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勇者が死んだ世界を救う方法  作者: くたくたのろく
四章 墓標【前編】
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4-4






 誰にも気付かれることなく地下へ潜ると、事前に繋げておいた声繋石の指輪からラージの声が聞こえた。


 作戦開始――――と。


 ついとアルニの方へ視線を送ると、彼もまたこちらを向いていて、同時に頷く。


「えっと……みんな、昨晩話した通りだけど、まだ調べきれてないのは2カ所だけ。グラバーズの国境近くと、首都にある教会の真下、です! 僕らが調べるのは前者の方で、部屋についたら行方不明者の有無に拘わらずラージへ報告して、見つけ次第そっちに加勢に行きます……!」


「メビウス傭兵団にいた魔術師に協力していただいたので、転移の魔術紋陣はすぐに展開出来ますぞ。安全な場所へすぐに移動させ、そのままボクたちもグラバーズへ行くということですが、――団長。聞いておられます?」


「あー聞いてる聞いてる。とりあえず向かってくる敵をぶっ飛ばしゃあいいんだろ?」

「一言もそんなこと言ってませんが、さすが団長! それこそ団長! その脳筋は伊達じゃない!」

「また殴られるぞ、ゴーズ」


 緊張感のないやりとりに苦笑しながら、先を急ぐべく4人は通路を駆ける。

 本当は足を負傷しているガ―ウェイに合わせたいところだが、問題ねぇから気にすんじゃねえ殺すぞ、と言われているのでその通りにしている。


「ラージも言ってたけど、教会の連中は必ず馬車の様子見に来るだろうな」


 地図を暗記し、なおかつ視力の良いアルニを先行にティフィア、ゴーズ、ガ―ウェイの順に一列となっている。

 迷路のように入り組んだ地下、通路の舗装も照明も明らかに人工物なのだが、なんのために作られた物なのか。昨晩アルニが疑問に思っていたようだが、当然答えを持ってる人はいなかった。


「うん。……その方が時間稼ぎは出来るだろうけど」

「――そうなるとバフォメットのいる空間との転移術式が復活しちまう。あいつの占星術で『反乱軍』の動きが()られてしまえば、その行方不明者たちがどうなるか分からねぇからなあ」

 ガ―ウェイの言葉に頷く。


 人質にされたり国外に移送されたり、最悪殺されるなんてことだって――。


「いやぁ、あのとき教会内部に転移して良かったですなぁ! 結果オーライ!」

「テメェは失敗しただけだろうが。こんだけ転移術使ってんだ、いい加減精度あげやがれ!」

「あっはっは! そんな無茶ぶりな! そもそもボクの専門は魔道具の製造ですし、転移術式なんてそうそう扱える物ではないのと説明したではありませんか。さすが団長! その脳みそは完全に筋肉だから、覚えられないのですな!」


「テメェは人を貶さねぇといられない病気か何かか? いいぜ、この脳筋がその病気直してやるよ。何回頭に衝撃与えれば治るんだろうなあ……っ?」

「ゴーズ、お前作戦中も黙れ! ガ―ウェイも簡単に挑発にノるなよ!――ここ、一応敵がいるってこと忘れんな!」


 アルニの叱責に二人はとりあえず静かになったが、きっと懲りたわけじゃないんだろうなとさすがにティフィアにも分かる。

 なんだかアルニがいたレッセイ傭兵団が、どういうところだったのか想像出来てしまう。楽しそうだ。


「……あれ?」

 そのときふと気付く。


 ずいぶん通路を走ってきているが、そろそろ兵達が巡回してるルートとかち合うはずだ。そこからは注意して進まないといけないとラージから聞いていたが。

「――気配がないですなぁ」同じく疑問に感じたのか、兵の気配が一切感じられないことにゴーズが漏らした。


「待て!」

 唐突にアルニが制止の声をあげ、全員が一度足を止める。

 そして。

「なんだ……? 精霊がざわついてる」


 気配も何もないはずの通路の先をじっと見つめる。

 だが、特に異常は感じられない。

 気のせいか? と警戒を解こうとしたとき――「!?」瞬き一つ。その一秒にも満たないその間に、誰もいなかったはずの通路に突然人影が現れていた。



「おや、おかしいな。君たちは確か馬車に乗ってるんじゃなかったかな?」



 ティフィアと同じ黒曜石の瞳。

 菫色(ヴァイオレット)の髪。


 枢機卿員の礼服に身を包んだ中性的な顔立ちの彼女――カメラ・オウガンはぞっとするほど美しい笑みを浮かべ、いつの間にかそこに佇んでいた。


「カメラさん、……どうしてここに?」

「ふんっ、一人かぁ? なら都合が良い。昨日と同じように追い詰めて、口利けないくらいボッコボコにしてやるよ」

「ふふっ、それは困るかな?――ここは自分の“管轄”に近いから散歩してただけなんだけど、幸運だったようだね。この先にはちょっと行って欲しくないんだ」


「それって……!」

 彼女の物言いだと、ティフィアたちに見られるとマズイ何かがあるということだ。

 つまり――この先こそが“当たり”かもしれない。


「駄目だって言われると無性に行きたくなるもんだぜ、カメラ。無理矢理にでも通してもらうぞ!」

 言いながらアルニが投げた短剣を、収納石(ピアス)から取り出した槍で弾く。

「やれやれ。アルニ君も、ガ―ウェイ・セレットも――――自分が“何者”か忘れたのかい?」

「ただの雑魚だろぉが!」


 接近してきたガ―ウェイの一撃を飛び退いて避けると、彼の影に隠れていたティフィアが追撃する!「はあっ!」

 まだ地に足がついていない状態だ。

 避けられないはず。

 それでも念のためにとアルニが再び投げた短剣も迫り来る!


 だが「ふっ」嘲笑するようにカメラが黒い瞳に弧を描くと、瞬きの間に今度は姿を消した(・・・・・)


「へ、」

 結局ティフィアの剣も短剣も虚空を裂き、どこへ行ったのかと気配を探るよりも先に「っぐぅ!?」背後でゴーズの呻き声が届く。


「!? ゴーズさん!」

 振り返れば、床に倒れ伏すゴーズの右手を踏みつけるカメラの姿。

「な、なんで……いつの間に!」

「………ありゃあ教会で見た『超加速』なんてもんじゃねぇな。転移か」


「正解だよ、ガ―ウェイ。――自分の【歩遊空間転移(ラス・ステップ)】はどこにでも転移可能だし、何回でも使える。マーレみたいな火力はないけど、不意打ちは得意かな」

「また厄介な術だな……!」

「ふふふっ、ありがとうアルニ君。みんなの嫌そうな表情、自分すごく嬉しいよ」


 ティフィアの知る彼女とは違う。

人を見下し嘲笑(あざけわら)う女神教枢機卿員第2位席カメラ・オウガンの本性がそれだった。


 ――どうしよう。


 転移術を動作なしで連発出来るということは、攻撃しようとしても避けられて簡単に懐や背後をとられてしまうということ。

 利き手を踏まれることで身動きも魔術も使えないゴーズに、転移やあの霧の術は頼めない。


「さて、ここまでのようだね。じゃあ、大人しくこのままグラバーズに入国してくれるかな? これ以上滞在していたらマーレたちの巻き添え食らいそうだし」

「――っ」

 アルニやガ―ウェイも迂闊に動けず、打開策を考えているようだが……。

 あるんだろうか、そんな方法が。


 転移しても攻撃を当てられたり、転移を防げるような――――


「いい加減、観念したらどうかな? 考えても自分のこの“能力”を防ぐ方法なんて――」





「あるッスよ、ちょうどお誂え向きなのが!―――【絶対なる矢の標(ヴィーナス・ロード)ッ!!】」





 ハッと咄嗟に反応したカメラが、通路のずっと向こう側から速度を緩めずに向かってくる矢を転移で躱す。

「当たらないよ、そんな(モノ)ごとき」

「――いいや、当たるッス」


 射手の自信ありげな断言に、もう避けたんだから当たるわけがと反駁しようとしたカメラだが「な!?」左肩と腰に2本ずつの矢が貫く!


「レドマーヌの矢は百発百中ッス。躱した程度(・・)で逃げ切れないッスよ?」

 通路の先から弓を構えたまま近づく人影。やけに目に痛い暁色の髪と橙色の瞳、白い片翼が特徴的な射手。


「ま、魔族!?」彼女のことを知らないガ―ウェイとゴーズは驚いていたが、見慣れた魔族少女の姿にティフィアは泣きそうになった。


「レドマーヌ!」

「やっっっっと、ティフィアたちに追いついたッス! めちゃくちゃ探したんスからね!」


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