アコントラクト
何だコレ!?
何でいきなりこんな?
困惑して辺りを見渡すが、特に変わった様子は無い。
静かな夜の草原に焚き火がパチパチと音を鳴らすだけだ。
まさか皆んな眠いのを限界までスゴロクしたせいで寝落ちしたとか?
いや、それだとしても皆んな一緒はおかしい。
そこである事に気づく。
【#催眠__スリープ__#】
確か人を眠らせる闇魔法があったな。
けどあれは単体に使える魔法で数人も眠らせれる程の物じゃないって本に書いてあったけど‥ん?
ガサッ。
不意に何かが動く音が聞こえ、辺りを見渡す。
もしかして魔物!?初の魔物ですか!?
ってか俺1人かよ!!?
一瞬にして緊張の糸が走り、俺の背中に汗が垂れる。
ガサガサ。
また音が聞こえた!
聞こえた場所はマロンのいる辺りだ。
恐る恐る忍び足でマロンの所に近寄っていくと、マロンの頭元に何か真っ黒い奴がいた。
大きさは人の頭ぐらいで、豚の様な体型にブタのような尻尾をつけている。
しかしそいつは長いゾウみたいな長めの鼻を持ち、なんとその鼻先をマロンの額に貼り付けているのだ。
なんじゃいこいつ!?
ってかマロンちゃんに何をしとるか!!
マロンは魘されるような表情をしている。
助けるか!?いや、迂闊に飛び出すのは危険だ。
俺は草原の芝生に身を隠し様子を伺う。
『くくく。美味え!美味えどやっぱり!!久しぶりの人間の夢だどぉ!!でへへへ。』
喋った!!?っつか、めちゃくちゃダラしのない表情をしているぞあの豚!いや、ゾウか?ゾウ豚?
どうでもいいわ!豚でいこう。よーし決めたぞ彼奴は豚だ!
それにしても今さっきあの豚、夢がどうとか言ってなかったか?
そういえば見た感じバク?そう!神話に出てくるバクにこいつは似ている。
だがそれでも豚は豚だ!
おっと、また喋りだした。
『人間に興味はないが、人間の女の夢はまた別格だどぉ!!でへへ、エヘっ、えへっ』
キモっ!!どんなけアホ面なんだ?
ってか隙だらけだよ彼奴!
攻撃してみるか?いや万が一あいつが攻撃力が高かった場合が怖い。魔法を放とう。
やった事ないけど俺は基本的に出来る気しかせんからやってやる。
意を決して【ファイヤーボール】を唱えた。
するとゴウァッ!!と激しい爆音が鳴り、その勢いは俺をもふき飛ばし、あらぬ方向の真上の空へと打ち上がった。
え?
驚きのあまり声が出ない。それよりも体勢を崩していなければマロンごと丸焦げになる所だ。
俺の驚きもそうだが豚の方はもっと驚いていた。
『な!!ななな何だ!?』
気づかれた!気づかせず倒す絶好のチャンスを逃してしまった。
豚は直ぐに俺の気配に気づく。
俺は体勢を崩したままだ。
『さっきの魔法は貴様か!驚かせやがって!まだガキンチョじゃねえかど!ってよりも何で眠ってない?まさか効果が切れた?まぁいいど、ならばもう一度眠らさせてくれる!【ハイスリープ】!!』
豚が魔法を俺に向けて唱える。
ヤバイ!!、と俺は咄嗟に防御体勢に入るが、
‥‥?。
何もおこらなかった。
俺は状態を確認する様に身体を見回す。
『な!!?何故眠らないど!!?くっ!もう一度だど!【ハイスリープ】!!!』
‥‥。
再度俺は防御体勢に入ったが、やはり何も起こらない。
「えーと。もちかしてその魔法な効かにゃいのかもしんにゃいな?」
少し表紙が抜けた様な表情で声を出しそう言うと、豚は更に意地になる。
『そ!そんな訳あるか!!幻獣の末裔であるオデに不可能など無いど!!下等な人間風情がオデ様の最大魔法を見せてくれる!!クソガキンチョがぁぁあ!!最大出力【ハイスリープ】!!!!!!!』
渾身の大声で豚はハイスリープを唱えると、魔力を使い切ったのかドタッと前のめりに倒れ込む。
だが結界は言わずもがな。
しかし豚は俺に魔法がかかったと思い込み不敵に笑い出す。
『ふはははは!どうだど!!はぁ、はぁ。』
息切れし、立つ事も困難の様だ。
『こ、これで寝たに決まってるど!さあ!』と目を見開き俺の方に向く豚の真正面に俺はヌッと迫ってやった。
案の定『ぬぅあ!!!眠ってないど!!何でど!!?』と驚愕する。
(わからん!いや、もしかして全耐性持ってるからかな?)と、今度はテレパシーで会話する。
『な!!?全耐性だと!?バカな!人間にそんなやつ‥ってかこれはテレパシー!!?まさかガキンチョの分際で上位魔術を操るのかど!?』
さらに驚愕し、口を大きく開ける豚。
(この様子だともしかして、ハイスリープしか魔法使えないとか?)
ギクッと肩を鳴らし、目を逸らし口を尖らせる豚。
『そ、そんな訳ないどぉ~。こ、ここ、これ以外にもとっておきはあるど。ほ、本当だ!本当ど!それさえ使えればお前みたいなガキンチョはケッチョンケッチョンに踏み躙ってやったんだど!!』
わっかりやす!
っつか結構図星だったみたいだ。ならここはもう一つカマを掛けてやろう。
(ほう。なら見せてくれないか?最強の取って置きという奴を。立つ力と魔力が残っているなら。)
ギクギクッ!!!
うん。こいつアホだ。
俺はニヤリとする。
きっと豚にはその表情が悪魔に見えるだろう。
(悪い魔物はこうしてやる!!)
少し強めに蹴りを入れる。
ドカ!!
『痛い!』
さらにドカドカポコポコ、『痛い!!』ゲシ!『地味に痛いど』ゲシ!!『ぬぉ!』ポコポコポコポコ!!『も、もうやめるどぉ!!!』
「はぁ、はぁ、はぁ。お、思ったよりくたばらないな。」
は!!
「もしかして子供の攻撃力だからか?」
俺がそれに気づくと豚は当然かの様に笑う。
『かかか!当たり前だど!!オデを何だと思っているど!幻獣の末裔ど!お前みたいなガキンチョの攻撃力じゃ全然屁でもないど!かーかかかー!!』
動けないくせに俺をあざ笑い挑発する豚。
とりあえずもう一度蹴りを入れてやる。
ゲシ!!「痛い!か、顔を蹴るんじゃないど!」
しかしどうするか?
このまま此奴を魔法で吹き飛ばしてもいいが、喋る生き物の為、前世の感覚がある分殺すのに少しばかり抵抗がある。
それにさっきファイヤーボールを使って感じたが、明らかに本で得た知識とは別物のファイヤーボールだった。
実際に当ててはないが、恐らくあんなものを無闇矢鱈に撃てば寝ている周りの皆んなにも被害が及ぶ。
他にも考えてみたがさっきの二の舞になると怖いな。
俺が顎に片手を当て、考え込むと、豚が徐々に動きだす。
『ぐふふ。オデ様は幻獣なのだ!!魔力が枯渇しようとも回復は早い!!さぁどうするガキ!そろそろ立ちあがっちゃうど?お?やっちゃうど。』
調子をこきだした豚はほっておいて、俺はある魔法を思いだした。
それは【#主従契約魔法__アコントラクト__#】。
無属性の魔法で契約内容を破ろうとすると苦痛を感じるなどのペナルティを受ける。
しかし、どんな魔物も従魔にできるという訳ではなく、適正が一緒で魔物自体が懐いている場合か、敵意を剝きだす魔物が魔力量を消費し自分が魔物よりも上回っている状態でないと契約は出来ない。
幸い弱った豚など当たり前にイケる筈だ。
俺は豚に近づきニヤリとする。
豚は何だ?とばかりに訝しげにする。
俺は豚の頭に手を置き、頭に思い浮かぶ全ての契約内容を想像する。
『な、何を、する気だど!?』
【アコントラクト】!!
豚の身体がいきなり輝き始め、どこから出現したのかわからない短い鎖と鉄製の首枷が豚に巻き着いた。
『な!?まさかコレは!?主従契約魔法だとぉ!!?幻獣の末裔であるオデ様が!!嘘だぁぁ!!!』
豚は喚き散らしたのだった。