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2.潜在能力


 正直レドマーヌを完全に信用出来るかどうかで言えば、これがミルフィートが用意した周到な罠である可能性は否めない。


 だが。


「分かった。頼む、力を貸してくれレドマーヌ」

「任せて欲しいッス!」

 力強く握手する二人に信じられないとばかりにニアが吠えた。


「待ってくださいっ! 現状が窮地なのは分かりますが、だからと言って更に崖っぷちに自ら追い込む行為――貴様は勝手すぎる!」

 レドマーヌに向けていた剣先をアルニに向けるニアに、こうなると分かっていたけど面倒くさいなぁと内心思いながらも説明することにした。


「いいか、俺たちがこの窮地を脱するには『街に着くこと』か『ミルフィートを仕留める』ことだ。街に着けば結界もあるし戦力もある。魔族(ミルフィート)一人相手するだけならなんとかなる、かもしれない」

「そんなことは分かってます!」


「でもさっきの攻撃……まるで俺たちの居場所が正確に分かっているようじゃなかったか」

「だからあの魔族は私たちを嬲り殺すつもりなのでしょう?」

「そうだな。でもこの際、ミルフィートの目的なんてどうでもいい」

「! ど、どうでもいいなんて……!」

「考えたって確実に分かるわけじゃねーし、もうすでにあいつの“掌の上”なわけだし。それなら俺たちが考えるべきは現状の打破しかないだろ」


「そ、そうですが……っ」

「すでに俺たちはかなり詰んでる。罠であろうがなかろうが、賭けるしかないんじゃねーか?」

 言い負かされたニアがレドマーヌを一瞥する。


「信用しなくても良いッスよ。人族と魔族の溝は深いって魔王様も言ってたッス。レドマーヌだってそれくらい分かるッスけど、利害が一致してるなら一時的な共闘もありじゃないッスか?」


「……………………………………いいでしょう」長い沈黙の末、強引に自分を納得させたようなニアの一言にアルニは肩を竦め、レドマーヌは苦笑した。




 上空から再び巨大な釘が降ってきたところで、場所を移動しながらレドマーヌの能力について聞く。


「レドマーヌの神様は“慈愛の乙女フィアナ”様ッス。レドマーヌの想いが強ければ強いほど、レドマーヌの矢は必ず相手に届くッス」


 魔族の使う術は“祈術”というらしい。その原理とか細かいことは聞いてる余裕はないので、とりあえずレドマーヌは弓使いで狙いが外れることはない、ということは分かった。


「他に使える術みたいなのはないのか?」

「回復術はあるッス。あとは潜在能力の底上げとかッスかねぇ?」


「……潜在能力?」

「うーん、普通に身体能力の向上とか魔力増加ぐらいの認識で良いッス」

「それはどのくらい持続出来る?」

「レドマーヌの魔力が枯渇するまでッスねぇ~」

 念のためふて腐れているニアにも確認をとり、その潜在能力底上げとやらを頼む。


【我願い叶う(・・)者―――“慈愛の乙女(フィアナ)”様、どうか力をお貸し下さい】


 レドマーヌがマント越しに己の魔装具へと触れる。


【そしてこの願いを届ける羽根をもたらせたまえ。―――目醒めの聖なる羽根よ(ヴィーナス・ウェイク)


 淡い橙色の光が彼女の胸を一瞬灯したと同時に、三人の頭上にふわりふわりと橙色の羽根が降り注ぐ。それに触れた瞬間、ニアは自分の体が軽くなったのと全身の神経が研ぎ澄まされていく感覚に驚いた。


「これは……」以前ニアが使った身体能力向上の術よりも遙かに上位互換の術だ。すごい。純粋に感動するニアの隣で、しかし一人だけ「っ、ぐ……ぅっ」苦悶の表情を浮かべて膝を着いた。アルニだ。

「大丈夫ですか……!?」

 咄嗟に駆け寄ろうとするニアを手で制した。


「え、え、レドマーヌなんかマズイことしちゃったんスか……? 術解いた方がいいッスか?!」

「いや……いい、大丈夫だ。たぶん、すぐ慣れる」

 目の奥が燃えるように熱いが、堪えられる痛みだ。問題ない。

 何度か目を瞬かせ、確認のため周囲を見回す。いつもより視界が広く感じる。そして更に視力が良くなったのか、普段よりも遠い距離も鮮明に見える。……それにこれは―――――


「…………とにかく今はミルフィートだ。ニアはやつと接近戦を持ちかけろ、俺とレドマーヌはその援護をする。あいつの能力は遠距離での戦いが優位だから、なるべく近づけ。そしてあいつに詠唱させる時間を与えないようにするんだ」

「攻撃こそ最大の防御ってやつですね。……この小剣でどこまでやれるか不安ですが、やってみましょう」


「あ、二人ともこれあげるッス」そう言ってレドマーヌは背中の羽を毟って、羽根を3枚ずつアルニとニアに渡した。

「ミルフィートの祈術属性は“闇”ッス。この羽はレドマーヌの“光”属性の魔力が込められてるッスから、いざってときに掲げれば結界の代わりみたいになるッス。あとは多少ッスけど回復も出来るッス」


「なかなか万能な羽ですね……」

「でも本当に多少ッスよ? あまり頼りにして欲しくないけど、お守り代わりみたいなものッス」

 苦笑するレドマーヌに素直に感謝すれば、照れくさそうに笑った。えへへーと無邪気に笑う表情が、何故かティフィアと重なって見えた。


「……早くあんな魔族片付けて、ティフィア様の元へ戻りましょう」

「ああ、そうだな」

 なんだかんだ船から出てだいぶ時間が経ってる。早く戻らないとあの泣き虫の少女は心配してしまうだろうから。



 ミルフィートの居場所はアルニたちを襲撃してきた地点から少しズレており、アルニの“目”とレドマーヌの索敵能力によって大体の位置は分かった。

 しかしだからといってニアをそのまま突っ込ませれば、集中砲火を浴びるだけだ。そんな自滅行為をさせるわけにはいかない。


「つーわけで、レドマーヌ。さっそくお前の実力をみせてもらう」

「いきなり上から言うようになったッスね! でもいいッスよ! レドマーヌ、出来る子ッスから!」


 アルニから受け取った4つの小さな布袋は、口が糸で縫われているものの青臭さが周囲に漂う。

「これは今さっき即席で作った“タネ”だ。ナズの葉と可燃粘土が入ってる」


 可燃粘土は刺激を与えるとすぐに熱量を帯びる旅人必須の材料で、あとはどこにでも生えてるナズの葉と一緒にすることで、即席目くらまし用煙幕弾の完成だ。矢にくっつけて飛ばせば好きな場所から煙幕が発生するだろう。

 ……ローバッハで色々買い込んでおいて良かったぜ。


「合図したら頼む」

「了解ッス!」威勢のいい返事と共にするすると木に登っていったレドマーヌを見送り、ニアには木製の小さな筒を手渡して途中で別れる。


 ミルフィートが俺たちの居場所が分かるなんらかの能力があるとして、おそらく自分の近くまで来ていることも察知済みだろう。それでもやつから攻めてこないということは、こちらから仕掛けてくるのを待っているのかもしれない。――上等じゃねーか!


「……よし、全員配置についた頃だな」

 アルニは一つ息を吐き零すとゆっくり目を閉じた。


「―――風の精霊よ、土の精霊よ、水の精霊よ」

 体から魔力を滲ませるように発すると、それに食いついたように精霊たちが集まってくるのを感じる。そして――恐る恐る閉じていた目を開けると、分かっていたことなのに思わず息を呑んだ。


 視える(・・・)


 己の周囲に漂う、半透明な色とりどりのそれら(・・・)

 形はない。ぼんやりと光を放ち浮かぶ“それ”が、魔法師であるアルニの感覚が――精霊であることを確信づけた。


「これが俺の潜在能力かよ……」


 レドマーヌが術を使ったとき、視界に映った奇妙な光の正体。なんとなくそうかもしれないとは思ったが……。

 ……まぁ、精霊が見えるからと言ってどうにもならないし、どうせなら保有魔力量が増えるとかならニマルカみたいに強力な魔法ぶっ放せるのに。

「ないものねだりしても仕方ねぇか……。まぁいい、仕掛けるか」

 声繋石だとニアにしか使えないので、魔法で二人に合図を飛ばした。


 それから間もなく、ミルフィートがいる場所に煙りが立ちこめるのを見て、アルニは走り出した。


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