1ー4
その日もいつも通り、日が沈む前に廃坑道から村へ帰る途中。人目に注意しながら森から村の中に入ろうとしていたときだ。
「“リウル”」と。
優しげなのにどこか温度の感じられない声にビクリと肩が震えた。
咄嗟に弾かれたように振り返れば、いつからそこにいたのか、森の中――木の影から姿を現した母の姿に息を飲む。
バレた。
完全に村の外に出ていることを知られてしまった。
また怒鳴られて叩かれるのだろうか。久々のソレを思い出し自然と体が竦む。
だが母はニコニコと笑顔を携えたままだ。
「ご、めん……かあさん。オレ、」
「村の人が“リウル”が外に出てるんじゃないかって言ってね……心配したのよ?」
「……」
「でも昔から“リウル”はそうだったわね。一緒によく村長さんに怒られたもの。でも外は危険がいっぱいあるんだから、やっぱり心配は心配なの。分かってね?」
あれ、意外にさらっと注意だけで終わった。
帰りましょ、と母が手を伸ばす。手を繋ごうということだ。
――母はオレに“兄”を重ねている。だけど、手を繋ぐのも一緒に帰るのも……初めてかもしれない。
兄はどうだったんだろう。こんなこと、当たり前のようにしてたのかな。それとも、そういうことをして貰える前に帝都へ連れてかれたんだろうか。
でも、と思う。
「うん!」頷きながら母へと手を伸ばす。
繋いだ手は温かくて、嫌いなはずの母の体温に涙が出そうなほど心がポカポカする。
いくら叩かれても、どれだけ嫌いになろうとも、やっぱりこの人は母親だ。オレのお母さんだ。
いつか――いつでもいいから“オレ”のこと見てくれたらいいな。
その願いをこめて母の手をギュッと強く握る。
家に着いて手が離れる。
そういえば、と母がオレに振り返って嬉しそうに言い放った。
「“リウル”、手術しましょう!」
「―――え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。いや、今も分からない。
手術……? 聞き間違いでなければ、確かにそう言ったはずだ。
母は食器棚から木製のスプーンを一つ取り出し、近づいてくる。
「私、今日言われて気付いたの。“リウル”は私と同じ群青色の瞳なのに、お前はどうしてお父さんと同じ紅色なんだろうって」
「な、に……言って………?」今更、この人は何を言ってるんだろうか。
だって産まれたときからオレは紅い瞳だった。それにずっと気付かなかったじゃないか。そもそも“オレ”と“兄”は別に一卵性双生児でもない。歳の離れた兄弟だ。瞳の色だけじゃない、違いなんていっぱいあるはずだ。
「き、気のせいじゃないん? 母さんの記憶違いじゃ――」
笑顔の母に狂気を感じ、近づいてくる度に後退りしてしまう。
「私が“リウル”のこと間違えるわけないじゃない! 自分の子供のことだもの」
だから、と母は言う。
「――間違いは正さなくちゃいけないわ?」
後退る体が壁に阻まれ、ひゅっ、と喉が鳴る。
母が手を伸ばす。
叩くためじゃない。手を繋ぐためじゃない。
オレから“オレ”の要素を削ぐために。あくまで“兄”と重ねるために。
逃げないと、とやけに鈍い頭の中で警鐘が鳴り響く。なのに足は上手く動かない。もつれて転んで、すぐに母が馬乗りになる。
「っ、ぁ、や、やだ……。か、ぁさ、た、たすけ、」
引き攣って声がでない。掠れて言葉にもならない。血の気が引いた体は震えるだけで動きもしない。
スプーンが右の瞼に触れた。
「ちょっと痛いけど、我慢するのよ?」
ぐりっ。
「い”い”い”い”い”―――――ッ!?」
「あら、意外と綺麗に抉れないのね。いろいろ引っ掛かるわ? 木製だと駄目ね、右目が取れたら銀製のに変えましょう」
痛い――痛い痛い痛い痛い痛い……!
息がうまく出来なくて、痛みに喉の底から呻くような声が出る。
視界が明滅する。思考に火花が飛ぶ。
体が自然と動く。母の腕を掴んで引き離そうと藻掻く。
煩わしかったのか、右目を抉るスプーンから手を離すと頭を叩かれた。邪魔しないで! と怒られた。スプーンを取ろうとしたらまた叩かれた。
「い“だぃぃぃっ! し、死、ぬ”! あ”あ”あ”っ! あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!!」
ぐりりりっ。
強引に引き千切るように母はスプーンと指を使って、何かを掬い取った。
母はさっさとそれを放り投げると、オレの上からどいて食器棚へ再び向かう。
オレは激しく痛む右目を両手で覆いながら体を縮こまらせて、あ”ー! あ”ー! あ”ー! と呻き声をあげる。
かちゃり、と母が今度は銀製のスプーンを持って戻ってきた。
「今度はもっと早く取れるようになるからね? 大丈夫、すぐ終わるから」
母は笑ってる。
機嫌が良さそうだ。
―――狂ってる。
「ヒッ」殺される。左目も取られる。なんで。オレ、そんなに悪い子だった? 助けて。誰か。死にたくない。ラヴィ。助けて。取られる。そしたら、もう魔術師にもなれない? なんで。どうしてオレなん? 死にたくない。助け
「お前……っ、――なにやって!?」
不意に父の声が聞こえた。
「と、ぉさん……」
助かった。助かったんだ。良かった。オレ、生きてる。死んでない。涙が滲む。それに傷口が痛む。
「邪魔しないで!」
癇癪をあげる母の声。すぐに父が母を取り押さえようとするが、どうやら母は抵抗するように暴れているようだ。
目が痛くてよく見えないオレには、音しか分からない。だけどこのまま床に転がってると危ないかもしれない。幸い最初の頃よりは痛みに慣れたのか、それとも興奮状態が紛らわしてくれているのか、痛みに縮こまっていた体が動く。
手探りで壁に寄り添い、玄関を探す。
誰か。
誰か呼ばないと。
「っ、忘れたのか!? あの子を身ごもったとき、お前が言ったんだろ!“この子”は守ろうって! もう2度と同じ目に遭わせないようにしようって! なのに、なんでこんなこと……っ!」
「違うわ! あの子は“リウル”なの! だから……っ、間違いは正さなくちゃいけないのよ!」
「俺たちこそが間違えてたんだ! ずっと“リウル”に囚われて……俺たちはあの子のために前を進まないといけないんじゃないか!」
「あなただけが間違えてるのよ! あのふざけた男から貰った手紙読んで、おかしくなったんじゃないの!?」
「なっ―――!?……お前、よくそんなこと。あの手紙は“リウル”が――」
「黙って! どいつもこいつも嘘ばっか!“リウル”が死んだとか! 勇者だとか! あの子はずっと私たちと一緒に暮らしているのに! 嘘つき! あなたも同じだわ! みんな嘘つき!“リウル”のこと一番大事にしてるのは私だけ! 邪魔者も嘘つきも――いなくなればいいのよ!」
どすっ、と背後で何か音が聞こえた。
オレは思わず振り返って左目で『それ』を見る。
父が脇腹を押さえながら膝を着いていた。
母の手には真っ赤な包丁。父の脇腹からは止めどなく零れる血。
「―――、」はくはくと言葉が音になることなく、息だけが口から漏れる。
父さん。
――なにこれ。
オレ、夢でも見てるん?
だって、こんな。あり得ない。なのに右目の痛みがこれは現実だと主張する。
「“リウル”、お待たせ」
これで続きが出来るわね、と母が包丁からスプーンに持ち替えゆっくり近づく。
……結局、オレは“兄”の代わりでしかない。
オレが“オレ”を見出そうとしたからいけなかったんだ。
大人しく言う通りにしていればこんなことにはならなかったんじゃないか?
それとも母を捨てて、ラヴィに誘われたときに帝都へ着いていけば良かったのかもしれない。
「逃げろリウル!」
腹の底から響く、大きな父の声。父は痛みを食いしばり、母を羽交い締めにしていた。
「お前は生きるんだ! 自分の人生を、生きて、生きて――っ」
「止めて! 邪魔しないで!」
母が暴れる度、父が苦悶の表情を浮かべる。でも。だけど――けして“オレ”から目を逸らさない。
「生きて、生きて、――大きく、なるんだ!」
兄には出来なかったことを。
父と母がそれを見守ることすら出来なかったことを。
……生きなきゃ。
オレは家から飛び出した。
家の近くには騒ぎに駆けつけた村人たちが何人かいた。その中に村長もいる。
良かった。父さんも助かるかもしれない。
安堵に口元が緩む。助けて、と口にしようとしたとき。
「……やはり、災いは訪れたか。魔物を贔屓していた“リウル”の家族だ。すでに魔の者に魅入られていたのだろう」
「?」何を言ってるのか、よく分からない。ただ、村人たちの手にある松明と斧を見て、この人たちは助けにきたわけではないのだと悟る。
「いつかこうなると村長は予期してましたが……まさか本当に、」
「勇者には女神様の加護がある。しかし勇者の家族には適応されない。……結界だけでは魔の者の呪いを防ぐことは出来ないということだ」
「やはり、かねてから村長が提案していた教会の設立は重要かもしれませんね」
「呪いが広がらぬ確証はない。急がねばな。――それよりも先に、狂ってしまった彼らを『楽園』に送り届けなければ」
彼らの視線が一斉にオレと、その背後にあるオレの家を見る。
――さすがに彼らが何をしようとしているのか、分かってしまった。
「なんで……? なんでなん? 呪い? なんなん、それ」
こうなることが分かっていたなら――じゃあ、どうして何もしてくれなかった?
母を説得するなり、何か出来たはずじゃないのか?
何もしないで見てるだけで、助けてもくれない。いざ問題を起こせば排除しようとする。
呪い、なんてそんな言葉で片付けて。
斧を手にした男が近づく。他の人たちは家の中へと入っていった。
父はどうなったんだろう。
母は。
「ごめんな」斧が振り落とされる。
いつの間にかオレは地面に転がっていた。斧に当たったのか。いや、違う。咄嗟に避けたんだ。男が眉を顰め、再び斧を振り上げる。
――逃げないと。
生きろと父は言った。それだけが、その声だけが何度も繰り返し頭の中に響く。
体を起こし、足を動かす。「待て!」男の声に、しかし止まることなく走る。最近は廃坑道への道のりを往復し続けていたから、多少体力がついたのか、まだ体は軽い。
違う。肺が痛い。抉られた右目も痛い。痛くて痛くて、もうどうにかなりそうで。
「っぅぅううう……!」
オレ、どこに行こうとしてるんだろう。
どこに行けばいいんだろう。
ラヴィ。助けて、ラヴィ。
――そうだ、ラヴィは帝都に用があると言っていた。帝都に行けば助かるんじゃないか?
いや、駄目だ。ここから帝都まで何日……いや、一週間は普通にかかる。怪我してるし、元々体力のないオレに辿り着ける距離じゃない。
「はあ……はあ……っ、ぐ………はあ、」気付けば廃坑道に着いていた。フラフラと秘密基地まで行くと、その場で倒れるように地面に横になる。
地面がひんやりと冷たい。熱があるのかもしれない。ここまで走り続けたり、色々あったし、怪我してるし。当然かもしれない。
疲れた、と目を閉じそうになる。でも、まだだ。
上半身だけ起こし、近くに転がしてあった木の棒を掴む。
村人がここにいるかもしれない。それに血のニオイを嗅ぎつけて魔物がくるかもしれない。
気休めにしかならないかもしれないが、それでも結界を張らないと。どこまで保つかは分からないが。
【“窓”、展開……っ】ヴン、と周囲に『窓』が展開される。
思い出すのは、ここで拾った包帯の“式”だ。あれは人間のものではなく、何故か魔物の“式”があった。魔物に襲われて、その怪我をここで治療していたのかもしれない。確実なことは、まだ解析が全部終わらなかったオレには分からなかったけど。
【映鳥の羽に宿る“防壁”の式を複製、術式として昇華し、この場を守る盾となれ――!】
魔物が使う術をそのまま使うという荒技だ。本来ならその術式を強化するなり効果を変えたりするものなのだが、さすがに式を組み替えるほどの集中力も精神力も、もう、無い。
ただ身を守るだけ。それも映鳥なんて下級魔物の術なんて、斧を10回くらい振り回せば壊れるだろう。でもそれでもいい。
今はただ――疲れた。
***
「――なんでさぁ、俺様が名前も無ぇーようなド田舎の村に調査しに行かにゃあ行けんのよ」
「失礼ですよ、ライオット騎士団長様。一応勇者リウルの故郷です。毎週納品されている鉱物や魔石が届いていないわけですし、最近の『神隠し事件』と関連があるかもしれません。それに何より王命です。反すればどうなるか、先代と先々代の騎士団長がどうなっているか、知らないわけではありませんよね?」
わぁってるよー……、と力なく返事した男は、無駄に豪奢な鎧をまとい、馬を走らせながらとある村へ部下を率いて向かっていた。
彼の名前はライオット・キッド。現在の帝国騎士団の団長である。
ただモテたい一心で騎士を志した彼は、まだ29歳という若さで団長まで不運が重なり昇り詰めてしまったのだ。今や仕事に忙しい毎日、女と遊ぶ余裕すらない。
それもこれも先代のヴァルツォン・ウォーヴィスと先々代のガ―ウェイ・セレットが帝国に刃向かったのが悪いのだと恨みがましく胸中で愚痴りながら、赤紫の髪をガシガシとかき乱す。
「……ライオット騎士団長様、あまりやると、またハゲますよ」
「うるせええ! だったら俺様に休み寄越せ! こちとら欲求不満なんじゃああああ!」
「副騎士団長様に言って下さいよ……」
「あいつ親衛隊隊長そっくりで真面目なんだよ! 知ってんだろ! 今日だって俺様の休み潰しやがってぇ!………ううっ、さっさと終わらせて今度こそ休み申請出そ」
ホロリと涙が滲む。
先代と先々代のせいで帝国軍の立場はそうとう悪い。悪すぎて立場がない。その信頼回復のため、多少無茶ぶりだったり面倒な仕事を押しつけられてもやるしかないのだ。ツラい。もう辞めたい。
どうせ申請出しても蹴られるんだろうなと虚ろな目をすると、不意にライオットは顔を上げて馬を止めた。
「どうかされたんですか?」と部下に聞かれるが、それを無視して周囲を見回す。
「なんかこの森、変じゃねぇかなーと俺様思うわけなんだけど、お前どう思う?」
「……いえ、俺にはサッパリ」
「んん? じゃあ気のせいかもなぁー。疲れてんのかも、俺様も」
気のせいかと切り捨てようとする上司を見て、部下の男はハッと思い出す。帝都を離れる前に副騎士団長が言っていたことを。
――「彼は馬鹿だがアホではない。本能が獣のような男だ。ただ意志が弱すぎる。……なにか言い出したら、肯定して協力すること。絶対だよ」
もしやこれのことか! と部下は慌てて「ああ!? なんか俺も違和感あります! 感じます! なんだこれ、なんか感じる!」と大根演技を披露をする。
「おっ、マジ? やっぱ気のせいじゃない感じ?」
「じゃない感じです! ビンビン違和感あります!」
「ふぅん、そっかぁー? じゃあ、こっち行こうぜ。土産話になるようなことあるといいけどな」
なんとかやり遂げた、と溜め息を吐いて面倒な上司の背中を追いかける。
――と、ライオットは再び馬を止めた。
森が開けた先にあるのは岸壁だ。そして、その一角に洞窟――否、人工的な……坑道だろうか。しかし使われている形跡もない。
「騎士団長様」
「……お前達、ここで待機」
「え」
じゃ、行ってくると馬を下りてさっさと廃坑道へ入っていく上司に、待機と命じられて動けない部下たちが口々に何か言ってるがライオットは耳を塞いだ。
――さすがにここまで来れば魔物の気配と、血のニオイが濃い。
本来なら、むしろ部下をいかせるのが常套なのだが。なんとなくそれは駄目な気がした。
腰に提げた鞘に触れてから、軍から支給された剣を抜く。チカチカと点滅する照明の光とは違う、殺気を放つ鋭い眼光を見つけて剣を投げる。
ギャアッと断末魔らしき声が聞こえたので倒せただろう。続いてすぐに天井を張っていたヤモリのような魔物の攻撃を避けながら再び鞘に触れる。――と、魔物に投げたはずの剣が消えて鞘に戻ってくる感覚。
ニッと口角を上げ、地面を蹴る。壁を足がかりに天井まで跳ぶと、そこに張り付いた魔物に一閃!
「おっかしぃなー? こいつらってこの辺に生息してない魔物のはずなんだけど」
着地し剣を鞘に戻すと奥へと向かう。どんどんと血のニオイが濃くなる。
迷路のような坑道内で、それだけを頼りに動けば迷子になっていたかもしれないが――血と魔物のニオイ以外で、魔力の残滓を感じる。それを辿った先は坑道の行き止まりだった。
そこには何故か手作り感溢れる棚が置いてあるのはさておき、まるで地獄絵図のようだと感想が漏れる。
斧や棒をもった男たちが魔物に食いちぎられ転がり、結界のような残骸の向こう側には肩と背中に斧を突き立てられた幼い少年が倒れている。その少年に小さな魔物が群がり、柔らかい肉をご馳走のように夢中で食い漁っていた。
ライオットは魔物たちを一掃すると、これは土産話どころじゃねぇなー見なかったことにしていいかなぁーと踵を返したときだ。
「――ぃ、」
ハッと振り返る。
信じられないモノを見るように、ほとんど肉塊のような少年の指がピクリと動くのを見た。
「し、――ぃ。……ぁ、」
微かに動く口。ほとんど音になってないその言葉に、ライオットは息を飲んだ。
――死にたくない。
確かに、そう言ってる。
「………マジかよ、お前。それで生きてるとかヤバくね?」
ハハッ、と思わず乾いた笑いが込み上げる。
なにがあったかはともかく村の子供だろう。生きてるなら助けないわけにはいかない。
「途中で死んでも俺様のせいにならねぇーよな……?」
これ動かして大丈夫なのか? と少年を抱えて坑道を出ると、部下達がギョッとした目を向ける。傍から見れば死体抱きかかえてるようにしか見えないだろう。また乾いた笑い声が出た。
「とりあえず俺様帰る」
「え」
「村の調査と報告、宜しく」
「え」
「んじゃ」片手を上げてさっさと馬に乗ると帝都へと一足先に向かう。部下達のえええええ!? という不満そうというか不可解な雄叫びを後ろに、ライオットはこれどうしようと少年を見下ろす。
なるべく乗馬の衝撃を抑えてやってはいるが、もうすでに事切れてもおかしくない状態だ。なにせ肉塊。なんとなく頭と胴体と手足がついてて、男の子っぽいくらいしか分からない。
帝都に連れて帰ったところで治療出来るかどうかも怪しい。
「あ。怪しいと言えば、」
そういえば最近親衛隊隊長のクローツ・ロジストがなんか怪しげなことしてるって評判だ。確か『勇者の証』の複製、だったか。上手くいってないらしいけど。
でもそういえば、勇者の証って勇者の怪我も治してくれる優れ物だったはず。実験台にするのはちょっと引けるけど……この子も生きたいって言ってるし。賭けてみてもいいかもしれない。
何かあってもロジストのせいに出来るし、なんて名案!
ライオットは少年が死ぬ前にロジストへ引き渡そうと、馬を更に急がせた。
長くなってしまった……でも途中で切りたくなかった……申し訳ないです(震え声)