
僕の放った覇気に負けてアインさんが腰の剣に手を掛けて下がって行く。こんな脅すような真似はしたくなかったんだけど、来て早々捕まる訳にはいかないし勘弁して貰おう。おっと、ベックさんが戻って来た。
「待たせたな坊主・・・って、如何したんだ?隊長さん」
「い、いや、問題無い・・・何も、な・・・・・」
「・・・まぁいいか。それ坊主、代金だ。一頭金貨十枚で合計金貨百枚分入ってる。銀貨や銅貨も混ざってるが金貨だけだと使い難いだろうしな」
「お気遣い有難う御座います。それじゃアインさん、宿屋に案内して貰えますか?」
「ああ、解かった。ベック、この事は―――」
「他言無用、だろ?解ってるって、坊主の事も、その鞄の事も誰にも言わねぇよ」
「有難う御座います、ベックさん。またこの町に来る事が有ったら必ず伺います」
「いいって事よ。うちも儲けさせて貰ったしな」
ベックさんの店を出てアインさんに宿屋まで送って貰った。
「あの・・・色々すみませんでした」
「いや、君の言葉に嘘は無かった・・・が、少々疑問が有る。明日、もう一度時間をくれないか?会って欲しい者が居るので朝食後に迎えに来る」
「解りました。ここでお待ちしています」
アインさんと別れて宿屋に入った。一泊二食付きで銀貨二枚って高いのか安いのか解らないけど、ベッドで眠れるだけで十分だった。色々あって疲れたしね。
ここまで読んで頂き有難う御座います。