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9-3


「うわぁ、惨状って感じ」


 他人事みたいに感心しながら近づいてくるリュウレイに、返り血と汗にまみれた顔を袖で拭いながら回復薬を飲んで一息吐く。

 どうやら目的の一つは叶ったようだ。


「手応えなくてつまらなかったねぇ♪」と足取り軽いガロは無視し、疲弊してるティフィアとニアに回復薬を渡す。

「……で、供給はこれで止まったのか?」

 最初にここへ来たときと何も変わっていないように見えるが。


 リュウレイは「うん」としっかり頷き、それから部屋全体を見回した。

 魔術を使っている間、この部屋に敵がなだれ込んできたのだろう。激しい戦闘跡と血だまり、死体の山に「これクローツが見たら卒倒しそう。良い気味」と内心ほくそ笑んだ。


「ふぅ……どれくらい経ったんだろうね。シスナちゃん、大丈夫かな」

 反対にティフィアはシスナを案じ、窓がないために時間の感覚が失われていることに不安そうに何度も階段を見る。

「そうですね、教会を出たのがすでに日が暮れた頃でしたし。まだ夜更けまでいかないにしても急いだ方がいいでしょうね」


「予定通りお嬢は教会に戻って待ってて。一応あの神官のおばさんにも警戒して」

「う、うん」

「よっしょあああっ! ノーブルと再戦じゃぁあああああっ! 腕が鳴るZE☆」

「じゃあティー、行ってくるな」


 時間がないからか急ぎ足でさっさと『封印の間』を後にする4人を見送り、ティフィアは言われた通り教会へ戻るべく魔術紋陣へ足を向け―――「それで良いッスか」足を止めた。

 弾かれたように振り返れば、そこには不機嫌顔の少女が一人。


「レドマーヌ、」

「………本当は放っておこうと思ったッスけど、これじゃああまりにもフィアナ様が不憫ッス」

 お母さん……?


「あんた、それでいいッスか? 本当にこのまま教会に戻って、それで後悔しないッスか?」

「でも、」僕がいたら迷惑になってしまう。ただでさえリュウレイを守りながらの戦闘になるのに、そこにティフィアまで加わってしまったらみんな思うように戦えなくなってしまう。


 ――お嬢はどうしたいん?


 不意にリュウレイの言葉が頭を過ぎった。


「だからいつまでたっても偽物の出来損ないって言われるんじゃないッスか!?」

 だって本当のことだ。

 僕は人形で、偽物で、出来損ないだ。


「じゃあ! どうしてさっきレドマーヌのこと怒ったッスか!」

 ……怒った? 違う、僕は怒ったわけじゃない。

 あれは八つ当たりだ。マルタさんを守れなかった、無力な僕に我慢出来なくて。


「ならどうして鎖持ったメンヘラ女を助けにきたッスか!」

 一瞬誰のことを指しているか分からなかったが、おそらくシスナのことだろう。

 ――シスナちゃん。僕のお姉さんみたいな人で、不器用だけど本当は優しいんだ。

 そんな存在が利用されて、意識が消されかけてると知って、大人しくしていられるわけないじゃないか。


「ここまで言ってまだ分かんないッスか!?」

 苛立たしげにレドマーヌは吐き捨てた。


「いつまで『偽物』に甘んじて逃げてるッスか!? いつまで守られ続けるつもりッスか!?」


 行っても、きっと迷惑になるから。でも戻るのはきっと後悔するから。

 そうして葛藤して、優柔不断に足踏みして。


 ――そうだ、本当は分かっていた。それじゃあ誰も助けられないって。


 マルタさんも、ライオスの街の人々も。

 今まで知り合ってきた人も。これから知り合う人たちも。

 ニアも。リュウレイも。アルニも。ガロさんも。シスナちゃんも。


 助けたいと、救いたいという気持ちを、誰かに任せてしまうのはきっとダメだ。


 僕は人形で偽物で出来損ないだ。


 それでもこの気持ちは、感情は―――誰がなんと言おうと僕のモノなんだ。


「僕は」

 考えることを覚えて、いつの間にか僕は僕の気持ちから目を背けていたみたいだ。


 したいこと。しないといけないこと。やるべきこと。

 難しいことは僕には分からない。なら、単純に考えよう。


「僕はシスナちゃんを助けたい」

 これは僕のしたいこと。目的。それなら次は、どうするべきか。


 今アルニたちがシスナちゃんを助けるべく、あの兵器がある部屋へ向かっている。

 そういえばガロさんが戦力的に心許ないって言ってた。

 僕一人加わったところでどうにかなるだろうか……?


「あ」そうだ、一人じゃない。


 ティフィアは黒曜石の瞳で、しかと琥珀色の瞳を見据える。

 レドマーヌは唐突に見つめられ続けるという状態に多少どぎまぎしていると、目の前の少女は言った。


「図々しいお願いかもしれないけど。――レドマーヌ、僕に手を貸して欲しい」


 ほん――――――――っとうに図々しくも神経図太いと思わざるをえないお願いだと思ったけど。

 フィアナ様と同じ顔してるくせに、全く性格が似てない少女の真っ直ぐな眼差しに、折れた。


「しようがないッスねぇ。付き合ってあげるッスよ、ティフィア(・・・・・)


 さん付けをなくして彼女の元へ歩み寄る。

 二人は無言で頷き合い、並んで階段を登っていった。



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