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「アレス様は純粋な魔族ですから、誰も四百年以上生きるとは思っていませんでした。ライラ様とタニア様が亡くなられた時はまだ良かったのです、パンドラ様に近しい者が沢山居りましたから・・・・・でも今は私を除けばアレス様とフォルマ様位でしょう?彼女はハンス様に、タニア様はパンドラ様に操を立ててしまって子を成していませんし、アレス様の子孫は途絶えてしまいました。そして貴方達ガーランド家と同様にシライやハーグス、ワイズメル家と言った建国当初から続く家系の者も変わってしまいました・・・・・」
「変わった?うちは代々役場の事務員だって父に聞いてますけど・・・・・」
「長い年月を経て我々の『彼を支える』と言う役目が『国を支える』に変わってしまったの。彼が国政に関わらなくなってから徐々に・・・ね」
「・・・・・それで、アレスさんが亡くなった場合パンドラさんは如何なるんです?」
「おそらくは・・・引き籠るのでしょうね・・・・・」
「え?それだけですか?」
なんだ、自棄になって暴れ回るのかと思って心配しちゃったよ。
「ええ、それだけでしょうね・・・暫くは」
「暫く?」
「彼が初めて引き籠った時は復活するまで一年以上掛かったと聞いています。それも、ライラ様が居てです。心を閉ざした彼を奮い立たせる事の出来る者が居なければ・・・彼は〝人の心〟を失うまで引き籠るでしょうね」
「人の心を失う・・・それって・・・・・」
フォルマ姉さんが以前言ってた『毒』って奴か・・・・・
「その時はディアナ様やミネルバ様と言った他の精神生命体を率いて〝神〟として星界に君臨するでしょう。人々から見れば〝悪魔〟以外の何物でもありませんが」
「そ、そんな・・・・・」
「その時が来ればフォルマ様や私の事など意に返さないでしょう。本人もそれが解っているから貴方を育てているのです。自分が唯一娘と呼んだライラ様とその夫のケント様の姿を受け継いだ貴方に二人と同等かそれ以上の〝力〟を付けて貰い、万が一が起こらぬように、起こってしまった時は自分を止められるようにと」
僕に師匠の事を教えたのも師匠と会わせるため?会わせてしまえば僕が師事するだろうと予想して?
「今直ぐの話ではありませんし、その時が来た時私達は既にこの世にいないかもしれません。ですが、今のままでは確実にその時が訪れます。私達『ハンス商会の意思』は幾つかの星に移住しパンドラ様の友となれる方を探してきましたが・・・・・他所から探すと言うのは時間が掛かり過ぎるのです。それに・・・人族の寿命は短いですからね、必要な時にその方が生きているとは限らないのです」
「だから・・・僕が選ばれた?」
「ええ。ですが貴方にも選ぶ権利が有ります。私達にも、パンドラ様にも強制する事は出来ません。本来ならパンドラ国国内に見つかれば良いのですけど・・・あの、歪な平和が支配する国では彼の御眼鏡に叶う者が育つ事は無いのでしょうね」
あの国にパンドラさんと並び立つ存在がこの先生まれる事は無いだろう。僕でさえパンドラさんが師匠と引き合わせていなかったらその資格は無かったのだろうから。
「私から言える事は以上です。後はご自身で判断して下さい。それと、これを」
「本・・・ですか」
「建国以前、パンドラ様が『箱庭』と呼ばれたあの星に現れてから成されてきた全てが記されています。お読みになる際はパンドラ様の〝目〟の届かぬ屋内でお願いしますね。彼に見つかれば処分されてしまいますから。まぁ、写しは幾らでも有りますけど」
手渡された分厚い本の表紙には『玄田 武士著:光と闇の偉業』と書かれていた。聞いた事の無い名だけどこの本の筆者もパンドラさんの関係者なのだろう。
「貴方は今日、自分が何者なのかを知りました。そしてその本を読む事でパンドラ国の民が忘れてしまった真実の歴史を知るでしょう。後は貴方が選ぶのです、名実共に『ガーランド』の名を継ぐのかどうかを」
僕はその問いに答える事が出来ずに項垂れて宿へと帰った。夕食に誘ってくれたブルートさんに食欲が無いのでと断りを入れて部屋へと入りベッドへと倒れ込んだ。心配そうな顔をしたブルートさん達に気が付く事も無く。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




