五話
投稿する時間帯を変えて様子見
リリーが絡まれるのは第一王子に恋する女子生徒たちからだけではなかった。
美しい容姿と凛とした佇いが、密かに多くの男子生徒に人気となっていたことを当事者は知る由もないだろうが、男子生徒から呼び出されて告白を受けるということが多くなっていたのだ。
「一目見た時から好きです! 僕とお付き合いしてください!」
放課後、手紙で呼び出されはリリーシアが書かれている場所に行くと、此方がどんな冷めた表情をしているのかにも気づかない馬鹿な男子生徒から勢いよく告白される。
「ごめんなさいね。私にはアラン殿下という婚約者がいるの。あんまり男の子と仲良くしているとあらぬ噂が立ったりしそうだからそんな深い関係にはなれないけど、友達でよければ…」
にっこりと笑って答えると、男子生徒は嬉しそうに自分の名前とクラスを告げて去っていった。
リリーシアは勿論、“一目惚れ”という軽薄そうな理由で告白をしてくる男を信用するつもりもこれから関わるつもりもない。
しかし、このように優しく断るので他の男子生徒たちは「自分ならいけるのでは?」という期待を抱かせることになってしまい、リリーシアがこういったアプローチを受ける回数も日に日に増えている。
そのおかげで“この男”から怒鳴り散らされることも増えたものだ。
「おいリリーシア! 放課後また男子生徒と密会していたそうだな。俺の婚約者でありながら他の男に現を抜かすとは何たる下品な女なのだ、お前は!」
“この男”とは婚約者であるアラン第一王子殿下。しかし彼は、自分はリリーシアの義妹であるアン・アウグストと仲良く校内を歩いているところを目撃されていることを知らないのだろうか。自分は
王族なのだからいろんな女性と関係を持っていても許されると本気で思ってりうようである。
「殿下。男子生徒から思いを告げられ、交際をもちかけられていただけで、私はきちんとお断りしています。殿下こそ最近は私の義妹と随分仲良くしているようですが…?」
事情を説明するだけでは言い訳じみてしまうので、ここぞとばかりに反撃を加える。
「何か文句でもあるのか。 俺は次期国王なのだから、何人女を侍らせていようが問題はあるまい? もしやとは思うがリリーシア、お前嫉妬しているのか? へえ…いつも仏頂面のお前にも可愛いところがあるもんだなあ…?」
リリーシアは溜息をつきたい衝動をぐっと飲みこみ、殿下の顔をまじまじと眺める。にやにやと笑い、此方を馬鹿にするような目でこちらを見ている。どうやら本気で言っているらしい。
思いっきりこの顔面を殴り飛ばしたい…リリーシアは本気でそう思った。
ブワッとリリーシアから魔力の波動が吹いくと、王子殿下はあからさまに動揺した口調で喚きたてる。
周りで事を見守っていた野次馬どもも教師を呼んでくるべきかとざわつき始めた。
「ひいっ! な、なんだお前! 俺に危害を加えるともりかっ! この俺に危害を加えたとなれば反逆罪だぞっ! 分かっているのか!」
「ふふっ…分かっていますよ殿下。校内での魔法の使用は推奨されていないことも、ね。そんなに怖がらなくても、学校の中では私の魔法は100分の1になっていますから貴方に危害を加えることはできませんわ。」
笑みを深めてそう答えると、殿下は逃げるように「とにかく今後からは気を付けるようにしろよ!」と捨て台詞を吐いて去っていった。
どうやらどんなに知能の足りないお馬鹿さんでもリリーシアがどれだけの魔法の使い手であるかは知っているらしい。
リリーシアが周囲の野次馬どもを見渡すと、周りに集まっていた生徒たちはしん、と静まり返った。何かされるかもしれないとでも考えたのだろう。
リリーシアは流れるような所作で一礼し、その場を後にした。