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勇者が死んだ世界を救う方法  作者: くたくたのろく
二章 勇者の使命
35/226

3-3



「あの優しそうなライズさんが……」


 街長と直接会って会話していたティフィアが残念そうに顔を俯け、リュウレイは過激にも「そいつ殺す?」と面倒くさそうに言ってきた。

「リュウレイ!」

「冗談だって。……本気に捉えんでよ」


 肩を竦めたリュウレイは、それからその錆色の少女に襲われてからのことを話し始めた。

「お嬢が具合悪そうに路地に入って、それを見かけたオレは追いかけて―――」

 鎖を用いた魔術を使う少女と対峙し、負けた、と。

 少女はティフィアと同じくクローツ・ロジストの26番目の養子で、名はシスナ。

 彼女の目的は、聞く前にアルニたちに助けられた、と。


 リュウレイの言葉に、ティフィアは少年を一瞥し、それから結局何も言わずに再び顔を俯けた。誰にも気づかれないよう、下唇を噛んで。


「そうですか……。では、やはり街にいなくて正解でしたね。――シスナという少女に襲わせるため、時間稼ぎを街長がしていた、ということでしょう。それならば、このまま街から離れ、港町へ向かうのが良いかと」

 どうでしょうか、という問いにリュウレイが頷くも、そこで「待って」と声をあげたのは、意外にもティフィアだった。

「ティフィア様……?」

「あ、あのね! えっと、なんて言えばいいか分かんないけど……“このまま”は駄目だと思うの! 全部放ったらかしにして、逃げるのは、いけないと思うの!」

 少女の言葉に戸惑うニアとリュウレイ。


「でもお嬢。戻ったらまた襲われるかも知れんよ?」

「そうです。それに、他の刺客が現れないとも限りません」

今回はティフィアが体調不良だったこともあり、リュウレイVSシスナという形になった。ある意味そのおかげでアルニたちが不意打ちを狙って救出できたが、ここで街に戻ってアルニたち全員が揃ったとしても、もし相手側がそれ以上の数と戦力を用意していた場合、今度は逃げることすら困難になってしまう。


 二人の言うことはもっともだ。

 それなのにティフィアは、同意しかねている。なにか引っかかっているのかもしれない。


 このまま次へと向かう方がいいと、正直アルニも思っている。だけど、気になっていることがあるのは彼女と同じだった。

 アルニは、二人の説明を思い出しながら、口を開く。


「ティー、お前はもしかして“結界”のことが言いたいんじゃないのか?」

 その助言に、ティフィアは喉に突っかかっていたものが取れたように「そ、そう! それ!」と興奮気味に発し、残り二人は疑問符を浮かべた。

「ニア、言ってたよね! ライズさんが結界を細工して、危ない橋渡ったとか」

 ティフィアの問いに、戸惑いつつもニアが頷く。


「あのね、もしシスナに襲わせるつもりだったら、そもそも結界をいじる必要ってないと思うんだ」

 珍しく冴えてるティフィアの推理に、リュウレイも「確かに」と同意する。

「シスナは人間だから結界の出入りなんて普通に出来るはずだし、危ない橋って表現もおかしいよね」

「ですがティフィア様、これは罠なんです。鎖使いの少女だけが罠の全容ではないのだとすれば、余計に危険です」


「うん。でも、それなら―――この街はどうなっちゃうのかな」

 もしかすると、放っておけば何も起こらないかもしれない。だけど、そうではなかった場合。

「僕はね、僕にやれることはやりたいんだ。助けられることがあるなら助けたい」

 それが僕のやるべきことだと思うから。

 そう続けたティフィアの、覚悟に満ちた表情に、ニアは口を閉ざした。


「やるべきこと、か。……いいね滾るね。いいよ、やろうよお嬢」

「リュウレイ」

「そうだな。それでこのままライオスに居続けることもなくなって、俺も一人旅する必要がなくなるなら、手伝ってやるか」

「アルニ」

「……………………貴方たちだけでは不安ですし、ティフィア様に無茶はさせたくありません」

 仕方ないですね。そう困ったように微笑むニアに、ティフィアは感極まったように瞳を揺らし、がばりとニアを抱きしめた。


「ニア!」

「ちょ、ティフィア様!?」顔を真っ赤にして狼狽えるニアに、「照れてるぅー」と指を差して揶揄うリュウレイ。アルニは肩を竦め、それからイチャイチャする二人の女性の姿を暫しぼんやりと眺めた。



「――――ティー、落ち着いたか? じゃあ、具体的な話するぞ」

自分がしたことを今更恥ずかしがっているのか、顔を赤くしたティフィアが「お願いします」と小さく呟いた。それを確認して一つ頷くと、アルニは木の枝を持って地面に何かを描く。主に大小様々な四角が、綺麗に並んでいた。


「え、お兄さん。もしかして、これってライオスの街?」

「ああ。簡単な見取り図だ。これが街長の屋敷で、こっちが俺たちが泊まってた宿な」

 大きな長方形を差していた枝の先をついと動かし、そこから少し離れた小さな四角を指す。

 通りの再現まで簡略的とは言え完璧だとニアとリュウレイは、思わずアルニを見てしまう。それに気付いたアルニが「なんだよ」と聞いてくるが、二人は揃って首を横に振った。

「?」


「ねえねえ、アルニ。僕たちが襲われてた路地ってどの辺なの?」

「ん? ああ……、ここだな」

 それほど広くも狭くもない通りを差す。だが、実際は全く人通りがなかった。しかし、こうして地図にして思い返せば、商店街から近い場所にある。賑わう通りの近くにあるこの通りは、あまり使われないから人も通らなかったのだろう。だからこそ戦闘音にも気付かれなかったのかもしれない。


「ねぇ、リュウレイ。この街を覆えるくらいの結界を張るなら、“魔術紋陣”はどこにあるかな」

「大体街の中心に置くんが普通だから、たぶん、この建物」

 リュウレイが指で差したのは、小さな四角だ。

「そこは古くて小さい教会があったな……」


「どちらにせよ、魔術紋陣はその街の(・・・・・・・・・)責任者から許可もらわ(・・・・・・・・・・)んと、封印の間には(・・ ・・・・・・)入れんよ(・・・・)?」

「――封印の間?」

「結界の魔術紋陣がある部屋。結界がある街なら、街の中心のどこかに必ずあるはずなん。そして、街の責任者の魔力と文言によってじゃないと入れないようなってん」

 なんかすげえ重要度高い話じゃないか……? 大体この話が本当なら、王都での事件は―――、いや、今は置いておこう。


「なら、街長の説得は必須か……」

 帝国とどんな取引をしたのかは分からないが、一番難しそうな気がする。

「……――説得なら、私がやります」

 そして、手を挙げたのはニアだった。

「私の方がこの中では、帝国と王国の内情には詳しいですから。適任かと思います」


「そうだね。ニア、お願いするね」

「はい! お任せを。……三人は教会で待っていて下さい。必ず連れてきますから」

「じゃあ、これで封印の間には入れるとして。魔術の細工自体も街長に戻してもらえるのなら、やってもらおう。ただし、一応レイに確認してもらう」

「もちろん。任せてよ」


「俺とティフィアは、そのシスナって子が邪魔してくる可能性があるから、教会の入り口で待機だな」

「うん! 今日は不思議と体調良いし、今度は負けないぞー!」

 ティフィアのその言葉に、リュウレイの方を見る。闘志を燃やす少女に目を細めて眩しそうに眺めているのを見て、『あのこと』は言わないでいいかと思った。


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