表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者が死んだ世界を救う方法  作者: くたくたのろく
4章 墓標【後編】
225/226

2-2

お待たせしました!!いつも更新遅くて申し訳ないです……

来月は引っ越すので、更新は再来月になるかもです。ごめんなさーい!!(捨て台詞)



「ラージさん、降伏するってホントですか? 薬草商会はどうするつもりで――」

「女神教も女王様もどうかしてる! ラージ、考え直せ。お前がいなくなったら――」

「待ってろ、すぐに人数集めて抗議してくる。傭兵も何人かなら――」

「まったく……だから一人で背負い込むなっつってんだろ。俺もついていくぞ――」


 教会へ向かう道すがら、何人かに声をかけられた。

 カメラを睨み付けラージを心配する彼らは商人や傭兵で、過去にラージと関わったことのある人物だ。


「……君、実は人たらし? 全然進まないんだけど」

 道中呼び止められる度に敵意を向けられるカメラは、うんざりだとばかりに溜め息を吐く。

 彼らは一人一人微々たる力しか持ってないが、グアラダや兵を失い降伏するというラージに、居ても立ってもいられなかったのだろう。

 もちろん彼がいなくなれば、商人の立場が更に危うくなるというのもある。

 だが、それにしては不自然だ。


「確かに彼らは見知った者たちだが、ここまで親しかった覚えはない。……ミュダ、君の中にあるグアラダの記憶ではどうだ?」

「ラージの言う通りだみゃ。しかもこいつら、メビウスとも関わったことがある連中だみゃあ」

「メビウス……」

ラージを裏切り続け、母上や数多くの者を麻薬中毒者にした因縁の男。しかも彼は実の娘であるグアラダを道連れにして死んだ。


 死してなお、まだ何かあるというのか。それとも彼の『夢の花』はまだ――

 ……止めよう。今考えるべきはそこではない。


「さぁ、着いたよ」

 カメラの声と同時に一行は足を止め、目の前の建物を仰ぎ見る。

 女神教の教会だ。


「自分はマーレと会う前に帰るよ」

「ああ、助かった」

 枢機卿員のカメラに連れられ教会に連行されるラージ、を多くの人が目撃した。

 ラージが降伏、連行されたことはすでに国中の人々の耳に入る。薬草商会の進退、流通の動向など誰もが不安に煽られ噂する。それはつまりラージの処分と教会の対応を常時注視されるということ。

 ――これで良い。


 そしてカメラが能力で転移した直後、教会の扉が開く。

「まァた逃げやがったか、あの女……」


「ずいぶんと嫌われているようだな、マレディオーヌ枢機卿員」

「ハァ……マーレで良い。アタシはこれでもお前のことは認めてンだ」

「潔く投降したからか?」

一人で来る(・・・・・)とは思わなかったが(・・・・・・・・・)――まァそれだけじゃあないサ。とりあえず入れよ。話、しようぜ」


 顎でこちらに来るよう指示するマレディオーヌに従う。この時点で難関の一つは突破出来たようだ。

 彼女が教会の扉を開けるのに気づき、直前でミュダは気配と姿を消していた。レドマーヌが出来るのなら自分にも出来るはずだと練習したのが、いざぶっつけ本番で披露となるとヒヤヒヤものだ。


 ミュダがラージにしか見えないようドヤ顔を向け、マレディオーヌに気付かれないよう安堵の溜め息を吐くと、猫はラージとは違う方角へ歩き始めた。

 ――魔族は教会に入れない。どうやら他の魔族とは少し異なるミュダでもそれは同じだったため、ここからは別行動になる。

 しかし不安はない。グアラダの願いから生まれたミュダを疑うなんてあり得ない。


(成功を疑うな。掴み取れ。失敗は許されない。俺はミュダを信じ、グアラダが信じた俺を信じる)


 ミュダもまた同じ考えだろう。

 神様が信じたラージを信じ、彼女の願いを叶えるために成功させるしかない、と。

 そう――共に生きるために。


 そして扉は閉ざされた。




***


 ――――『薔薇(いばら)の館』。

 常にメグノクサの花の甘い匂いと、男女が艶めき合う夢のような居場所。


 しかし、夢はいずれ醒める。


 それを証明するように館には突如として正規軍が入り込み、僅かな時間で従業員から雇われた傭兵、客まで全員取り押さえられた。

「くそっ! 今更こんな仕打ち……っ」

「メビウス様はもういないというのに、どうして――」

「だからこそだろうよ。女王様はとことん邪魔になりそうなもんを排除したいんだ!」

 メビウスを慕うスタッフと娼婦の声に、思わず「ふふっ」と漏らしてしまう。聞こえてしまったのか彼らは仇を見るように睨み付けてくる。


「マキナ・ウェイバード・ランブレイア……ッ!!」


「あら、卑しい者でもわたくしのフルネームを存じてるなんて、有名になれて嬉しいですわ」

「ッふざけるな!!」

「――待って! お願いです女王陛下! ここを失えば私達はどこにも居場所がないのです! 館がないと……麻薬がなければ……私共は生きられないのですっ!」

 マキナを睨む男従業員の隣にいた娼婦が声を震わせ懇願するが、彼女の返答はあまりにも冷たいものだった。


「ならば死ねばいいではありませんか」

 言われた意味が分からず呆然とする娼婦は、かろうじて「ぇ……?」と困惑を露わにした。


「人生とは現実です。現実から目を背け、夢を見続けるということは人生を捨てたも同然では? ならば死んだとて変わらないでしょう。“死”こそが貴方がたが望む“夢”ではありませんか?」

「そ、れは……」


「いい加減にしろ! お前達は知らないだろ……望まれず生まれた子供がどういう扱いを受けるか……。恵まれない環境で死の恐怖を抱えながら生にしがみつく辛さ……。未来に希望を見いだせない俺たちと違って、幸せそうに将来を語れるやつらへ嫉妬する惨めな気持ち……!

 諦めなければどうにかなるなんて思ってるやつは“恵まれた側”の発想だ! 毎日生きるにはどうすればいいか考えたこともないくせに! 生き方を選べるくせに! なのに……っ、何もない俺たちから“夢”まで奪うのかよ……!!」


「ッ、そうよ! 私達の“夢”は“死”じゃない!! 生きるための“夢”なんだから!」

 二人の言葉を称賛、賛同する声が上がり、それは瞬く間に広がっていく。

 女王の近衛兵がすぐにマキナを守るべく前へ出て、兵士が喚く者たちを沈静しようと暴力を振るう。しかし声は小さくなるどころか勢いを上げていく。


「女王陛下、危険です。ここは我々が……」

「ふふっ、いいのよ。どれだけ声を上げようとも、結局どこにも、誰にも届かないもの」

 変わらず笑みを携えるマキナの表情に、近衛兵がゾッと背筋を震わせて言葉を詰まらせる。


 ――弱い。

 マキナからすれば彼らの抗議こそ“今更”でしかない。

 こうして己の不幸自慢を大声で主張する彼らだが、メビウスが毎月どれほどの給料を与えていたのか知っている。住む場所も食事も着る服も、今や『生きることに必死な者』はこの場にはいない。


 ツラい過去があろうと、それでも立ち上がって抗い続ける人をマキナは知っている。孤独に戦ってきた眼鏡の青年をずっと見てきたのだから。

 ここにいる者共は抗うことに疲れ、屈し、薬物に逃げた。逃げた先は底なし沼。這い上がる(すべ)を彼らは持っていない。

(メビウスは“現実逃避”を理想として、それを“現実”にしようとしてた)

 面白かったし利用価値があったから協力関係を結んだ。でも彼は死に、女神教はラージを捕獲した。もうマキナにとっての邪魔な存在はいないと――そう思っていた。


「女王陛下! 見つかったとの報告が」

 将軍の男がマキナへ耳打ちする。それに笑みを深めた。

 マレディオーヌ枢機卿員が『勇者』の話を持ち出してきた時点で疑問が確信に変わったことがある。


 ――8年前。


 そう、8年前だ。勇者が死んだ、あの年。

 あの年はおかしいことがいくつもあった。女神教の動きが不自然だと、監視させていた偵察隊から報告があった。しかしどうやら隣国のグラバーズで何かあったようで、それ以上調べることは出来なかった。

 しかし不自然な動きを見せたのは女神教だけではなかった。


「――息子は独り健気に貴方を待っていたというのに」

 将軍の配下である兵士が分厚い紙束を大事そうに抱えて近づき、献上するように差し出してくる。一番上の資料には『メグノクサの花 製造工程最終チェック表』という見出しの下――監督責任者と続く名前を指でなぞる。



“監督責任者――ランファ・ブランターク”



 しかもそれだけではない。

 別の資料である『薔薇(いばら)の館』への出資者リストにも彼女の名前が上位にあり、メビウスのしていたことを積極的に支援していたことが良く分かる。

 ――それも、行方不明になった後の日付で署名されている。直近だと2年前のものがあった。

 薬漬けにされてワケも分からず書かされたとは思えないほど、達筆で綺麗な署名だ。


 この『薔薇の館』はメビウスではなく、本当はランファにとっての隠れ蓑だった、ということだろう。

 目的は“麻薬製造”……? いや、恐らく資金稼ぎの方か。当時は教会のせいで市場は荒れ、商人協会も破綻していた。ランファは商人協会も息子も捨て、金を稼ぐことに固執した。


 メビウスは、恐らく利用されただけで何も知らなかったはずだ。あの男は自己顕示欲が強い、利用されているのを知っていたら彼女を殺していただろう。ということは協力者がいたはず。ランファが勇者一行の手によって救出されたことは知ってるが、その中に協力者もいたのだろう。


(理由は何かしら?)

 ランファが愛息子を捨ててまで、そしてリスクの高い方法で資金稼ぎをしなければいけなかった理由。


「――この店の帳簿は?」

「こちらに」

「これは表帳簿ね。他にはなかった?」

「も、申し訳ございません」

 さすがに裏帳簿は処分済みのようだ。ということはマキナの推理は当たっているということ。


(これだから商人は……)

 証拠はすでに処分され、ここにある資料の署名では証拠と呼ぶには不完全だ。筆跡を真似た偽物である可能性を示唆されてしまえばそれまでだ。

 ここで稼いだ裏金はどこへ流れたのか。それが分かれば動機も判明するはず。

 もしもランファが商人協会を再興しようとしているならば――それはマキナにとって最大の脅威。教会と手を組みようやくこの国の王権を大きく出来たというのに。


「――あら?」

 なんとなく視線を巡らせていたとき、ふと目に留まった物へ手を伸ばす。

 棚に置かれたそれは掌サイズの女神像だった。しかし手入れはされていないようで、埃も被り一部ヒビまで入っている。

 女神教――マキナだけでなくメビウスも彼らとは手を組んでいた。でも……女神教が、ましてや枢機卿員であるマレディオーヌが、『薔薇の館』で暗躍していたランファに気付かないはずがない。


 彼女はメグノクサの花の栽培に手を貸していたし、麻薬の製造工程における監督をしていたランファの存在を知っていたはずだ。麻薬漬けにしてるはずの彼女が元気に指示だしていればメビウスに報告していてもおかしくない。


 ランファの協力者が女神教にいる……?

(…………まさか、)

「へ、陛下……?」

 突然館から出て行こうとするマキナに困惑した将軍が声を掛けると、彼女は顔だけ横に向けて「ああ、忘れていたわ。――『薔薇の館』関係者は全員処分して。顧客には身分の確認と、身分相応の保護を」と言い残し去った。


 館から出ると、今度は近衛兵の一人に指示する。

「教会にアポとって。あと一度城に戻って湯浴みするから準備も。私嫌いなのよね、この花の香り。甘ったるくて下品だもの」

「御意」

「あと手土産でも持っていこうかしら」


「高級和菓子で宜しいでしょうか。お茶のご用意はいかがされますか」

「どちらもいらないわ。そうね……洋菓子店で安く売ってる“チョコ”でいいわ」

「か、畏まりました」訝しげに思いつつも命令遂行のため去って行く近衛兵を見送ることなく、今頃教会で拷問を受けているだろうラージへ思いを馳せる。


 マキナが目の前に現れ更に差し入れだとチョコを渡したら、それはそれはものすごく嫌そうな顔をするだろう。ランファに似た顔が歪むのが愉快で、つい虐めたくなってしまう。

 ただし今回はついで、だ。


 ――まさかここまで“女神派”と“勇者派”が仲違いしているとは……。

 権利書を巡り手を貸していた女神教だが、それにしてはあまり積極的ではなかったし花の管理もメビウスに一任していた。更に先日、マレディオーヌ自ら栽培場を破壊したという話だ。

 つまり女神教――否マレディオーヌ(女神派)にとっての目的はそこにはなかった。


 そして今回発覚したランファの暗躍疑惑。もし彼女の協力者が“勇者派”であれば、辻褄が合うのだ。

 8年前の女神教の不審な動き。当時は勇者が死んだ年だった。

 それから8年後の今――マレディオーヌは勇者が誕生することを示唆した。

 再び大きな何かが動こうとしている。


 以前マキナはそこに関わることが出来なかったが、今回は違う。

 国に被害を出さず、利益だけを掠め取るには『勇者』の存在が鍵となる。


「面白くなってきたわね、ランファ。でも今度こそ出し抜くのはわたくしよ」




 ――最後に笑うのは、“わたくし”という主人公なのだから。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ