予告
4章後編の予告です。
過去は消えない。
罪は消えない。
記憶も、感情も、都合良く消せたらどれだけ良かったか。
―――いや、無理だ。
例え都合良く消せても、俺が『魔法師』であることは変わらない。
『魔法師』である以上、俺は役割を全うしなければいけない。
そして『魔法師』である以上、人間を信用してはいけない。
ようやく目を醒ました気がした。
ずっと夢を見ていた気がした。
レッセイ傭兵団にいたこと。
ティフィアたちと旅したこと。
都合良く忘れた記憶と罪は、8年の月日を跨いで俺の元に戻ってきた。
おかえり、と精霊たちが祝福してくる。
精霊たちはずっと見ている。
俺のしたことも、これからしようとすることも。
「―――言ったはずだよ、アルニ。おれと君は同じだ」
過去は消えない。
罪は消えない。
俺が『魔法師』であることも――消えない。
***
「…………―――あのね、サーシャたち魔法師はぜったい命をこわしちゃいけないの」
少女の言葉にガ―ウェイはカメラへ視線を向ける。
「俺もニマルカから聞いたぜ? 魔法師には『役目』っつぅのがあんだろ。そんでもって元魔王とグラバーズの王族から――歴代勇者はリウルを除いて『魔法師』だったこともな」
ガ―ウェイはすでに確信を持っている。
100の巡り、勇者、勇者の証―――それがどういうシステムか。
ただ『勇者計画』の全貌が見えているわけではないのだろう。だからこそ、カメラを問い詰めている。
ふっ、とカメラは小さく笑うと空を見上げる。
暗雲が黒い涙を落とした。
「この黒い雨が何で出来てるか知ってるかい? これは――勇者の――いや、『魔法師』たちの魂だったモノだよ」
***
「おれの“核”であるリウルは『勇者』として、君は『魔法師』として――裏切られ、踏みにじられ、大切なモノを奪われた」
俺は、助けて欲しいわけじゃない。
過去も、罪も、『魔法師』であることも消えないから。
だから俺は――――
「――おい、亡霊。聞こえてんだろ。約束果たしてやるよ」
8年前に交わした約束。
果たせずに保留されていたそれを。
「黒の精霊リウル。――俺と“契約”だ」
「ずっと待ってたよ、その言葉を」
***
8年前にアルニが燃やし、滅びた街。そこから少し離れた場所にある遺跡の入り口前の、大きな柱の裏に小さなお墓があった。
当時まだ幼かったアルニが、リウルの遺体を少しずつ運んで、ここに埋めた。
木片に拙い字で「ゆうしゃ」と書かれたそれを指でなぞりながら、ティフィアはそっと目を閉じた。
「アルニは、やっぱり優しいよ……」
10歳くらいの子供が、名前も知らない成人男性の遺体を運んで埋めて。弔うために墓を作って。
今までだってそうだ。
ここまでティフィアとの旅を付き合ってくれたことも。
サーシャちゃんを守ってくれたときも。
―――その優しさが、きっとアルニをたくさん傷つけた。
ティフィアが立ち上がると、右手に光が収束し剣の形となった。
それを後ろで見ていたレドマーヌは、心配そうに「ティフィア……」と声をかけるが。
「僕、決めたよ」
振り返ったティフィアは、今にも泣き崩れそうに歪んでいたが、それを無理やり堪えて小さく笑みを浮かべていた。
「僕の手で――黒の精霊も、そして…………アルニのことも、殺す」
次話から4章後編、始動




