新学期
〜新学期
彩未は元気に学校へと行った。
学校へと行くと待合室で待たされ、しばらくして青野が現れた。転校手続きの日に少し気まずい感じで帰ってしまったので彩未は青野に会うのに、少し緊張していたが…青野は普通に彩未に挨拶をして来て、彩未も安心して挨拶を交わした。
2人は廊下を歩いて一緒に教室へと向かう。
「あ、あのォ先生…お願いがあります…」
「どうしたの?」
「私に霊感がある事は皆には、内緒にして下さい。普通の女の子として学校に通いたいので…」
「分かった、内緒にしておくよ」
「ありがとうございます」
(まあ、直ぐにバレると思うけど…。一応自分には霊感がある事は認めたんだな)
少し前進したな…と、思いながら、青野は彩未と一緒に教室に向かう。2人は教室へと入る。沢山の児童達がいる前で彩未は皆に挨拶をした。
始業式が終えわり次の授業が始まる前までは休憩時間、初顔の彼女に沢山の女子達が興味本意で色々と話し掛けて来た。
彩未は生徒名簿を付けている青野先生の近くで友達と一緒にお喋りしていた。
「ねえねえ…吉原さんって、前は何処の学校だったの?」
「え…と、見山小学校でした」
そう言うと周囲で「なんだってーッ!」と、驚きの声が響き、同時に転校生に興味の無い男子達までが彩未の近くへと来た。
「み…見山小って本当なの?」
「え…ええ…」
何でこんなに騒がれるのか不思議に思った。
「あの学校に、物凄く霊感の強い女の子がいるって噂だったけど、知っている?」
「聞いた噂だと、霊感で人助けもしたとか言うけど…」
「ウチの学校にも自称霊能者がいるけど、そんなのとは比較にならないらしいってね…」
噂を聞いて、だいたいの事が分かって彩未は答える。
「そ…そうなの、私は会った事がないので知らないな…」
「ちなみに…その霊感の強い子は、髪が長いらしいけど…吉原さんも、髪が長いよね?ウチの学校は特例で無いと、髪伸ばしちゃいけないけど…」
「こ…これは、傷を隠す為に髪を伸ばしてるのよ…一応、許可は頂いているわ」
「聞いたウワサだと、その子って左肩に大きな傷が残っているって言うらしいけど…」
「そ…そうなんだ…」
彩未は、愛想笑いしながら答える、その間にも左腕を触る。それを見ていたクラスの子が気になって彩未に話し掛ける。
「ところで彩未ちゃんは、どうしてさっきから左腕を触っているの?」
「こ…これは、昔…自転車の練習でコケて、怪我をしっちゃって…時々痛むのよ」
室内の教師用の机で名簿作りしていた青野は、教室の児童達の会話を間近で聞いてた時、彩未が左肩を怪我した時の内容が自分の時と違っている事に気付き、ワザと咳払いしてジロッと彩未を見る。だんだん自分が追い詰められて来ているので彩未はその場を離れようとして
「ごめんなさい、ちょっと…化粧室へ行って来るね」
彩未は慌てながら駆け足で教室を出て行く。
トイレの洗面台に行き少し深呼吸した。まさか、自分の事が、これ程噂になっているとは思っても居なかった。普通の女の子として通う目標が早くも終わりそうな予感がして来た。
その直後。
ピイィー…
激しい耳鳴りがし始め目眩がした。音が止み、気持ちが落ち着くと誰かの啜り無く声が聞こえて来た。廊下に出て階段の方へと向かうと、そこに青白い姿の男性が蹲っていた。
「どうしたのですか?」
「息子に別れを伝えて欲しい。パパはもう帰れない、ママを頼んだ…と。それと、さよなら…頑張れよって…」
「何処の教室ですか?」
「今年から6年生になった。村田健太と言う子だ。私は健太の父親竜一と言う」
「6年生ですね。分かりました」
彩未がそう答えると、男性は嬉しそうな表情をしながら消えて行く、それと同時に周りの景色が戻った。
「あ…貴女、何をしていたの…」
気が付くと1人の女子生徒が目の前に立っていた、彼女は蒼白した表情で彩未を見ていた。
「貴女、い…今、誰かと話しをしていたわよね?」
女子生徒には彩未が1人で何か言っている様に見えていた。
「え…と、ちょっと演劇の練習してたの。それよりも、今年6年生になった前田健太君の教室に案内してください」
「前田健太君ね…彼は私と同じ教室だから案内するわ」
少し不思議そうな表情をしながら女子生徒は彩未と一緒に歩いて行く。新学年の6年生の教室は2クラスあり、そのうちの片方…1組の教室の前に着くと女子生徒は彩未に向かって「こっちの教室よ」と、言いながら彼女は、そのまま教室の中に入って行く。
「あ…あの、村田健太さんって言う方居ますか?」
彩未は近くに居た女子に声を掛ける。
「ちょっと待ってね、おーい健太ー」
呼ばれて健太が彩未の近くへと来た。
「君は誰?僕に何か用なの?」
「貴方のお父さん、竜一さんが、パパはもう帰れないからママを頼んだ…と、あと…さよなら、頑張れよ…と言ってました」
伝言を伝えると彩未は6年の教室を去って行く、その後ろ姿を見ていた女子が声を掛ける。
「誰…あの子、知り合い?」
「イヤ…全然、初めて見る子だよ」
不思議に思って彩未を見ていた健太だったが、しばらくして先生が血相を変えて教室に来て健太を見るなり慌てて話す。
「健太君急いで職員室へ行ってくれ、君の家族から電話が入っている」
健太は走って職員室に行き、戻って来る時には涙を流していた。
気になった女子が声を掛けると健太は泣きながら「パパが死んだ…」と、呟いた。
それを聞いた女子が驚いた表情をする。
「い…今来た、あの子…健太のパパの側に居たってこと?」
「それは、あり得ないよ…だってパパは出張中で海外に居たんだ。昨日だって僕は電話で話をしたばかりだよ。確か南米って言ってたけど、直ぐに日本に来れる筈は無い!」
「え…じゃあ、何であの子が貴方のパパを知っていたの?」
「知らないよ、こっちが聞きたいよ」
その話を聞いた女子生徒が、突然震え出した。
「わ…私、見ちゃったの…」
「え…何が?」
「さっきの女の子が…見えない誰かと会話しているところを…あの子、自分は演劇の練習とか言って誤魔化したけど。絶対に幽霊と会話してたと思うわ…」
「ええ~!」
周囲にいた生徒達が一斉に声を出して驚いた。この一件の噂は、その日のうちに学校中へと広まり、彩未の当初の目的である『普通の女の子』としての学校生活は初日で終わりを告げた。