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精神生命体と対峙しつつも僕は自分に腹を立てていた。修行のためとは言えパンドラさんに頼んだ事を、そして疑いも無く彼の言う通りにここへ来た事に。
「・・・ハァ・・・ほんと、馬鹿だよな・・・俺・・・・・」
「ハッ!今更何を言っても遅いわ!貴様だけは許さんぞ!!」
勘違いした彼の膨大な魔力が上空に収束して行くと同時に俺は魔力と〝本能〟を開放した。
「煩せぇんだよ!!てめぇみてぇな奴が居るから俺が出張る羽目になったんだろうが!!」
「グハッ!ギャアアアァァァ!!」
それは唯の八つ当たりだった。奴の魔法が放たれる前に殴り飛ばし、蹴り転がし、気が晴れるまで痛め付け続けた。
静まり返った闘技場で俺が奴を殴る打撃音だけが響き渡る事三十分。ボロ雑巾のようになって足元に転がる奴の背中を踏みつけて上空を睨みつけた。
「何時まで傍観者気取ってんだ!!とっととこいつを回収しやがれ!!てめぇの仕事だろうが!!」
ふざけやがって・・・俺はあんたの手伝いをするために旅に出る事を決めた訳じゃねぇぞ。
上空から光の柱が下りて来て俺の足元に転がる奴を包み込むと奴は上空へと昇って行った。
「・・・・・だ・・・だずげで・・・・・じ、じにだぐない・・・だ、だれか・・・・・」
「ハッ・・・知らねぇな。向こうであいつに命乞いしてみりゃいい。聞いちゃ貰えねぇだろうけどな」
「・・・・・い・・・嫌だあああぁぁぁぁ!!死にたくない!!死にたくな―――」
奴は断末魔の叫びを残して光の柱と共に消え、僕は魔力と本能を身体の奥へと押し込んだ。はぁ・・・落ち込んでる暇はないか。
「今見て貰った通り、あいつは国王の振りをしていた偽物だと解って貰えたと思います。大変かと思いますが、早急に次の国王を決めて可能な限り国民の混乱を防いで下さい。それと・・・貴方は知っていましたね?国王が偽物だったって事を」
「あ・・・いや・・・・・」
「衛士の皆さん、彼を捕えて下さい。偽物の国王とどのような取り決めが有ったのかは知りませんが、間違いなく不正な利益を得ていたでしょうから」
「ゴルドラン!国家転覆の容疑で捕縛する!!大人しく裁きを受けよ!!」
ロールズさんの号令で衛士達が大会の覇者ゴルドランを取り囲んだ。ゴルドランは観念して大人しく捕縛されて連れていかれた。
「マルス君、この国の危機を救ってくれて有難う。心から礼を言う」
「・・・貴方も国王が偽物だと知ってたんですね?そして僕を利用した。違いますか?」
もっと警戒するべきだった。何処の誰とも解らない僕を警備対象の建物の中で自由にさせていたのだから。
「私の任務はこの国を護る事だ。その為ならば何だってするさ。君は違うのかい?」
その問いに僕は答えられなかった。師匠を超えるため、修行の旅に出るためにパンドラさんの力を借りた僕には『違う』なんて言えなかった。
ロールズさんに背を向けて闘技場を後にした。僕の最初の修行の旅は一応の決着はしたけど、何とも言えないもやもやとした気持ちを残したまま王都を出て北へと向かった。
とぼとぼと街道を歩き、ノルドの町に着くまで魔物の襲撃も無く、自分の未熟さに改めて考えさせられた。にしても、行きの襲撃はやっぱりパンドラさんの仕業だったか。
ノルドの町の南門が見えてきた。のんびり帰って来たからスタンピードから七十日は経っているし、町も落ち着いているだろう。と思っていたんだけど、やたら鐘が鳴らされているし、町が近づくにつれ喧噪も聞こえてきた。
「マルス!!良く帰って来たな!待ってたぜ!!」
「全員道を開けろ!!この町の英雄のご帰還だ!!邪魔すんじゃねぇぞ!!」
「マルス君お帰り!!待ってたわよ!!」
南門から真っ先に出てきたのはブルートさん達だった。彼らに囲まれ町へと入ると大勢の住民と衛士達が道の両脇に並んで出迎えてくれた。
「なんで・・・もう随分前の事なのに・・・・・」
「ばっか、お前の事忘れる奴がこの町にいる訳ねぇだろ」
「そうそう、なんたって救世主様だもんね」
「そんな恩知らずの奴がいたら俺らがぶん殴ってやんよ」
自然と涙が零れた。改めてこの町に来て良かったと、心の底からそう思えた。
「・・・グスッ・・・皆さん・・・有難う御座います!!」
「クックックッ・・・ほんっとそう言う所はまだまだガキだよな」
ブルートさんの言う通りだ。皆伝を取って一人前になったと勘違いしてた。師匠やパンドラさんに敵わないのも彼等が凄いからだけじゃなく、僕自身が子供で精神的、肉体的に未熟だからなんだと、袖口で涙を拭いながら素直にそう思えた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




