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6-4


***


 短剣は軽い。


 普段使っている切れ味の悪い剣は、力任せに振れば抉ることが出来たのに。短剣は軽すぎて上手く力が乗せられない。

 何度もノーブルへ特攻仕掛けるが、剣筋は軽くいなされ流され、カウンターで返されてしまう。おかげで戦い始めてたった数分くらいで、もう全身はボロボロだし息も荒い。


 それでもなんとかノーブルに食い下がれているのはシスナのおかげだ。

「ちょっと出来損ない! 一撃くらい与えることも出来ないの!?」

 ティフィアへ斬りかかってきたノーブルの斬撃に、鎖を束にして防いだシスナが苛立たしげに声を上げる。


 その隙にと極限まで屈んで視界から外れたところで後ろから左脇へ短剣を突くが、ノーブルは顔も視線も動かすことなく、短剣を持つティフィアの右手首を蹴り上げた。

「っ」すぐに距離をとって逃げるも、危なかった。短剣を手放すところだった。


「やはり」ノーブルがティフィアと、少し離れた場所にいるシスナを順に見て、それから失望したように天を仰いだ。「やはりまがい物では世界は救えない」


 それに対抗して吠えたのは、意外にもシスナだった。

「貴方が世界の何を知ってるって言うの? 第一私たちのお父様が尽力してるし、貴方が何かをする必要はないわ! お父様が『勇者計画』を実現させて―――」

「そうだ、あの男は必ずや計画を成功させるだろう!―――そして世界は100の巡りを再び繰り返すのだ!」

「? そ、それの何が悪いのよ」

 シスナの疑問にティフィアも同意する。


 100の巡り。――100年に一度現れるという魔王と、それを倒すために女神様が選定した勇者が生まれ、勇者が魔王を倒す。

 今までだってそうして勇者と魔王は戦いを続け、人間と魔の者も争い続けてきた。


「では一つ問おう、偽物よ。――何故今まで魔の者どもが根絶やしにされない?」


「―――」ティフィアもシスナも言葉に詰まった。

「何故100年に一度なのか。何故魔王を倒せるのは勇者だけなのか。何故女神様は人間から勇者を選ぶのか。何故勇者には“証”があるのか。何故争いは続くのか。何故魔の者がいなくならないのか」

 何故。

 何故。

 何故。

 ノーブルは問い続ける。それはおそらく、ずっと彼が考え続けてきた疑問だったのだろう。


「貴様らは考えたこともないのだろう。誰もがそうだ。我も昔はそうであった。まるで常識だというばかりに、一つの疑問も疑念も抱くことなくそう思い込まされて(・・・・・・・)しまっていた(・・・・・・)

 恐ろしいことだ、と彼は肩を震わせた。


「我は繰り返すような愚行は犯さない。次の世代にまで繰り返すことはさせない。我々が!我こそが! 魔族を根絶やしにして終止符を打つ! この“大型魔術紋甲殻機(ナイトメア)”で!」


 ノーブルは腰を落として剣を水平に構えた。嫌な予感がする!

 すぐに短剣を前に構えるが、受け止めきれる自信がない。それがシスナの魔術でサポートされたとしても、だ。


「―――“証”すら持たぬ出来損ないの人形よ、ここで終わらせてやろう」


 来る!

 ズンッ、と周囲の空気が重くなる。これは魔術というよりも彼の威圧がそうさせるのだろう。力量の差が圧倒的過ぎる!

 シスナが鎖ではなく結界を展開するが、ダメだ……これは―――!



「オーガス流奥義《竜駕必中》―――ッ!!」

【限定解除――聖なる鎮魂歌ヴィーナス・レクイエム!】



 結界をいとも容易く破り、ティフィアを殺そうと肉薄するノーブルの剣が止まった(・・・・)

 殺気を放っていたノーブルの目にも動揺が映り込み、息を呑んだティフィアは「え」と間抜けな声を漏らして尻餅をついた。

 シスナを見れば戸惑うようにこっちを見てきたので、どうやら彼女の魔術でもないようだ。


「二人ともボサッとしてないで今の内に逃げるッス! そんなに保たないッスよ!?」

 唐突に部屋の扉が開いたと思ったら、何やら派手な色の少女に怒られた。

 シスナは「え、なんで」と再び戸惑っていたが、確かにこれは逃げるチャンスだ。すでにノーブルの目は落ち着きを取り戻して力任せに動こうと体を軋ませている。時間がない。


「シスナちゃん」ティフィアはシスナの手を取って部屋を出た。


***


 リュウレイの魔術によって再び透明人間となり、兵士たちを掻い潜りながらカサドラ宮城までなんとか辿り着いたアルニたちだったが……


「なんだか騒がしいですね」

 近くの茂みに隠れつつ、ニアが口にした言葉に頷いた。


 確かに宮城に配備されているはずの兵士たちが忙しない。警備体制が厳重ではあるが、何故か宮城の周囲というよりも“内側”の方を強化しているように感じる。


「なんかあったん?」

「ふむ、様子から察するに宮城内で何かあったのかもね。ティフィアちゃんだったりして」

「どうだろうな……声繋石に呼びかけても反応ねぇから分かんねーけど。とにかく今がチャンスだな」


 城の周囲の警戒が疎かになっているのであれば、そこを狙うのが一番良いだろう。むしろ絶好の機会だ。見逃すわけにいかない。


「よし、ガロ。お待ちかねの陽動作戦だ、暴れまくっていいぞ」

「ひゃっほーいっ! やったZE☆」

「え、でもティフィア様の正確な居場所が分からないのでは……?」

 待ってましたと喜ぶガロとは反対に、ニアが首を傾げた。


「すでになんか起きてる城の中を、陽動で更に引っかき回す。そうすれば要所や要人を守ろうと強そうな兵士が騒ぎの渦中とは別の場所に留まるはずだ。つまりそのどこかにティーがいる可能性が高い」

 もちろんこの騒ぎをティフィアが引き起こしたものであるならば、逆に騒ぎの中心にいるかもしれない。


「混乱に乗じて俺が城の中を探る。で、ニアにはガロと一緒に行動してもらって、ティフィアを見つけたら保護してくれ」

 そしてどちらかが見つけたときに声繋石で連絡をとれば良い。


「なるほど……、ティフィア様がご無事であればいいのですが」

「お兄さん、オレは?」

「レイは俺たちがティフィアを取り返したあと、逃げるためにまた透明化の魔術使ってもらうからそれまで隠れて魔力を温存してて欲しい」

「またあの魔術かぁ……」頼られるのは嬉しいが、ちょっとつまらないと微妙な表情で返すリュウレイに苦笑しつつ。


「よし、行くぞ」


 アルニのかけ声に三人は頷いた。




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