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10-3


「お兄さん!」

 薄緑色の霧がバチバチと凄まじい音を立てながら発光していくのを、リュウレイは杖を握りしめて息を呑んだ。


 ……お兄さんが動く気配を感じない、霧の中で何かあったのかも。


 助けようにも姿が見えなければどこに結界を施せばいいのかも分からない。

 ちらりと横目でニアを見るが、あのガロと連携をとりながらノーブルと激戦を繰り広げている。あれではヘルプを呼ぶのは難しそうだ。


 もどかしい。

 シスナの意識を取り戻すための魔力は温存しておきたい。だけどこのまま黙って眺めているだけで良いのだろうか……?


「―――良いわけないじゃん!」


 カツンと杖の先で地面を突くと、【“窓”展開!】薄く青白い半透明の帯が2つリュウレイを取り囲むように現れた。

 ――お兄さんは今動けない状態である可能性が高い。

 魔術で霧を消し飛ばす?……だけどお兄さんは何か考えがあったはず。霧を、或いは稲妻を利用した策を。

 きっとお兄さんは策を実行する。それなら。


白き雷獣(ビスティケオ)の“雷の放蓄”の式法則を置き換え、我が意のままに式法則の改ざんを行う】

【大地に突き立て、雷の力を奪え―――――白き雷槍牙ビスティケオ・ヴァジュラオウ!】


 パキンッと帯の一つが割れると同時に、宙に6本の雷槍が現れた。


 そしてリュウレイが杖を振りかざすと、槍は魔術兵器(ナイトメア)に向かって飛んでいき、霧の外側――兵器を囲むように地面へと突き刺さる。


 刹那、


 薄緑色の霧からまばゆいほどの光と轟音が響き渡る!


「っ!」咄嗟に目を閉じたとはいえ、瞼の裏がチカチカして状況が確認出来ない。

 霧の状態から稲妻を最高出力で放電してくると踏んで、それを少しでも緩和出来るようにと雷の力を吸収する式で組み立てた雷槍を避雷針代わりに作ってみたのだが。


 ――読みは当たった! けど、


 アルニが無事かどうかまではと不安に掻き立てられていると『レイ、頼む!』と頭の中に声が響いた。

 生きてた、と安堵するよりも早くリュウレイは杖の先で地面を突き、割れた帯を再び出現させると術を構成、展開する。


【“反射”の式法則を用いて()の者の存在を映し幻惑(まどわ)せ】

 杖を向けたちょうどそのとき、霧からアルニが飛び出してきたのが見えた。触手に刺した短剣のワイヤーを使って体を引き上げたようだ。


 これで術をかけられる――!


【欺き秘匿せよ―――暴かれざる存在(ライアー・ザイン)ッ!!】





 霧から抜け出した先、合図通りに魔術がきた(、、)のをなんとなく感じると、アルニはワイヤーから手を離す。重力で体が落ちていくその直後、頭上スレスレを触手が勢いよく通り過ぎていくのが見えた。


 一瞬でもあの“目”に見られたからだろう。

 ――でもこれで視認は出来なくなったはずだ。


 今度は別のワイヤーを使って触手であるパイプの一つに跳び乗る。

 アルニを見失った“目”が忙しなく周囲を見回し、触手たちが手当たり次第に攻撃をかます。


「っ」激しく動く足場にしがみつき、小物入れから明草(あかりぐさ)を取り出して紙に包み、それごと揉み込んで霧の中に落とした。

 それから溶解液が入った黒い薬瓶をいくつか取り出し、近くにあった“目”にそれを思い切り投げる!


 魔物であれば激痛に悲鳴をあげるところだが、当然機械にそれはない。ただ潰された“目”の近くにアルニがいるということが分かりすぐに触手が襲いかかるが、すでに別の触手へ移動しているので問題ない。


 姿が見えない、というのは本当に最高のアドバンテージだなと内心ほくそ笑む。

 問題はどれだけこの体が動くか、だ。


 徐々に痛み止めの効果が消えてきたのか、ジクジクと違和感を覚える傷口と熱く荒い息に、背中が汗で滲む。

 先ほどの窮地は咄嗟に魔法を使って瓦礫の下に隠れてたのと、リュウレイのおかげでなんとか脱することが出来たが、あれは本当にやばかった……。


 何度か移動しつつ目を潰していき、溶解液が切れるのと、目の数が片手で足りる程の数に減ったのを確認すると、魔力回復薬を口にし、それから大きく深呼吸する。


 ――今まで魔物相手なら知識を引っ張り出して対策を練られた。人も魔族も、生き物であり感情があるから揺さぶりを使って対処出来ていた。

 だが、今回は機械だ。それも壊してはならないという条件下で、無力化しなければ。自分自身の体力とリュウレイの魔力を考慮すれば、ここらで終わりにしたいところだ。


「……――次の一撃で仕留める!」


 自分に言い聞かせるようにそう呟くと、魔力を放出し周囲の精霊を集める。

 それぞれに役割を指示したところで、アルニは両手に短剣を構えて霧の中へ潜った。

 焦れったそうに触手が暴れまくっている。更に再び霧がバチバチと大きな音を立てて白くなり始めたのを見計らいワイヤーで霧から抜け出すと、魔法によって宙に氷の足場をいくつか作る。闇夜に紛れて見えない、


「――はずだったんだけどな!」


 機械の目にはそんなもの通用しないとばかりに手当たり次第触手に壊されまくる。ある程度“目”を潰しておいたので、目の死角に入っているものは無事なようだ。

 残る足場を使って少しずつナイトメアの“上”を目指していく。


 そして、当然足場が作られれば、アルニがここを通るであろうことは機械にも予測出来るはずなので、霧の中の帯電が再びリュウレイの槍に吸収されるのを確認してから風の精霊を動かす。


 事前に仕込んでおいていた明草が、包んでいた紙から解放されて霧の中で輝く。

 不審な動きを見過ごすことが出来ず、ブラフに引っかかって触手が明草を痛めつけている間にもう一度魔力を回復させておき、それから口元へ指輪を寄せた。


「レイ、もう術は解いてもいい。ただ、槍はそのままにしておいてくれ」

『い、いいけど……本当に大丈夫なん?』心配そうな声に思わず笑みが零れた。


「任せろって言いたいとこだけど、」触手が目の前で振り下ろされるのを身を反らせることで間一髪避けると、そろそろ透明化の魔術も消えている頃かと触手と“目”の動きで察する。「ナイトメアに一撃与えるとき援護が欲しい」


『――分かった。なんとなくお兄さんがしようとしてることも分かったし、やれるよ』

 なんとも頼もしいお言葉だ。

 いよいよナイトメアの頭上に辿り着き、アルニの姿を視認(・・)した触手たちが一斉に捕らえようと動き出す。――それを待ってた!


「うぉりゃぁああっ!」触手たちに刺していた短剣のワイヤーを一気に引き上げる!

 無駄に動き回ってたわけじゃない。こうして引き上げたとき、触手たちが絡まりまくって解けないように、そして。


ナイトメアの触手たちが天に向かってひとまとめになって身動きとれなくなるように、ここまで面倒なことをしてきたんだ――!


「精霊たちよ」


 ありったけの魔力を放出しつつ、上空に向かって右手を伸ばす。

 星が瞬いていた夜空はアルニたちの頭上に限り、分厚い雲で覆われていた。

 その雲はときおりバチバチと白い稲光を発生させ、まさしくナイトメアの緑色の霧と同じ性質を持つ。


「地獄を切り裂く一筋の光でもって―――――」


 バチッ、バチバチバチバチッ!!

 ナイトメアの周囲を囲っていた雷槍の雷が、更に吸収されるように雲へと吸い込まれていく。




 一方、リュウレイはアルニに頼まれていた通り魔術を展開していた。


 【鬼子豚(ピッグ)の魔力による“膨張”の式法則を置き換え、我が意のままに式法則の改ざんを行う】


 ――ローバッハ港町でクロドリィとマナカに鍛えてもらったんだ。

 魔術は万能だ。でもそれを生かすことが出来なければ、いくら魔術への知識があっても意味がないのだと旅で思い知らされたから。


 ――上空でアルニが右手を振り下ろすのが見えた。


「我らを仇なす敵を打ち砕け―――ッ!!」


 リュウレイもまた、そんなアルニに向けて杖を振り上げる。


【さぁ、我が意のままに膨れ上がれ!――――膨張巨化(ピッグ・ラクレムンド)ッ‼】


 雲の中で帯電し、槍に吸収された雷を吸い上げて大きくなった稲妻。

 そして上空に突如現れた魔術紋陣を稲妻が通り抜けると、更にそのエネルギーを膨れ上がらせる!




「「いっけぇぇぇえええええええええええええええええええ――――――――――――っ!!!!」」




 刹那。


 世界が白く染まる。


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