予告
間章Ⅱの予告
ティフィアたちがウェイバード国で厄介事に自ら首を突っ込んでいる間――ミファンダムス帝国では緊張状態が続いていた。
大量の魔物と魔族の軍勢が人間の棲まう領域を踏み荒らし、進軍していく。
対する帝国は『人工勇者』を指揮するクローツと、現在の帝国軍を率いる騎士団長ライオット。
睨み合う両者。
一触即発。
勇者亡き世界に、この争いを止める手立てはない。
――ように、思われた。
「まだだよ、まだイケる。血反吐がどうしたん? 立てなくても、動けなくても――まだ魔術は使える!!」
我が身を犠牲にしてでも、戦争を止めようとする者たちが。
「……私は! 私は、リウル様が亡くなってから……ずっと、迷ってた。でも決めたんです。――私の正義は、」
過去と向き合い、傷だらけになっても立ち上がる者たちが。
「ラヴィ、俺たちの目的を忘れるな。――俺たちは別に戦争を止めたいわけじゃない」
目的のためにただ突き進む者たちが。
「ガロ・トラクタルアース! 貴様だけは許せない! 逃さない!……差し違えてでも、必ず貴様のその首をかっ斬ってやる!」
怒りが。
「……おいらはねぇ~、正直“人間”なんてどうでもいいんだ~。――だってリウを壊しちゃったのはおいらたち人間だからさ~」
憎しみが。
「良い感じに盛り上がってきたねー! いいねぇ、実に最高だよ! 早く戦おうよ! 少しは俺を楽しませてよ! 退屈で退屈で仕方なかったんだからさあ!」
狂気が。
「人間という生き物はかくも愚かなの。何も分かってないの。『勇者』なんて――体の良い“供物”でしかないというのに」
怨恨が。
渦を巻いて、それは大きな嵐となる。
紅い大蜘蛛針が猛威を奮い、魔の者たちが沸き立つ。
それでも、様々な事情や目的を抱えた者たちが抗い、足掻く。
――……だが気付いているだろうか?
歴代の勇者たちのために作られた石碑。その下には彼らの“怨嗟”が澱みとなって、黒いシミを広げていることに。
黒い雨が、降ろうとしていることに。
抗う者たちはまだ知らない。
愚かな人間たちの様子を見て、『勇者』が嘲笑っていることに。
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宙に浮かぶ大輪のごとき魔術紋陣。
それは『勇者の証』に繋がるように、見たこともないような術式が付与している。
紅い、血のような。
禍々しい色と光を放ち、その術式をリュウレイが見たとき――理解してしまった。
――これが、本当の“形”なのだと。
「……こ、んなん…………じゃあ、歴代の勇者たちは、」
理解し、察して、気付いてしまう。
―――以前、紅い大蜘蛛針の“式解析”をしたリュウレイだけにしか理解出来ないだろう。
『勇者の証』。
その、本来の実体は。
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100の巡り。
繰り返される『勇者』と『魔王』の因果。
しかし元魔王ヴァネッサは、ティフィアたちへ真実を告げた。
「『魔王』は『勇者』の対じゃ。――そもそも、おぬしら人間は勘違いしておる。魔王が復活するから勇者が選ばれるんじゃない。勇者が選ばれたから、魔王が生まれるんじゃ」