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勇者が死んだ世界を救う方法  作者: くたくたのろく
二章 勇者の使命
30/226

1-2



 それから宿に帰り、それぞれの部屋に戻ると、アルニは色々と考え込む前に強引に目を閉じて眠った。


 翌朝、アルニは欠伸をしながら朝食をとろうと食堂へ向かうと、想像以上に賑わっていることに驚いた。普通の人たちがいるには、まだ少し早い時間なのだが。

 食堂の人から料理を受け取り、席と人の合間を縫って空いてる椅子を探していると、聞こえてくるのは勇者の話題ばかりだった。

「勇者がこの宿にいるんだって」「昨日握手してもらっちゃった!」「勇者様、会いたいな」「どんな人だったんだよ、勇者って」「可愛かったなぁ」「勇者の仲間ってどんなやつだった?」「俺も仲間入れてくんないかな」「勇者様のサイン欲しい!」等々。


 こいつら全員ティフィアを見に来たのかと思わず大きく溜め息を吐き、それからようやく見つけた空席に座ろうとして、

「あ」

「………」

 薄桃色の瞳が不快そうにアルニを一瞥し、それから再び食事に手をつけるニアの姿に、もはや頭痛までしてきたような気がした。

 咄嗟に周囲を見渡すが、他に空席は見つからない。ティフィアやリュウレイも、まだ寝ているのか先に食事を終えたのか、姿が見当たらない。

「……」どうやらまた、味のしない食事をするしかないようだ。


 諦めて席に着き、とりあえずスープを飲む。

「――昨夜はティフィア様と何を話したんですか」

「ッんぐ、ごほっ」噎せた。


 ゴホゴホと気管に入ったスープを咳で追い出すと、何をしてるんだという呆れた眼差しを向けられた。いや、不可抗力すぎるだろ。つーか、お前のせいだ。

「……し、知ってたのか?」

「見てましたから」

 み、見てたって……どこからどこまで見てたんだよ、と聞きたくなるのを堪え、ニアの出方を窺っていると、彼女は顔にかかった褐色の髪を耳に掛け、それからパンを千切って口に入れた。食べるのかよ。


 なかなか言葉を続けないニアに痺れを切らし、アルニもとりあえず冷めない内にと料理に手をつけた。

 それから二人共食べ終えた頃に、不意に彼女は言った。


「私は、貴方が嫌いです」

「……知ってるぞ」

 わざわざ言葉にしなくても、ニアの態度があからさま過ぎて分かりやす過ぎる。

「そうですか。………ティフィア様は、貴方に“全て”を話されたのですか?」

 だが、今のニアは無表情だ。その言葉に含まれる感情が読み取れず、慎重になりつつ、アルニは正直に答えることにした。

「いや、たぶん、“全て”ではねぇと思う」

「そうですか」そしてニアは席を立ち「私もです」それだけ言い残して食堂を出て行ってしまった。……いや、どういう意味だよ、とアルニは再度、大きな溜め息を吐いたのだった。


 それから、部屋に戻って身支度をし、待ち合わせ場所である街の出入り口で、柱に寄りかかって待ちながら、昨晩のティフィアの言葉を思い浮かべる。

 ―――なんでアイツは、あんなこと俺に話したんだろうか。

 けして軽い話ではないし、周囲に言いふらされるのが困るぐらいには、気密性の高い話のはずだ。全てではないにしろ、ティフィアは自分で話せるところだけを話している。

 そして、アルニが気になっているのは、おそらくあの話は、リュウレイにも関係してることなんじゃないかということだ。


「あれ、お兄さん早いね」

「……」

ちょうど考えていた本人が、ニアと一緒にやってきた。ティフィアがまだ来てないのは、確実にあの食堂にいた連中に捕まっているだろうことは、考えずとも分かる。

「ねぇねぇ、お兄さん。鬼子豚(ピッグ)のこと知ってるみたいだから聞くけど、そいつってどんな攻撃してくるん?」

 昨日までは静かだったのに、紅い瞳を爛々に輝かせ、魔物のことを聞いてくる少年に、そう言えばこういうヤツだよなと再認識して説明し始める。


「鬼子豚は、一見幼い子供が四つん這いになった姿なんだ。その手足は指がなくて、蹄がついててな、これで殴ってくる」

「うへぇ、当たったら痛そう」

「鈍足だから、よっぽど油断してない限り当たらねぇよ。あとは、噛みついてきたり、膨張したり――」

「膨張?」

「鬼子豚は空気を吸いまくって膨張するんだ。体内に取り入れた空気は魔力で強化されて、膨張すると剣や弓では刺さらねーんだよ。まぁ、頭はそのままだから、そこを狙えばいいだけなんだけどな」


 ちなみに膨張すると、手足が短くなり、鬼子豚自身も動けなくなって攻撃できなくなるんだが。ちなみのちなみ、この魔物はどこを食べても美味くない。煮ても焼いても蒸しても、美味くない。金にもならないことから、旅人や傭兵ですら、相手にしないような魔物である。


「ご、ごめんなさい! みんな、お待たせ!」

 もみくちゃにされたのか、着衣も髪も乱れたまま、ティフィアが走ってやってきた。荒い息をこぼす少女に「大丈夫ですか?」と慈しみ溢れた言葉を発しつつ、ニアが乱れたそれを整えていく。

「よし、さっそく行こう!」

 息も落ち着き、号令をかけたティフィアに従うよう、勇者一行は街の外へと足を踏み出した。




「では、ここは私が」

 そう言って、街から少し離れたところにある荒野にて、ニアは鬼子豚の大量虐殺を始めた。

 その切れ味バツグンの剣で、魔物の首をどんどん跳ね飛ばし、無表情で返り血を浴びるその様は、やっぱり死神のようだった。


「―――て、いやいやいや! なにニア一人で無双してるんだよ。俺たち、何のためにここにいるか分からなくなるだろうが!」

 思わずツッコミを入れてしまったが、その隣でリュウレイが杖で鬼子豚をぶっ刺し、式解析を始めた。どうやら膨張の技が欲しいようだ。お前は自由過ぎる。

「……、なぁティー。もしかして、王都に来る前もこんな感じだった?」

「うん。旅を始めてから、ずっとだよ」

 なるほど、だから旅をしてるのにティフィアとリュウレイの戦闘経験が丸っきりなかったわけか。……これは、きちんとニアと話すべきかもしれない。目的を共にする仲間ではないとは言え、また魔族と出くわす可能性もないわけではないだろうし。強い魔物との遭遇もあるだろう。王都のときは、経験値たっぷりのならず者たちがいたから、言わずと察して協力してくれたが、今はこいつらしかいない。


 ニアは強い。それは闘技大会で戦った俺が、よく理解してる。だが、ニアより強いやつだっているかもしれない。対処出来ない相手が現れるかもしれない。だからこそ、これじゃあ、ダメだ。

 話せば、更に当たりが強くなるかもなぁ、とげんなりしつつ、一人無双してるニアを見る。


 鬼子豚の屍を平然と踏み潰し、血に塗れ、まるで機械的に魔物を屠っていく。

 その姿が――――一瞬誰かと重なる。


「アルニ?」


 はっ、と。ティフィアの声で我に返ったアルニは、咄嗟になんでもないと首を振った。

「……本当に? 顔色悪いよ?」

「いや、昔試しに食べた鬼子豚の味を思い出したんだよ。あれはえげつなかったな」

「そ、そうなんだ……。えげつない味って、よく分かんないけど」

「ん? ああ、……なんか、焼いてもねっとりしてて、噛んだ瞬間生臭さとぬめっといた触感がして、味は油をそのまま食べた感じだったな。―――そういえば、お前こそどうなんだ? ちゃんと朝飯食えたか?」

「今の話の流れでご飯の話題に持ってくのは止めて欲しいかな!」

 力強い拒絶に、大丈夫そうだなと笑う。


「――ティフィア様、鬼子豚の一掃、終了しました」

「オレも、式解析終わったー」

 からかわれたと気付いたティフィアも怒りつつ笑ってると、二人が戻ってきた。ニアの鋭い視線に、とりあえず目を逸らす。

「お兄さん、目の仇だね」生意気に笑う少年の言葉は無視しといた。


 そしてライオスに戻り、ティフィアは一人街長に報告しに行くと、

「おお、さすが勇者様! 鬼子豚を一掃して下さり、大変助かりました。あの場所は港町へ向かう商人が行き交う場所でして、これで彼らも安心して商売出来るでしょう」


目尻が垂れ下がった、皺くちゃの顔がにこやかに愛想笑いを浮かべている。この人が、この街を治める長であり、名前はライズ・デボスロックという。その笑みは、どこかマーシュンを彷彿させ、なんだか信用出来ないおっさんだなとアルニは言っていたが、ティフィアは優しそうな人だと思ってる。


「いえ、みなさんの安全と平穏が守れたのなら、僕も嬉しいです」

 実際魔物倒したのはニアだが、さすがにそこまで馬鹿正直には言えず、ライズの言葉を真に受け、本当に嬉しくて笑みを浮かべる。

 だが、その笑みは次の一言で引き攣ることとなった。

「おお、さすが勇者様! その御心は、人々を慈しむ想いに溢れていらっしゃる。―――では、埃頭鳥(アクタ)の討伐も依頼できますかな?」

「………へ?」


「この街から東のところにある森で、どうやら埃頭鳥が住み着いてしまい、森の動物たちが餌食にされているのです。可哀想でしょう?」

「え、あ、はい」

「では、お願いしますね」

 笑みを濃くしたライズに、ティフィアは小さく「はい」と頷いた。


 街長の屋敷から出て、ティフィアは待っていた仲間たちに頭を下げた。

「ご、ごめんなさい。……そういうわけで、今度は埃頭鳥の討伐を、」

「ティフィア様! 頭を下げる必要はありません。今回同様、さっさと片付けてしまえば良いのです」

「そうだよ、お嬢! それに、これが『勇者』の役目ってやつだとオレ思うん」

 慰めるように少女に声を掛ける二人に対し、アルニは何も言わず、ただ大きく溜め息を吐いた。



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