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※本作品は私の別作品「転生木箱の復讐道」と「ジン君は平穏に暮らしたい(自分基準)」のスピンオフ的な作品となっております。
より楽しみたい方は両作品をお読み下さい。
朝起きて食事を摂り、習い事をして昼食を摂る。午後からは友人達と遊び、夕食を摂って眠りに就く。そんな平穏で平凡な、当たり前で普通な日常を自から捨てる事を選んだ。
それまで感じた事の無い〝敗北〟の辛さを二度と味わいたくなくて〝力〟を欲し、この道を歩き始め、続けるための、頂を目指すための〝理由〟を探し始めた。
でも、それは言い訳でしかなく、自分の中に眠るもう一人の自分、〝本能〟に抗えず突き動かされているだけだと気が付いたのは旅を始めた初日だった。
僕は―――
僕は貴方の様には成れないかもしれません。
だから僕は貴方とは別の形で貴方を超えて見せます。
師匠―――
*
*
*
「あ~もう、あいつ等がしつこいせいでもう直ぐ日が暮れちゃうよ・・・まいったなぁ・・・宿屋・・・あいてるかなぁ・・・・・」
山裾の森の中を街道を目指して走り続けた。あの人の言う事が正しければ方角は間違って無い筈だ。
「ハァ・・・確かに厳しめの所って言ったけどさ、行き成り山の中は無いよなぁ・・・・・あ、良かった、街道が見えてきた。そこを西だから右に曲がれば町に着く筈」
森を抜けて街道に出て右に曲がり暫く走ると石積みの壁と木製の門が見えてきた。夜になると門を閉めるって聞いたし、閉め出されては敵わないと走る速度を落とさずに門へと向かう。
「ハァ、良かった。これで野宿しなくて済みそうだ」
「止まれ坊主!お前一人か?親は如何した?」
門に近づくと両脇に立っていた兵士に止められ声を掛けられた。
「はい、僕一人ですけど、何か?」
「ふむ・・・家出か?それにしては着ている物が・・・まあいいか。町に入るなら入町税か身分証が必要だ。身分証がないなら大銅貨一枚払ってくれ」
「ええっ!?あ、あの・・・どっちも無い場合は・・・・・」
そんなの聞いてないよ・・・態とだ・・・知ってて教えてくれなかったに決まってる。野営道具や食料とか色々持たせてくれたのに、ここの通貨は用意してくれなかった。『金位自力で何とでもなるだろ、狩りでもすりゃ良いんだし』なんて言ってたし、山の中に放り出したのもそれでか?!
「はぁ・・・規則だからな、入れる訳にはいかん。が、一人でここまで来られたと言う事はだ、途中で魔物を倒さなかったか?皮や牙、爪でもいい、持っているならそれを売れば金になる。背中の鞄の中に有る物で売れる物があるなら買い取ってくれる所に連れて行ってやるがどうする?」
「お、お願いします!ここまで来て野宿とかしたくないですから!」
「解った。直に閉門になるからそれまでそこで待っていろ」
門番さんが門の内側を指さしたので、僕は門を潜り邪魔にならないように石壁に背を預けて座った。
「有難う御座います。助かりました」
「気にするな。お前のような者も少なくないからな・・・私達が多少の融通を利かせる事で救えるならば、それも我等兵士の役目になる」
「素晴らしい考え方だと思います。でも、本当に良いんですか?後で叱られたりしませんか?」
「ああ、問題無い。私がここの責任者でもあるし、何より町長も同じ考えだ」
「いい町なんですね。長く滞在は出来ませんけど、きっと忘れる事は無いです」
「行く当ては有ると言う訳か。なら良かった、多少でも縁の有った者の行く末を案じる事の多い職業なのでな。それが子供なら猶更だ」
「あ、申し遅れました。僕はマルスって言います。良かったらお名前を聞かせて貰えますか?」
「私か?私の名はアインだ。ようこそ大陸最北の町『ノルド』へ、マルス君」
夕暮れの中、顔を見合わせ笑みを溢す。僕の長い長い旅はこうして始まった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。