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勇者地上に戻る/奴隷商は見の置き場がない

 夜、エルフの村ではささやかな宴が開かれていた。


 野外で焚き火を囲み、エルフ達の料理が振る舞われる。それは素朴だが、確かに感謝の気持ちが伝わるものだった。


 ロクロウはエルフ達に囲まれ称賛され、どこか居心地が悪そうな、それでいて悪い気はしないような様子だった。ウルはただ黙々と料理を食べ、たまに熱い料理に苦戦していた。ムツキは歓待される側にもかかわらず、もっぱら給仕に励んでいた。そしてウィルバーはと言えば――


「やれやれ、世話の焼きたがりもあそこまでいくと悪癖だね」


 一人、宴の喧騒から離れた場所でその様子を眺めていた。


 この宴は、村の問題を解決したロクロウ達をねぎらうために開かれたものだった。そこに込められたのは純粋な感謝の気持ちであり、それがウィルバーをどうにも見の置き場のない感覚にさせた。


 例えばこれが社交界のパーティーであればそんな気持ちにはなりはしなかっただろう。権謀術数渦巻く場所に、ウィルバーのような人間がいるのはおかしい事ではない。だがここは違う。場違いな場所に迷い込んだ感覚を覚え、そんな自分に困惑した。


「……ねえ」


 そんなウィルバーに声がかけられた。見れば、オークから助けたエルフの少女がそこに立っていた。


「なんだい?」


「これ、あげる」


「花……?」


 少女の手がウィルバーに突き出され、そこには一輪の花が握られていた。


 ウィルバーには花の美しさがわからない。彼にわかるのは、その花に誰がどんな値をつけているかだけで、そしてその花は花屋で売られているようなありふれたものだった。


「わたしが育てたの」


「それって、村の外れの方で?」


「うん」


 家で育てればいいものを、とウィルバーは思った。なにか事情はあったのだろうが。


「そうか、ありがとう。大切にするよ」


 心にもないことを言っているな。そんな事を思いながら、ウィルバーは花を受け取る。少女ははにかみ、前のように走り去っていった。


「……ご主人様が助けた子ですか」


 気がつけばムツキが後ろに居た。ムツキの隠密能力は高い。しかし普段なら主人であるウィルバーが彼女の接近に気づかないことはなかった。


「……うん、らしくないことをした。どうにもここに来てかららしくないことばかりだ」


「ご主人様らしいと思いますが」


「……君はたまにわからない事を言うね」


 いつもと変わらぬ淡々とした態度で言うムツキに、ウィルバーは嘆息する。


 そうして、宴の夜はふけていった。





 夜が明け、ロクロウ達はリズの小屋の中に居た。


「これからどうするんだい? いったん地上に戻るかこのまま先に進むか。……そういえばまだ返事をもらってないね」


「あんだけ協力してもらって断れるわけないだろ……」


 そう言うロクロウにウルが囁いた。


「いいのか?」


「……まあ、少しは信じられる部分もあるっぽいからな」


 答えてからロクロウはふと気づいた。


「ん? そういや地上に戻る方法ってあるのか」


「ああ、ある魔法を使えば帰れるんだけど、誰もがその魔法を使えるってわけじゃないからね。あんな物が作られたんだ」


 ウィルバーが小屋の窓から村の中央にあるそれを指差す。それは石造りの小さな塔だった。


「……あれは?」


「ポータル。転移の魔法が込められていて、触れれば地上に戻れるし、ダンジョンに入る時はあそこから始められるんだ。あれが作られるまではいろいろ大変だったらしいね」


「あんなんあったのか。気づかなかった……」


 改めて自分の冒険が見切り発車な事を実感するロクロウだった。


「んー、じゃあとりあえず地上に戻るか。補給とかいるだろ」


「うん、そうしてくれるとありがたい。……ポータルは次の階層の手前にもあるから、そこから帰るといいだろう」


「次の階層の手前? 魔物とか会わないか?」


 帰る前の戦闘は念の為、避けておきたいと考えるロクロウだったが、


「排除しておきましたから、しばらくは大丈夫でしょう」


 しれっと言うムツキに呆れたような顔になる。


「手際いいつーかなんつーか……。まあそれならそこまで行くか」


 そうして四人は小屋を出る。と、そこにリズがやってきた。


「行くのですね」


「ああ」


「……あなた方には本当にお世話になりました。私達はここから離れることが出来ませんが、いつもあなた方の無事を祈っております」


「……ああ!」


 リズに見送られ、ロクロウ達は森の奥へと進んでいった。

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