自称霊能者
5年生のクラスは2クラスあった。その2クラスあるうちの5年2組には『自称霊能者』と呼ばれている高橋一郎と言う男子生徒がいた。
先日…彩未が突然、知らない生徒の身内の不幸を知らせに行った事に対して、高橋一郎は不機嫌そうに答える。
「たまたま、その生徒の処に虫の知らせが届いたのだろう」
小さな小学校でもある為、噂は直ぐに学校中に広まる。そして…職員室でも噂は聞こえていた。
青野先生の隣に座った女性職員が青野を見て言う。
「貴方のクラスに転校して来た子、何か…凄い霊感がある見たいですね。今、学校中で大騒ぎになっている見たいですよ」
転校前に彩未は青野に自分は霊感が無いとか嘘を言って、自分の事は内緒にして欲しいと…言っていたが…新学期初日に既に学校中の話題の渦を作っている事に青野は気付いていた。
「多分…こうなるだろうとは思っていたけど…それにしても早かったな…」
「何か…?」
「あ…イヤ、別に…」
青野は職員が入れてくれたお茶を飲んだ。
一週間もしない間に新しい学校で彩未を知らない生徒は居ない程まで有名になった。
それと同時に当初の目標だった、普通の女の子として通うと言う悲願は早くも崩れ去った。
教室では何時の間にかクラスの人気者になった彩未は、同じクラスの女子から色んな質問責めをされる。
「ねえ、やっぱり見山小の霊感の強い子って、彩未ちゃんの事でしょう?」
「多分…違うと思う、私は皆が思っている程霊感強くないし…多分別人だと思うわ」
もはや苦しい言い訳にしか聞こえなかった。
霊感があると分かると男子達からも興味が湧き、ある男子達が心霊写真かもしれない写真を持って来る。
「ねえ、この写真を鑑定してよ、変なのが写っていると思うのだけど…」
「ごめんなさい…私は、そう言うの苦手なの…」
と、口では言うが…チラッと見た時に、霊の存在を感じた。
危険性は感じなかった。多分…浮遊霊か、守護霊と言った意味での写真である。
教室で話をしていると、隣のクラスの生徒が入って来るのを皆が見た。
「あ…高橋君だ…」
皆は一際体格の大きい生徒に目線を送る。彼は彩未を見付けると、一直線に彩未の所へと来た。
「お前、転校生だよな」
「はい…」
「随分、学校で偉そうじゃないか、そんなに自分の霊感体質を自慢したいのか?」
「いえ…そう言うつもりは無いですが…すみません…」
「この学校では、俺が1番霊感があるんだ。あんまり目立つ行動は控えてもらいたいね」
彼の言葉に周囲の女子が不満を感じ口を出して来た。
「失礼だけど…一郎君ちょっと勝手過ぎ無い?別に彩未ちゃんは偉そうなんかして無いわよ。むしろ…大人し過ぎる位よ、貴方の方こそどうかと思うわよ」
そう言われて高橋一郎が周囲を見渡すと周りは自分に対して険しい表情をした目で見られている事に気付く。
「え…と、出来るだけ目立った行動は控えて欲しいな、それじゃ…」
そう言って彼は教室を出て行った。
次の日に、彼は封筒を持って彩未の所に現れた。
「お前が、どの位霊感があるか、ちょっとこれで試してやるから中を見て鑑定しろ」
高橋は封筒を彩未の机の上に置く。彩未は高橋を見て封筒に視線を向けた。彩未にとっては封筒を見るまでも無かった…。既に今日、学校に来てから強い違和感を感じていた。誰かが良く無い物を学校に持ち込んで来ていると…そう感じていたからだ…。
封筒の中身のうち、数枚はかなり…悍ましい物であり危険性がある、残りはそれ程危険性は無い。彩未は左肩が疼き左腕を摩っている。
「ごめんなさい…私はこう言うの苦手で、見たく無いのです…。それに見ても多分…分からないと思うので…」
愛想笑いしながら言う。高橋はほくそ笑んで封筒を取り上げる。
「何だ大した事無いな」
と、言って教室を出ようとする。その時、彩未が高橋に言う。
「あの…高橋さん。あなた霊能者なら、心霊写真は処分するか供養するべきでは無いでしょうか?姿無き者は自分の存在を示す為に、あらゆる場所から現れます。それが写真やカメラに写る事があり、時には危険な怨念さえ写し出してしまうのよ。封印…もしくはお祓いを済ませず持ち歩く事は、自分の身を危険に晒すだけで無く、周囲の人にも影響を与えてしまいます。安易な行動はなるべく慎んだ方が良いと思いますよ」
高橋はそう言われて
「分かった…気を付けるよ」
と、答えて教室を出て行った。
彩未がどれ程の霊感があるのかクラスの人達も皆は興味を持っていたが…それが披露させて貰えず、少し期待が薄れてしまい落胆していた。
その日の午後…教室の掃除をしている時だった。彩未は教室の清掃中にある一枚の写真が落ちているのを見付けた。同じ年頃の女子達が数人写っている写真だった。背景には海が見え周辺は木々が生い茂っている場所での写真だった。彩未は写真をジッと見ていた。それに気付いた女子が声を掛ける。
「あ、それ由佳ちゃんが旅行に行った時の写真だよ」
「どうして…」
彩未は震えながら言う。
「え…?」
「なんでこんな場所に行ったのよ」
「え…これが心霊写真なの?」
「幽霊が写っているから必ずしも心霊写真と言う訳では無いの、これは危険な場所に入って撮った意味での心霊写真だわ」
見た目は普通の写真であったが…彩未から見れば危険性のある写真だった。彩未が何か異変を感じたとなると、クラス中の生徒達が清掃を中断して詰め掛けて来た、そして写真の持ち主の由佳も現れた。
「私の旅行写真に何か写っているの?」
「写真を撮った時に危険の看板とか無かった?」
「ああ…あった、でも…景色が綺麗だったから、それを無視して中に入っちゃったの」
「1番右側に写っている子、宮下由理って子とは、その後連絡とかした?」
「え…ちょっと、どうして私の親戚の子の名前知っているの?」
「彼女の悲鳴が聞こえて来るの…急いで連絡してあげて、彼女は今、大怪我をしている筈だから…」
「分かった、今日家に帰ってから電話をするわ」
クラスの生徒達が皆驚いた。彩未の未知なる霊感を直に見て誰もが関心を抱いた。
「高橋君の心霊写真の鑑定なんかよりも、ずっと凄いね」
「やっぱり本物は言う事が違うね」
見ていた生徒が言う。その言葉に気付いた彩未が、周囲に人だかりが出来ている事に気付き、恥ずかしながら清掃するフリをした。
翌日…由佳は気落ちした表情で学校に現れた。本人の話だと彩未の言った通り親戚の宮下由理は事故に遭って大怪我をしていた。それ処か彼女は事故で次に控えていたフィギュアスケートの大会に出れ無くなってしまって、かなりショックを受けているとの事だった。
由佳の両親も…由佳が学校から帰ってから言うまで、親戚の子が事故に遭った事を知らなかった…。事故もその日の早朝に遭ったらしい…との事だった。