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気が付いたらテーブルに突っ伏して寝ていた。顔を上げると目の前に置かれた皿の上に乗せられた肉野菜炒めの向こうに鼾を掻いて眠るブルートさんが見えた。
「幾ら何でもこんなに頂けませんから」
「いいから受け取ってくれって、また来た時の前払いって事でいいからさ」
「だとしても多すぎますから」
何かパンドラさんと女将さんのやり取りが聞こえる。どうもパンドラさんが大金を押し付けようとしているみたいだ。
「おはよう御座います」
「おう、おはよう」
「おはよう、今朝食を用意するわね」
「兎に角受け取ってくれよ、何なら投資って事でこの宿の改築費に充ててくれればいいからさ。そうすりゃ従業員も雇えるだろ?」
カウンターの奥に入り、朝食の準備をする女将さんにしつこく大金を押し付けようとするパンドラさん。その袋の大きさからして中身が金貨なら千枚位あるでしょ。そんなの怖くて受け取れないと思うけど?
「それは―――」
「ちょっとまったあああぁぁぁ!!」
「え、ブルートさん?」
突然ブルートさんが起き上がり、静止の声を上げて女将さんの元へと歩いていき
「女将さん・・・いや、レイナ・・・俺と結婚してくれ!!」
これまた突然プロポーズをした。
「「「「「えっ?!」」」」」
「初めて会った時から七年、ずっと好きだった・・・あんたが亡くなった旦那を今でも愛している事も知っている・・・・・だから冒険者として成功するまではと躊躇してた。改築費は俺が出す。従業員はこいつ等を雇うって事で話はついてる・・・もっともあんたが頷いてくれればの話だけどな」
「お、おい、ブルート、商売始めたら従業員にってここでって話だったのかよ」
「結婚するとか聞いてないし」
「あたいは商店でも開くんだと思ってた・・・・・」
「まだ決まって無かったんだからしょうがねぇだろ!こまけぇこたぁ気にすんな!レイナ、俺は冒険者としての先は見えた・・・金も自分の力で手に入れたもんじゃねぇ・・・でも、それでも、あんたとこの宿を守る位の力は手に入れた・・・だから、だから俺と結婚してくれ!!」
「・・・・・・・・馬鹿・・・あんたがこの宿をずっと守ってくれてた事位知ってるわよ・・・・・いいのかい、三十過ぎたおばさんなんかで」
「良いに決まってんだろ、俺にはお前以上の女なんていねぇよ・・・寧ろ、遅くなっちまってすまねぇな」
カウンターの向こうで涙ぐむ女将さんを抱きしめるブルートさん。なんか凄い現場に立ち会ったな。
「お、おめでとう御座いますブルートさん!」
「クックックックックッ・・・ハハハハハ!!気に入った!!あんた最高だぜブルート!!こいつは俺からのお祝いだ!受け取れえええぇぇぇ!!」
突然笑い出し、叫び声をあげたパンドラさんの身体から闇が噴き出し周囲の全てを覆っていく。何する気だよこの人?!
「うわあぁぁ!!」
「きゃああぁぁぁ!!」
「パンドラさん何を?!」
「なんだ?!何も見えねぇ!」
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闇が晴れるとそこに居た人達は呆然と固まっていて、僕は頭を抱えて項垂れていた。
石積の土台に木製の三階建てだった建物は如何見てもコンクリート製に変わっていて、目に見える範囲の物で変わっていなかった物は見当たらなかった。やりやがったよこの人・・・・・
「取り敢えず六階建てにしといたから後で確認してくれ。ブルート、また来るその時までここを守ってくれよ」
「え・・・・・あ、ああ・・・あんた一体・・・・・」
青褪めた顔で困惑するブルートさんの問いにパンドラさんは懐からファントムマスクを取り出した。ちょっ!正体ばらしちゃうの?!
「クックックッ・・・俺か?俺はこう言う者だ。マルス、帰るぞ」
「は、はい!皆さんお元気で!」
「あっ、あんたはかみ―――」
慌ててパンドラさんの隣に並び、皆に別れの挨拶をした。ブルートさん達の驚愕の表情を最後に僕の初めての修行の旅は終わり、転移で着いたのはパンドラさんの家の前だった。
「ちょっと話がある・・・のはお互い様だな。まぁ入ってくれ」
「はい」
「お帰りなさいませお兄様、マルス様」
「おかえり~」
家に入るとディアナさんとミネルバさんに迎えられ、入った事の無い奥の部屋へと通された。三十枚以上のディスプレイや何に使うのか解らない機材が並んだ異様な部屋で、僕はパンドラさんと向かい合って座った。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




