幻獣バク
「えーと。本当にそのミニ豚があの幻獣バクの末裔なのかい?」
父さんが俺に聞く。
「たぶん。」
『多分じゃないど!っつか豚じゃないど!本当なんだど!!』
マロンに抱かれながらそう訴える豚。
現在俺は皆に囲まれ事情を説明している。
この豚が事の発端だと伝えると、皆は驚愕し口を大きく開けた。
何故ならこの豚は唯の小さい豚にみえるが、幻獣バク。
幻獣は神に近しい存在であり、それを従魔にしてしまう俺が規格外すぎて驚いていたのだ。
「と、とにかく此奴がバクってことは分かった。だが何でまたこんな所にいるんだ?」
パクストンがそう言うと豚が罰の悪そうな表情をする。
『お‥。』
「お?」
『村を追い出されたんだど。』
はぁ!?
「どういう事だよ?」
事情説明を求めると豚は話し始める。
なんでも豚の村はこの国、レイドクス領国の北にあるファルベストロ山脈の奥深く、人が寄り付けない辺境場所にあるらしく、そこではバク達が平和に暮らしているそうだ。
何故そんな所で暮らしているかというと、理由があった。
初代幻獣バクはその力の所為で幻獣界でも疎まれ追放を受けた。
だがバク自身この力を使わない訳にはいかない理由があった。
何故ならバクは夢を食べる事でしか栄養を得る事が出来ない幻獣だったのだ。
途方にくれたバクは仕方なく人間界に降り立ち、生きる為に人の夢を食べ歩く事で自ずとその存在は知れ渡り名を轟かせた。
だがそんなある日、一匹のとても美しい家畜豚と出会った。
それ以来毎夜人々を寝静まらせ、その家畜豚に会いにいき、親密になっていった。
そして遂に「俺と逃げよう」とバクは家畜豚に言った。
勿論相思相愛であった家畜豚はそれについていきたかったが、その家畜豚にだけある呪いがかけられていたのだ。
それはこの家畜小屋から出れば心臓が止まるという強力で凶悪な呪いだ。
この呪いは掛けた本人でしか解けない。
誰がこんなことを!?そう、つまり人間側はバクが家畜豚に恋している事を知っていたのだ。
仕方なく、バクはスリープを解き、呪いをかけた張本人を待つと、直ぐに其奴は家畜小屋へときた。
その男は当時人間界で大魔導士を名乗っていた男だった。
バクは出会うなり怒りを露わにし、「この女の呪いを解け。さも無くば貴様を殺す」と脅したが、大魔導士はその呪いは自分が死んだ場合も家畜豚が死ぬという呪いだった。
それを聞いたバクは絶望する。
バクは本当に家畜豚を愛していたのだ。
だが大魔導士はその家畜豚を助けたいバクに対し以外な交換条件を出してきた。
それは従魔契約で人を傷つけない。人の夢を食べない。山脈の奥深くに篭り、人に寄り付かない。といった三点だけだったのだ。
バクにとってはその家畜豚と一緒にいれるなら願ってもない契約だったので、抗う事なく頷き大魔導師の従魔となった。
それ以降、人に寄り付かず、ファルベストロの辺境に閉じ籠もりその場所で家畜豚とバクの生活が始まった。
それから数年後、子孫繁栄を果たし村ができた。
幸いにも産まれた子はバクの能力は受け継がず、受け継いだのは鼻と、普通の魔物よりも魔力と知識が高いぐらいだった。
しかし、幻獣であるバクは豚と違い、夢を食べる事でしか栄養をとる事ができなかった。
だが幻獣。家畜豚よりは早くはこの世を去ったが、それでも10年は生きながらえ悔いのない生涯を終えたといえよう。
バクが生涯を終えてから300年後、突然、覚醒遺伝の如く産まれたのがこの豚なのだそうだ。そしてその夢の味をしめた豚は村で騒動を起こし続けついに追放され、また人間の世界へと降り立ってきたという訳だ。
『まさか出てきて直ぐに従魔契約をされるとは思わなかったど。』
落ち込んだ様な顔をする豚を慰める様にマロンが顔を擦り付ける。
「やぁーん。落ち込まないで可愛いぃからぁ~!」
「おいおい。其奴は幻獣だぞ?」
キリスが心配そうにマロンに注意する。
「いいのよ。今はハル君の従魔なんでしょ。攻撃してこないわよ。」
『わわわ!!や、何をするど!!』
その様子にパクストンがまた頭を抱えて俺に尋ねる。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思いましゅ。契約内容に許可なく人を傷ちゅけないも入れてますから。」
当たり前にそう言うと、パクストンの顔が引きつっていた。
「まだ2歳にも‥なってないんだよな?」
っつか豚の話に皆んなそんな興味あったの?
〇〇。
翌朝。
日が昇り始めた辺りから馬車は動き、昼前辺り。
「ネイブル卿。王都が見えてきましたよ。」
いよいよ王都か。どんな所だろうか?
楽しみだ。
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