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11-3


***


 ナイトメアへ術式解析をする小さな少年の背中を一瞥し、なんか申し訳ないなぁと笑うガロ。本来ならばリュウレイの技術であればとっくに解析を終えていてもおかしくはないのだが……。


「な、なんなん……っ!? なんか変な“式”が介入してくる……!」


 次から次へとナイトメアの術式が変化していく。妨害されているとは分かっているだろう。しかし刻一刻と時間は迫りつつある。妨害は気にせずにこのまま解析に押し切った方が早いと判断したのだろう。


 ――本当に申し訳ないよねぇ……。


 リュウレイは気付いていないが、以前ガロがリュウレイに渡した魔道具の“鈴”――これがガロの魔力に反応して魔術の妨害をしているとは、さすがに想像だにしていないだろう。


 ――ガロがノーブル・シャガマに言った願い事。

 それは『必ずナイトメアを発射させること』。『【魔界域(ラグラ)に一撃入れること】』。


 ノーブルは言われるまでもないと返していたが、これが案外重要なのだ。


 もし勇者の言葉に絆されてしまったら? もし勇者一行に敵わないと諦めてしまったら? もし――この行為が“戦争の再開を誘発してしまうこと”だと気付いてしまったら?


 ここまで慎重に事を運んできたのに、ぶち壊されるわけにはいかないのだ。


 ――リウル・クォーツレイのおかげで停戦状態にされちゃったからなぁ。それは俺としても(・・・・・)教会としても(・・・・・・)困るんだよ。

 いざというときは――リウを殺してでも、ね。


 襲いかかる調教獣に一閃くれてやりながら上唇をぺろりと舐め、これからのことに期待と興奮を膨らませていると。

「先生!」「ガロさん、リュウレイ!」

 何故かニアとティフィアがこちらへやってきた。


「……。あれ? アルニくんのことは放置プレイ宜しくな感じ?」

「あの男ならば問題ありません」

どういうことだろうと覗けば、倒れるアルニの側にド派手な色の少女が一人。


「…………ねぇ、あれ魔族だよね。そういえばティフィアちゃん助けに行ったときも見かけた気がするんだけど」

「先生、調教獣が来てますよ」

「倒しに、」

「ダメです。彼女は――味方です」


 味方、とニアの口から魔族を擁護する言葉が出たことに驚いた。

 何があったかはしらないけど、……まぁいっか!

 おそらく”穏健派”の魔族だろうけど、今更邪魔されたところで――もう何も変わらないのだから。





「リュウレイ、大丈夫?」汗まみれになりながら術式解析している少年を、心配そうにティフィアが声をかける。

「……お嬢、なんで来たん」

 目はこちらに向かない。だけどリュウレイが苛ついているのは感じた。


「なにか出来ることを探しに」

「危ないから来るなって言われたのに?」

「うん」

「――そう」一瞬視線を伏せ、「でも出来ることないから。お嬢は魔術も魔法も使えないわけだし」

「うん」


「……あっち行ってて。気が散るん」

「嫌だ」

「い、」嫌だと拒絶されるとは思わず、咄嗟にティフィアへ顔を向ける。

「ここに、いさせて欲しい」


 覚悟と決心が宿る、力強い視線。旅をするようになってからよく見かけるようになったソレに、何かが湧き上がってくるのを感じた。――それを塞き止めるようにキュッと唇を引き締め、再び解析作業へ戻る。


「お嬢が――そうしたいんなら」

「うん、ありがとう……!」


 そうして解析に集中するリュウレイを三人で守りながら、焦れったい時間だけが過ぎていく。


「リュウレイ、まだですか!?」

 日が昇っていく。式典の開始時間までもう僅か。

 ここからだと見えないが、すでに街の人々は起きている時間だ。宮城が吹っ飛んでいる状態なのに誰も騒いでいる様子がないことに違和感を覚えながら、ティフィアも焦りにリュウレイを見る。


「ここがハウルとウッズの法則を使用してて、その次にある法則はブラフだから………。くそっ、また術式が変わった!――情報処理が追いつかないん……っ、もう一人……あと一人魔術師がいれば………!」


 彼も戦っている。

 たった一人で必死に。

 僕も魔術が使えれば、そんなことを考えてしまう。




 ――――<このままだと間に合わないの。>




 不意に、誰かの声が聞こえた。


 間に合わない?


 ――――<そう、可哀想だけど。助けようと足掻いているこの時間は、すべて無意味になるの。>


 嫌だ。そんなの、嫌だよ!


 ――――<でも仕方ないの、これは運命だったの。抗ったところでもう道は一つしか、>


 運命。


 誰だっけ、誰か、その人も似たようなこと言ってた。

 抗っても抗っても、握りつぶされるなら―――諦めた方が楽なのかもしれない。


 辿る道が一つしかないなら。


 悲しげなその目を。

 群青色の(・・・・)その瞳を(・・・・)


「…………運命が一つきりなんて、」そんなこと、あるわけない。


「――ティフィア様?」

 様子がおかしいティフィアに訝しげな声がかけられるが、それを背にリュウレイの隣へ立つ。

 リュウレイも気付いてはいるが、もう声をかける余裕すらなさそうだ。


 ――僕に出来ることってなんだろう。

 分からない。けど。

 僕は――心を救う勇者、だから。


「シスナちゃん、待っててね」

 手を伸ばし、ナイトメアへ触れる。

「!? ティフィア様――何を、」

「お願い、ノーブルさんと話がしたい。だから、」


 ――僕を受け入れて。


 ずぶり、と。

 ティフィアの手がナイトメアに埋まる(・・・)


「ティフィア様!」ニアが咄嗟に手を伸ばす―――が、間に合わず。

 ノーブル・シャガマのときのように、ティフィアの体はナイトメアへと飲み込まれていった。


「ティフィア様―――――ッ!」

 ニアの悲痛な叫びが響いた。




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