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勇者が死んだ世界を救う方法  作者: くたくたのろく
二章 勇者の使命
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4.街の真実



 決行は、太陽が空の真上に来た頃に開始した。

 街長の屋敷へ向かったニアを見送り、三人で教会へ向かう。ニアが戻ってくるまでは、無用な戦闘を避けるべく、建物の影にて待機だ。


「………ねぇ、二人とも」

 リュウレイが杖に何か術を仕込んでいるのを眺めていると、唐突にティフィアがきょろきょろと周囲を見回す。

「なんか……おかしくないかな?」


 不安そうに、しかし、その不安がどこからくるものなのか分からず、困惑している少女の言葉に、二人も周囲へ意識を向ける。だが、変わったことはないように思えた。

 教会へ参拝しに来る人、おいかけっこしてる子供、井戸端会議している女性、作業着を着た男性。

 なんの変哲もない、街の光景。

「―――、まさか」

 何かに気付いたリュウレイは、杖を地面に突き刺すと、


【“式”による“式分析”開始】


 その瞬間、ヴンッと音を立て、少年の周囲に薄い、青白い半透明の帯のようなものが浮かび上がった。


【ライオスの街を覆う“式”と“式法則”を表示】


 リュウレイの言葉に呼応するように、帯に文字が刻まれる。それを視線で追っていた少年は、不意に顔を青褪めさせ、ティフィアとアルニに振り返った。

「まずいよ、これ。街全体に変な魔術がかけられてる」

「へ、変?」

「レイ、詳しく話せ」


 ぴんとこないのか、ティフィアはただ首を傾げたが、途端に嫌な予感がしてきたアルニの追求に、リュウレイは再び帯へ視線を移して口を開く。

「この式法則は見たことがあるん。意識と感覚を操作するもの……魔術の中でも“禁忌法則指定”されてるやつ」

 意識と感覚の操作……? それってまさか、


「洗脳、だよ」


 ざわりと鳥肌が立った。

 絶句するティフィアとアルニを横目に、リュウレイは更に続ける。


「この術式、少し前から調整されてる。たぶん、街長が結界に細工したとき、一緒に仕掛けたん」

 少し疑問に感じていたことがあった。シスナという少女は、街中でも気にせず鎖を晒していたという。なのに騒がれることがなかったのは、おそらくその術式のせいだろう。


「あと、それだけじゃないん。――街の人たちの魔力が、街長の屋敷の地下に集められてる」

「……レイ、ここからその魔術をなんとかすることは出来ないのか?」

「無理。直接その術式に触れないと、どうにも出来ん」

「洗脳の術はすでに俺たちにもかけられているのか?」

「うん、たぶんオレたちが街に入った直後からね。この街にかけた魔術に気付かれないためだと思うん。……むしろお嬢、よく気付いたね」

「ふぇ?…………んー、なんかね、頭の中がすごくスッキリしてる感じ。だから、なんか変だなぁ、って思ったの」


 体調が良くなって、感覚が冴えているのかもしれない。

「どちらにせよ、俺たちはこのまま待ってるしかないな」

 結界の陣と魔術は一緒になっている。ならば、どちらも封印の間にいかなければどうしようもない。魔力を集めている理由も気になるが、それを設定してる魔術をなくす方が先決だろう。


「あ、ニア!」

 唐突に声を上げたティフィアの視線を追えば、そこには街長のライズを引き連れたニアがいた。

「お待たせしました」

 どうやら説得は上手くいったらしい。

「あとはレイ、頼んだぞ」

「オレを誰だと思ってん? 天才魔術師様が、この程度で失敗するわけないでしょ」


 生意気な軽口をたたきながら、ニアたちと教会へ入っていく。

 さきほどの会話は、リュウレイが上手くニアに伝えるだろう。



 それから少ししたとき、微かに地面が揺れたような気がした。

「アルニ」

「やっぱ、そう簡単にはいかないってことだな」

 両手に短剣を抜いて構えつつ、周囲を警戒。剣を抜いたティフィアも同じように、周囲へ視線を巡らせる。

 街の様子は依然として変わりない。だけどティフィアはやっぱり変だよ、と口にした。

「何がおかしいか、分かるか?」


「……たぶん、この街が―――ライオスの街自体が(・・・・・・・・・)おかしい(・・・・)!」


 その直後、地面が大きく揺れ、二人は咄嗟に近くの壁にしがみつく。

「なんだぁ!?」

「あ、アルニ! 見て!」

 ティフィアが指差したのは、建物の合間、街の外にある草花だ。だが、それは一瞬にして姿を消し、地面は大きく右に傾き、そして左に傾く。


「ひあっ!」手を滑らせたティフィアが転がり落ちそうになるのを、咄嗟に腰に腕を回して抱きかかえ、短剣を壁に突き刺す。



 グゥウウウウォォォオ”オ”オ”オ”オ”オオオオオオオオォォォンッ‼‼



 地響きと共に、耳をつんざくような咆哮に、アルニとティフィアは耳を塞ぐことも出来ずに顔を顰めて耐える。

「っ、ぐ、ぅぅう……!」

「ぃっ、―――くそっ」


 咆哮が収まり、ズキズキと耳の奥が痛むのを無視し、すぐに土の精霊魔法を使う。これで多少は足場の揺れを抑えることが出来た。確認してから抱えていたティフィアを離す。ふらつきながらもしっかりと立った少女は、頭と耳を押さえながら「魔物、だよね……?」と不安そうに聞いてきた。


「ああ、魔物だ」

 それは間違いない。

 だが、

「こんなデカい魔物、見たの初めてだけどな」


 全容は不明だが、おそらく街の下で眠っていた魔物が起き上がったのだ。その背にライオスの街そのものを乗せて。

「――で、あれはなんだ?」

 視線を移せば、街を歩いていたはずの人々は消え、なんか人形が転がっていた。のっぺりとした白地のそれは、しかし、転がっているにも関わらず手と足が交互に動き、歩く動作だけをしていた。


「どこからどこまでが洗脳だったのかな……」

 あんな人形を街人だとずっと思い込まされていたのか……。

 だが、こうして人形の姿が見えるということは、リュウレイがその洗脳の魔術を解いたということだ。ということは、今目に見えているモノが、真実。


「本当の街の人たちは、どこいっちゃったのかな」

 ティフィアが心配そうに聞いてくるが、知ってるわけもなく首を横に振る。

「今はコイツをなんとかしねーとな」

 地面を指差すと、さっきよりは小さい咆哮が応えた。



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