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勇者が死んだ世界を救う方法  作者: くたくたのろく
四章 墓標【前編】
156/226

6ー2


「グアラダ……ッ!」



 ずっと一緒にいた彼女と酷似したその魔族を呼ぶ。――が、彼女は水色の瞳を細めて苛立たしげに地面を尾で叩く。


「――みゅあぁ~? (オレ)と“神様(・・)”を一緒にするな」


「……え?」

「“神様”は死んだ。あなたもその目で見たはずだ。……(オレ)は我が神の願いを叶えるために存在する者。言わば神の遣い」

「か、かみ、さま?」呆然と鸚鵡返しをするだけのラージへ続ける。


(オレ)の名は“ミュダ”。我が神の願いにより―――」

 言葉を途切ると不意に左手だけを水平に掲げ、ギィィイイイイッ! 黒い筐体の一つから伸びる黒い光線を受け止めた(・・・・・)


「グアラダ!」

 咄嗟に叫ぶラージへ「だから違うと、言ってるみゃっ!」言い返すミュダの魔装具が淡く光り始める。


【微睡み揺蕩う一途なる夢物語。(オレ)は語り部、謳うは調べ。我が神“夢裡の虚像(グアラダ)”の願いを奏でよう。―――出でよ、幻夢の刀(ヘイズシャルーブ)!】


 魔装具の水色の光が彼女の右手へ零れるように流れていく。

 そしてそれは集まり、やがて一振りの刀へと変わった。


「人間様の邪魔すんじゃァねえよ、たかが副産物(・・・)の分際でよお!」

 黒い筐体を増やして【焼滅超磁砲(エンデバニッシュ)】の火力が上がる。

 更に大きく膨らむ黒い光線に堪えきれず、焼かれて吹き飛ぶ左手をそのままに、ミュダは刀を構えて「理から外れた人間もどき(・・・)が人間を語るのかみゃ?――糞ほどにも笑えにゃいぞ!」大きく振りかぶる!


「!」水色の斬撃が黒い光線を真っ二つに裂き、その先の黒い筐体までをも粉々に破壊した!


「さすが魔族、なんでもありってか?」

「おおっ!? す、すごいッス……」

 呆れたように呟くガ―ウェイと、同じ魔族のくせに驚いているレドマーヌ。


 だが。


「――つまらねェな、そんな程度(もん)か魔族さんはよぉ?」

 壊れた筐体に魔術紋陣が浮かび上がると、それはやはり元に戻ってマレディオーヌの手の中へと収まる。

「くくっ、でも良い! アタシは足掻くヤツを屈するのが好きでさぁ……―――最後まで頑張ってくれよ?」

 頑張れと他人事のように言ったマレディオーヌの周囲に、更に魔力が膨れ上がる。


「みゅ、みゅぁあああ~………」

 ミュダは顔を引き攣らせ、ガ―ウェイは構えていた杖を降ろし、黒い雨を避けるように瓦礫の隅へと避難していたアルニと、彼を介抱していたティフィアもまた息を呑む。


「……まだ、出せるのか(・・・・・)

 絶望したようなラージの目に、次々と虚空を埋め尽くすように魔術紋陣が展開されては黒い筐体が新しく生み出される。

 10個、30個、50個……数え切れないほど無数の筐体が浮かび上がり、それらは黒い火花を弾けさせてはジジジッと不快な音を発している。


「どうしたよ、魔族! どうした、勇者! もう終わりかよ? もう挫けちまッたかあ? まだアタシは全力も出してねェよ?」

「どんだけ筐体(それ)持ってやがんだよ……」


 やはりマレディオーヌをどうにかすることは出来ない。どうにかして逃げるしかないが、と未だに反応のないゴーズに眉を顰めていると、不意に「なんで、」とティフィアが声をあげた。


「なんで――どうして、それだけの力を持ってるのに、人を傷つけるために使ってるの……?」


 壊れても瞬時に修復出来る黒い筐体。無数の魔術兵器。

 それだけの力を有しているのなら、それこそ魔の者を牽制するも一網打尽にすることも出来そうなのに。


 なのにマレディオーヌは。

 教会は。

 まるで魔の者を無視するように、人間に対して“それ”を使っている。


 意味が分からない、とティフィアが顔を歪めると『破壊兵器(マレディオーヌ)』は鼻で笑い飛ばした。


意味がねェからだよ(・・・・・・・・・)!」

「い、意味……?」

「冥土の土産に教えてやるよ、勇者。――そもそも魔の者を倒したッて、やつらは“今”みたいに湧いて出てくンだぜえ?」

「湧いて出てくるって言い方に断固反対ッス!」なにやらマレディオーヌの言い方に抗議する魔族少女を無視し、彼女は続ける。


「昔ッからよぉ……バケモノを生み出すのは人間だって相場は決まってンだよ。人間が存在し、“願い”続けるから――終わらねェのさ」


“願い”。

 その言葉に、聞こえるはずのないグアラダの声を聞いたのを思い出す。


「勇者、さっきお前は言ったな。どうして人を傷つけるのかって。……でもよォ、言っとくけどアタシは今ここに登場するまで――この件に手は加えてねェよ? 女神様に誓っても良い。……つまりこの事態を引き起こしたのも、そこにいるラージを追い詰めてたのも、全部“人間同士のもめ事”っつーわけ」


「――そんなわけ、」ラージが反駁しようと声をあげるが、それを遮ってマレディオーヌは更に続ける。


「忘れたのかぁ?――行方不明者を攫ったのはメビウスだぜぇ? ちなみに反乱軍を邪険にしていたのはこの国の女王様だ。アタシたちはメビウスの麻薬造りに協力してはいたけどよォ、それだけだ。正直、反乱軍なんて教会の敵じゃねェよ。本気で潰すつもりならとっくに消滅してるさ」


「っ」

 心当たりがあるのか、ラージは言葉を詰まらせた。


「なんで……! それなら止めることだって!」

「止める必要ねェじゃん、面倒くせェ……。いちいちそんなことまで干渉してたらこっちの仕事が滞るっての!」

「――――“仕事”っつーのは、『勇者計画』のか?」

 ティフィアへ向けていた視線を、ゆっくりとガ―ウェイへ移す。


「……アタシら枢機卿員は“歯車”の一つでしかねェよ。ガ―ウェイ・セレット、今まで通り教会に敵対しなければ道半ばで死ぬこともなかったのになァ」

 哀れむような眼差しを向けると、マレディオーヌは手を広げた。


 黒い筐体たちが一斉にジジジジッ! と不協和音を大きくし、今にも光線を発射すべく光を帯びる。

 このままだとまずい、とレドマーヌとミュダが何か祈術を使おうとしたときだ。



「悪いね、マーレ。邪魔させてもらうよ」



 彼らとマレディオーヌの間に割り込むように、『彼女』は唐突に姿を現した。

「カメラ・オウガン――!」


 菫色の髪を揺らしながら彼女は膨らませた魔力を放出すると、両手を前に掲げる。すると、マレディオーヌの周囲にあった黒い筐体が瞬きするよりも早く全て姿を消した(・・・・・・・)

「!」


「ゴーズ、急いで!」

 舌打ちしたマレディオーヌがカメラの首を捕らえるのと、何故かすでに疲れ切ったようなゴーズが姿を現したのは同時だ。

 そして「簡略展開――転移!」足元に浮かび上がった大きな魔術紋陣が光り輝き、――マレディオーヌを残して全員がその場から忽然といなくなった。


「……」

 逃げられた。

 掴んでいたカメラの存在すらもなくなり、マレディオーヌは苛立たしげに再び黒い筐体を出現させると、発散させるべく【焼滅超磁砲(エンデバニッシュ)】を適当に放った。


 ギギギギギギギギギィィイイイイイイイイイイイイ!!


 放った。


 ギギギギギギギギギィィイイイイイイイイイイイイ!!


 放つ!


 ギギギギギギギギギィィイイイイイイイイイイイイ!!!!


「………マレディオーヌ様、国が滅んでしまいます」

 不意に背後に現れた神父に、冷めた視線を送る。


「なんで第2位席が能力を行使出来たと思う?」

「……この街の教会を管理していた神官が殺されておりました。勇者派の神官が代わりに“聖書”を使っていたので、一時的にこの街の“管轄”をマレディオーヌ様からカメラ様へと移したのでしょう」


「チッ。こんなこと許されると――」そこまで言って、そういえば枢機卿員を唯一処罰出来る存在である教皇が今動けない状態でいることを思い出し、再び舌打ちする。

「あの女、分かっててやりやがッたなァ」


「どうされますか? すぐに勇者派の神官は処理致したので、もう能力はさほど使えない状態のはず。転移術も、あの魔術師の魔力量ではそう遠くには行っていないでしょう」

「いや、いい。……“(マイナス)因子”は別の方法で採取する。それよりも魔法師だ」

「――サーシャ・モーキス、ですか」

「あー、そんな名前だったなァ確か。まぁ『次元視(・・・)』がありゃァ誰でもいいンだけどよぉ」


 そこで、ふとミュダの存在が頭に過ぎった。

「……なんであの魔族、生まれたんだ?」


 魔族が生まれる条件。

 それをマレディオーヌは知っている。

 本来ならばこの場の状況で生まれるはずがないのに……。

 それに、ミュダが生まれるときに黒い雨と何か光のようなモノが入り交じっていた。


 光。

 マレディオーヌは右手を広げて翳すと、そこに勇者の証(・・・・)が浮かび上がる。

 しかしその『証』は歪だ。

 何故か紅い色をしているし、勇者の証の他に何かの花の紋章がくっついている。


 だがマレディオーヌはその『証』に僅かにヒビが入っているのに気付き、眉を顰めた。

「――まさか、」


「マレディオーヌ様?」

 神父の問いには答えず、マレディオーヌは『証』を消すと、まだ降り続ける黒い雨を見上げる。

「……神父」

「はい」

「|ガロ・トラクタルアース《・・・・・・・・・・》に連絡しろ。念のためだ、予定を早めさせろ」

「! かしこまりました」

 頭を下げ、マレディオーヌのせいで半壊状態の地下を神父はよじ登りながら地上へと去って行く。


「カメラ・オウガン、あの女……まさか8年前と同じこと(・・・・・・・・)しようとしてンじゃァねぇーだろうな」

 まさか、と思う反面、すでに確信しているマレディオーヌは黒い筐体を一つだけ残して全て消すと、残したそれを足場に乗り、浮かして地上へと上がる。


「だとするなら――さっき逃がしちまったのは失態だったぜェ。……まぁ、どうせ向こうとしてもアタシを無視は出来ないはず。次は確実に仕留めちまえばいいだけか」

 一人うんうんと頷いて納得すると、それならいっそサーシャという娘を捕らえたらグラバーズ国諸共壊してしまおうという名案を閃き、気分が晴れたマレディオーヌは鼻唄を歌いながらマキナ女王のいる城へと向かった。




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