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1-3


「レドマーヌはレドマーヌッス。ご存知の通り魔族で、“穏健派”に所属してるッス。本当は任務を仰せつかってるッスけど、その前に腹ごしらえしようと目の前にあったリンゴを食べたら、何故か人間に追い回され……ちょっと人間不信になりつつあるレドマーヌッス」


 彼女の自己紹介は、なんというか……色々ツッコミどころが多かった。

 一つ一つ指摘するのは面倒だが、もしかしたら魔族側の情報を得ることが出来るかもしれないので、アルニは質問することにした。


「レドマーヌ、その“穏健派”ってのはなんなんだ……?」

「今魔族は二つの派閥で分かれてるッス。()魔王様が率いる“過激派”と、()魔王様が率いる“穏健派”ッス」


「……は、」てっきり濁されるか、はぐらかされると思っていただけに、普通に答えてくれる彼女にアルニは一瞬呆然としてしまった。

 ―――というか、今“現”魔王と、“元”魔王って言ったか……!?


「過激派は人間に恨みがあるやつ多いから、雰囲気怖いんスよね……。レドマーヌもあんまり近寄りたくないッス。現魔王様は特に頭イカレてるから、なおさらッス。過激派はイカレ集団ってレドマーヌたちは呼んでるッス!」

「ま、待って下さい!――魔王は、二人、いるのですか!?」

 驚いていたのはニアも同じだったらしく、突然声を荒げて近寄ってきたのを、レドマーヌは怯えながら何度も頷いた。


だって勇者も(・・・・・・)二人いるッスよね?(・・・・・・・・・) だから当然(・・・・・)魔王様も二人いるッス(・・・・・・・・・・)

「勇者が、二人……?」


 咄嗟に思い出したのは、自らを『勇者の亡霊』と称したリウル・クォーツレイだった。もし、彼がその一人として数えられるのであれば、なら―――もう一人、別にいる?


「――まさか、また(・・)帝国が」そのとき、ニアが小さく掠れた声で呟いた言葉が聞こえ、アルニが彼女の方を向くと、それに気付いたニアが慌てて口に手を当てた。明らかに失言だった、と言わんばかりに。


 ……勇者。

 確かティフィアの話では、いつか(・・・)勇者が現れる、ってことだったはずだ。しかしレドマーヌの話では、まるですでに勇者は存在しているかのような口ぶりだった。


「……どうして、魔王が二人いると勇者も二人いるって分かるんだ?」

「? だって魔王様と勇者は『運命共同体』ってやつだって、レドマーヌは聞いたッスよ?」

「運命共同体?」

「勇者が誕生すれば魔王様も誕生する。魔王様が誕生すれば勇者も誕生する。そしてその逆……勇者が死ねば魔王様も死んで、魔王様が死ねば勇者も死ぬッス。だから魔王様は勇者を―――」


「おしゃべりが過ぎるよね、ネ?―――レドマーヌ」


 ガガガガガガガガガッガガガガガガガガッ!!!!


 突如として二人とレドマーヌを遮るように、上から降り注いだ鎖によって壁が出来てしまう。

 聞き覚えのある癖の強い言葉に、嫌な予感を覚えながら振り仰げば―――ちょうど木々が開けた宙に浮く一人の男が、左手を広げて右手を胸に当て、深々と頭を下げてお辞儀した。


「やあ忌々しい人間、お久しぶりだね、ネ? 傷も癒えたから、会いに来たんだよね、ネ」


 体のラインがはっきりと分かる黒いボディスーツ、縦に細長い二つの瞳孔、胸に埋め込まれた紫水晶(アメジスト)の“魔装具”、そして腰から生えた細長い一本の尻尾。

 王都の結界を破り、襲撃してきた魔族―――


「ミルフィート……っ!?」

 名前を呼ばれた魔族の男は、それはそれは愉快そうに嗤った。


「あれが、王都を襲撃した……?」

 ニアの問いに頷き、それからアルニはこの状況はマズイな、と周囲を視線だけで見回す。

 ニアは普段の鎧姿ではなくただの服しか纏っていない。しかも使い慣れた愛剣もなく、心許ない小剣だけ。アルニ自身もさすがに魔族と対立するとは想定していなかったので準備も足りていない。


「ニア、」

「分かっています」

 隙を突いて逃げるしかない。


 問題は逃げこむ場所だが、街しかないだろう。あそこには結界もある。

 もし王都と同じく結界が弱体化されていたら最悪な事態になりかねないが、他に逃げ込める場所もない。万が一のときは、ティフィアたちを呼んでサハディの兵と共闘するしかないだろう。……ティフィアの存在が知られるのは不本意ではあるが、魔族と戦うなら戦力は多い方がいい。

 とにかく、今は逃げることだけを「逃げようとか考えているなら、一応忠告するね、ネ?」


「っ!」

 まるでアルニの思考を読んだかのようなミルフィートの言葉に、更に警戒心を上げる。

「俺もね、ネ? あのときは下等な人間ごときって舐めきっていたからね、ネ? 次に会ったときはちゃんと殺そう、本気で殺そう、て思ったんだよね、ネ?」

 だから、と彼は続けて言った。


「『穏健派』から『過激派』に乗り換えて、魔王から認められるよう媚び売って、それでようやく加護ももらって、俺の能力(ちから)も完全なものになったね、ネ。………あっは♪ これであのときの屈辱を晴らせられる――――――殺すね、ネ?」


 ミルフィートが大きく腕を広げるのに呼応したように、彼の周囲に黒い靄が湧き上がる。

「ちっ―――!」攻撃を仕掛けられる前にと、アルニは小物入れから直径5(センテ)くらいのガラス玉を取り出し、それを小刻みに振ってから地面に向けて勢いよく投げ落とす。


「ニア! 口塞げ!」

 言いながら自分も服の袖を口元に押さえつつ、踵を返して二人とも逃げるべく駆けだした。

 パリンッ、と割れたガラス玉からは薄らと煙のような霧状の気体が湧き上がる。


 これは以前、ライオスの街でシスナに襲撃されていたティフィアたちを助けるべく使ったモノと同じだ。目に見えない、空気よりも軽い砂で、気管に入ると咳が止まらなくなる。詠唱を必要とする術士にとっては厄介な代物だろう。……万が一に備えて仕込んでおいて良かった。


 ただ調合にかかる費用が馬鹿にならないので、本当に緊急時における逃亡用にしか使えないが。

 でもこれで時間稼ぎくらいにはなるはずだ。本当は二手に分かれて街に戻るのが良いが、あいにくニアは方向音痴なのでその手は使えない。一直線に街へ戻りたいところだが、それもミルフィートに行き先をバラしているのと一緒なので、遠回りにはなるが蛇行しつつ、少しずつ街に近づいていく。


 霧が見えなくなったところで腕を外し、念のために背後を確認する。――よし、いない。撒けた。

 一瞬レドマーヌのことが頭に過ぎったが、彼女のことをミルフィートは知っているようだったし、同族だし、まぁなんとかするだろう。


「アルニ、……おかしいと思いませんか」

 隣で走っていたニアが、眉を顰めながらふと言った。

「逃げる際、咳が聞こえませんでした」

「え、――マジで?」


「そもそも魔族は人間とは違います。体のつくりが違うんです。……もし、魔族が息をしない生物であった場合、あの仕掛けは有効なんですか?」

「………いや、少し目が痒くなるだけで、たぶん効果はほとんどないな」

 ニアの呆れた表情に、いやだって息をしない生き物がいるとは思わないだろ!? と反論したくなった。


「で、でも、もしニアの言うとおりなら追いかけてこないのはおかしいだろ?」

「ええ。ですから、おかしいと思いませんか? と最初に言ったのです」

「……可能性としては泳がされているか、或いは待ち伏せされているか」

「あの魔族は王都を襲撃したときに勇者の身柄を要求していたそうではありませんか。それはつまり、私たちを餌にティフィア様を釣り上げようとしているのでは……?」


「いや……それなら、そもそも奇襲してくる必要が、」

「っ、危ない!」


 ニアに突き飛ばされた瞬間、二人の間に巨大な釘が2,3本地面に突き刺さった。

「た、助かった……」

「……やはり見逃す気はなさそうです。―――だとすればもう一つ可能性が出てきましたね」


 私たちを嬲り殺すつもり、なのでしょう。


「……くそっ」

 あっちが嬲り殺すつもりなら街へ逃がす気はないのだろう、やはりこの状況でやつを倒すほかないようだ。

 ニアにもそれが理解出来たのか、だいぶ深刻そうな顔つきをしている。


「むむむっ、この釘は具現化した魔力で出来てるッスねぇ~。レドマーヌの矢と同じ仕組みッスか……やっぱり魔族の“祈術”はみんな似たようなもんなんスかねぇ?」

 その隣で同様に難しそうな表情をしている羽を生やした少女が唸る――――って、


「レドマーヌ!?」

「はいッス」


 平然と返事する彼女に驚きを隠せないアルニと、警戒して小剣を向けるニア。

 その二人に向けて、レドマーヌは右手を差し出した。


「不肖レドマーヌ、『過激派』に乗り換えたミルフィートにお灸を据えるお手伝い、是非ともさせて欲しいッス!」



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