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9-2


 式典までにやらなければいけないことは全部で二つだ。


 一つ目は『封印の間』に行き“大型魔術紋甲殻機(ナイトメア)”の起動を維持している魔力供給を絶つこと。

 二つ目はノーブルが奪っていったシスナの意識を奪還すること。


 とりわけこの二つ目の目的は結構重要だったりする。というのも、

「憶測になっちゃうけど、そのナイトメアとかいう魔術兵器が“証”の力を使えば、一緒に取り込まれたシスナの意識に負荷がかかって消滅する可能性があるん」


 礼拝堂から場所を移して、とある一室で作戦会議中。


 リュウレイの言葉にティフィアの顔が青白くなった。


「だから少しでも時間を稼ぐ意味でも魔力供給を止めて、混乱してる間に魔術兵器からシスナの意識を取り返さないといけないん」

「あはは☆ ティフィアちゃんが捕まってたときよりも条件厳しくなってきたねぇ!」

「しかもノーブルが変な魔術使う以上、ティーをそいつの前に出すわけにはいかないよな……」

「もちろんです! ティフィア様をこれ以上危険な目に遭わせるわけにいきません!」

 断固としてティフィアの同行を拒むニアを珍しく恨めしそうに少女が見やる。


「もしノーブルが来たら俺とニアが対処するとして、機械の操作はリウでしょー。それを守るのがアルニくんでしょー。うん、戦力的に心許ないNE☆」

 うるせー! 言われずとも分かってんだよ! という言葉は飲み込み、「あんたは一人でノーブル倒せないのかよ。強敵相手にするのが好きなわりに、手助けが必要なんだな?」

「あ、それ言っちゃう? 一人でも倒せるよ? でも外野が邪魔してくるんだもん、問答無用に殺戮して良いって言うなら構わないけど? 仮にも勇者一行だし気を遣ってるこの大人心分からないかなぁ~?」


 売り言葉に買い言葉。

 突如始まった二人の男の目に見えぬ火花は、彼らの頭をぶん殴ったニアのおかげで早々に終止符を打つことになった。


「痛ぇ!」「師匠を殴るとかっ! そんな子に育てた覚えはありませんよ!?」

「アルニ、先生の口車に乗ってイライラしては身が持ちませんよ。いつもの冷静さはどうしたんですか。あと先生、私は先生に剣は教わりましたが人生を教わったことも育てられたこともありません」

 返す言葉もなく項垂れる二人を見て、ティフィアは小さく賛辞の拍手を送った。


「………なんでもいいけど、時間ないってこと忘れないでね?」

 一番冷静なリュウレイだけは大きく溜め息を吐いた。


「あ、リュウレイ。そういえば『封印の間』ってどう行くの?」そこまでは同行するつもりでいるティフィアの問いに、そこだけお嬢にお願いがあるんと返した。

「僕に出来ることがあればなんでもするよ!」


「そんな気張らんでも大丈夫。あのサラっていう神父に『封印の間』に行ける魔術紋陣を教えて欲しいって聞くだけだから」

「教会にそんなものがあるんですか?」

「街の結界は重要だからね。もし正規の道が事故とか魔族に潰されたときのために緊急回路として用意してあるん。勇者であるお嬢が聞けば、簡単に教えてくれると思う」

「なるほど……」


「じゃあ僕さっそく聞いてくるね!」居ても立ってもいられず、部屋から出て行ったティフィアを心配して「待って下さい、ティフィア様!」とニアも慌ただしくついていった。


 それから二人がすぐに戻ってきて、サラの案内のもと教会の奥にある部屋へ通された。

 そこには床に魔術紋陣が刻まれ、ここから『封印の間』へと行けるようになっているようだ。


「――行こう」

 ティフィアのかけ声と共に全員が陣の中へ入り、そして消えた。

「我らが唯一神であらせられる女神レハシレイテス様、どうか憐れな彼女たちにお導きを」

 彼女らを見送ったサラがそう口にして嗤っていたことも知らずに。




 転移術はこれで三回目になるが、やっぱり慣れないなとアルニは頭を振った。


「……ここが『封印の間』?」

 ティフィアの声にようやっと平衡感覚を取り戻した視界で見やれば、その思ったよりも広い部屋に圧倒され――だが、何よりも既視感を覚えた。


 壁や天井、床に至るまで文字と絵が刻まれている。

 大きく描かれた女性の足元に跪く多くの人々。誰かを抱えて涙を流す女性。天秤を掲げて雷を落とし、天地を割る女性。


 ――その全てに描かれている女性は特徴が同じで、同一人物のように見える。


「これ……ライオスの街の地下で見たのと同じやつか?」

 確かあそこにも似たような文字と絵が刻まれていたはずだ。

 ……もしかしてここに描かれている女性は女神レハシレイテスなのか?


「お兄さん」

 リュウレイに呼ばれて思考の海から浮上すると、『封印の間』の中心――大きな“魔術紋陣”と、更にその中枢にある巨大な透明の魔石を見上げる。

 これがどうやら結界の“核”のようだ。


「――すげぇな、これだけ大きくて純度の高い魔石初めて見た」

 そのためか、この部屋全体に精霊が多く集まっているのを感じる。


「ミファンダムス帝国は元々、小さな炭鉱村から拡大した国でね! 今も尽きることなく魔石は発掘されて、そのおかげで魔術に関する技術が発展してるんだよ。だから各国の街に結界の技術を提供出来る余裕があるってわけさっ!」


 何故か自慢げに説明するガロに、特に興味もなかったので「へぇ」と素っ気なく返す。


「さて、お兄さん。オレたちの出番だよ」

「そういえば普通に部屋に入ってこれたよな?」

「問題はここからだよ」そう言ってピアスから杖を出現させると、杖の先で宙を叩いた(・・・)

 コンコン、と見えざる壁に弾かれる杖先になるほどここにも結界かと納得する。


「この結界は普通じゃこじ開けられないように出来てる特別仕様だよ。勇者でも魔王でもここは絶対に破れない」

「そ、それは凄いな……」


「だけど魔術は所詮“式法則”で成り立ってるわけだから、それを崩せれば解術出来るん」

「他の魔術師が聞いたら“言葉で言うのは簡単だよな!”ってツッコミが絶対に入るところだけど、自信満々に言うからにはなんとか出来るわけだね! さっすが天才魔術師!」

 まあね、と満更でもなさそうに鼻高に笑みを零すリュウレイ。


「とは言ってもこの方法、魔法師がいないと成り立たないんだけどね。――お兄さん、オレが指示したら結界の内側から(・・・・・・・)魔法を使って欲しいん」

「分かった、内側からだな――――ん?」


 結界の、内側……?


「出来るでしょ?」

「いやいやいや、なんで出来て当たり前だよねみたいな感じで言ってんのお前! やったことねぇーし、そんなこと出来るのかよ!?」


「魔術と違って魔法は精霊に魔力を与えることで力を行使するん。結界は精霊を拒まないしそもそも拒めない。そしてこの結界は内側からの攻撃に弱い」

「……なんか一気に結界の脆さが露呈されている気がするぞ」

「そもそも魔法師自体希少種だってこと忘れないで欲しいん……。それに普通に魔法師がこの結界を突破したところで、その先にある魔術紋陣を破壊することも弄ることも出来ないだろうし」


 その理由はさすがに分かる。――あの魔石だ。

 どれだけ魔力を用いても、あれだけ純度が高い魔石があれば精霊はこっちに見向きもしないだろう。

 だけどそれは、少し離れただけのこの場所も似たような条件なんですが……。


「もちろんオレの魔術で多少この結界を脆くさせるし」

「………分かった、やるだけやってみる」

 魔力回復薬多めに持ってきてて良かったと大きく溜め息を吐いたところで、リュウレイが杖を振った。


【“式”による“式分析”開始】

 いつものように二枚の帯のようなものが少年の周囲に現れ、文字を浮かび上がらせる。

それらを鋭い目つきで精査していくと、おもむろにいくつかの“式”を指でなぞってはそれを移動させていく。


「こうして改めて見ると、魔術と魔法は別物ですね」

 不意に暇を持て余したのか、ニアが不思議そうにリュウレイの姿を見る。

「正直、魔法の方が簡単そうです」


「まぁ、魔法師から見ても魔術の方が難しそうだし、だけどそれだけ緻密さがあるんだよなぁ」

 魔法は感覚的なものが多い一方で、魔術は素質と技術と知識が必要だ。その分魔法と違って出来ることが多い。


「魔法の利点は詠唱も媒介も必要なく、直接精霊とやり取り出来るところだね!」

「ハッタリ利かすには便利だな。でも魔術の万能感は羨ましい……」

「そういえばアルニは魔道具とか使わないですよね。魔法師は使えないんですか?」

「声繋石使えるから、一応そういうのはないと思う。ただ魔術要素が強い物だと上手く使えないんだよ」


 例えばニアが剣の柄に提げている鈴、あれも魔道具の一種だが、アルニはそれを使いこなすことは出来ないだろう。

 おそらく魔力の使い方が違うから勝手が分からないのかもしれない。


 そういうものなんですね、とニアが納得したところで「お兄さん、お願い」と呼び出しがかかった。


 ……確か内側から魔法で結界を攻撃すれば良いんだったよな。

とりあえず魔力を放っておびき寄せようとするが、やはり魔石の近くから離れる気配がしない。これはもうギリギリまで魔力使うしかないようだ。


 小さく深呼吸し、右手を前に翳す。

「―――精霊よ、」そんな石ころの魔力より、俺の魔力の方が美味いぞたぶん。だからこっちに来い!


 ふわり、と呼応するように小さな風が頬を撫でた気がした。


 よし。

「精霊よ、見えざる壁に猛威を奮え――!」


 空気中に含まれる水蒸気が結界の向こう側(・・・・)で集まっていき、小指の爪くらいの大きさの水玉がいくつか浮かび上がる。そしてそれらは目にも止まらぬ速さで結界を攻撃すると、ビシッと亀裂が入った。


 …………、あれ、壊れないんだけど。

 魔力が尽きて膝をついたアルニが不安に思っていると、おもむろにガロが剣を取り出してその柄で亀裂部分を突いた。するといとも容易く結界がバキンと壊れた。


「いやぁ、こんな簡単に結界が壊れるのを見るのはなんだか変な感じだねぇ~!」

「アルニ大丈夫?」心配そうに駆け寄ってきたティフィアに平気だと答えながら回復薬を飲みまくる。


「お兄さんご苦労様。――あとはオレに任せて」

 再び魔術を発動したリュウレイ。おそらく結界の“式法則”に紛れ込ませてある魔力供給の“式”を探して消すつもりなのだろう。


「じゃあ、俺らはこっちだな」


 全員が剣を抜いて振り返った先――封印の間へと繋がる階段から数匹の調教獣(ヴァスカヴィル)と十数人の兵士が降りてきた。



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