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勇者が死んだ世界を救う方法  作者: くたくたのろく
四章 墓標【前編】
143/226

4ー2


 執務室に戻ると、ラージとメビウスは何か話をしており、ティフィアたちが戻ってきたのを確認すると二人はこちらへ向き直った。


「では『勇者』ティフィア。地下通路の情報を共有しよう」

 ラージは引き出しから取り出した地図を広げると、それを全員で囲うように見下ろす。


「地下は蟻の巣のようにいくつもの部屋と迷路のような通路で繋がっている。すでに調査の済んだ場所は“レ点”を、封印の間は“○”、祭壇のような謎の部屋には“×”をつけてある」

 ウェイバード国ほぼ全域に張り巡らされている地下通路。

 ほとんどの部屋はレ点がつけられ、×印の近くには教会があることが分かる。それから封印の間は城の真下に印がついているが。


「あ、あの……ラージさん。僕の、仲間の人が調べてくれた情報だと、教会の真下にも『封印の間』があるらしいんだけど……」

 ゴーズの“霧”の魔術はかなり便利で、障害物や遮蔽物を通り抜けてその向こう側に様子を感じ取ることが出来るらしく、教会襲撃の際もガ―ウェイを囮に密かに探っていたようだ。


 ――しかし、そうなると疑問が生じる。


 それに気付いたラージは眉を顰め、メビウスは首を傾げた。

「それは変やね。街の結界を維持する封印の間は一つだけあれば良いはずや」

「カトリプトサ港町にだけ2つの封印の間……。魔石の大きさや、魔力回路は調べたか?」


 ま、魔石の大きさ……? 魔力回路??

 ティフィアは早々に音を上げ、声繋石でアルニと繋げる。

「アルニ、ゴーズさんに聞きたいことがあるんだけど……出来れば急ぎで」

 何か察してくれたのだろう、ちょっと待ってろと一度通信が途切れ、それからすぐにゴーズの声が聞こえた。


『――ティフィアちゃん、指輪を前に掲げてくれるかい?』


「前に?」訝しげに言われた通りにすると、指輪の前に魔術紋陣が突如展開し、全員がいきなりのことに咄嗟に身構えるのと、そこから人影が映し出される(・・・・・・)のは同時だった。


「ご、ゴーズさん!?」

 半透明の人影は、皆の驚いた表情に満足したようにうんうんと頷く。


『驚くのは無理もないですぞ、諸君。声繋石はあくまで声を伝達するための魔石であり、所有者の姿を映すことは本来出来ないからね。――しかし! これが魔道具である以上、ボクの手にかかればこの程度、些事でしかない!……仕組みがどうしても聞きたいと言うならば、小2時間ほどで説明しよう』


 なんかリュウレイの魔術オタクスイッチに似てるなぁ、と苦笑していたら我に返ったラージが「い、いや、結構だ」とズレた眼鏡をくいっと押し上げた。

「お前、いや、君が教会の下にある封印の間を調査した人か?」

『その通り。このボク、ゴーズ・カーレンヴァードが調べたさ。君の知りたいことは封印の間の“用途(・・)”と“経路(・・)”だね?』

 彼の問いにラージが頷く。


「カトリプトサ港町に2つの封印の間が存在することが分かった。フェイクなのか、或いは街のとは別に結界を展開している場所があるのか、判断材料が欲しい」

『なるほど……、2つあったってことは答えは一つだけになるね。教会の地下にある封印の間は、――――マレディオーヌの“動力炉(・・・)”の一つだ』

 ラージは息を飲んで言葉を失ったが、意味を理解出来なかったティフィアは「動力炉?」と首を傾げる。


『ティフィアちゃんは見たはずだ、マレディオーヌの武器……いや、あれは兵器か。【焼滅超磁砲(エンデバニッシュ)】。――あの黒い筐体は一つ一つが魔術兵器で、本来は一発放つだけで大量の魔力消費が余技なくされるわけなのだけれど』


 マレディオーヌの魔力保有量は超人並、それこそ『勇者級』と言っても過言ではないが。それでもバカスカ無駄打ち出来るようなものでもない。

 それをカバーしているのが”動力炉”。


『封印の間には魔石がある。あそこの大きさは人3人分。そして魔力経路は転移術が途中で遮っていたけど、転移先は彼女の兵器だろうね。もしかしてとは思っていたけれど』

「それなら、その封印の間――いや、動力炉を潰せばマレディオーヌの戦力が激減するんやないの!?」名案だとばかりに声をあげたメビウスに、ラージが否と制した。

「……先ほど彼は『“動力炉”の一つ』だと言っていた。他にもあるんだろう、ゴーズ?」


『ご名答だよ、眼鏡くん。マレディオーヌの“動力炉”が全部でいくつあるかはボクも知らないが、あの黒い筐体一つに対して一つの魔石が割り当てられているようだ。――教会で見たのは筐体が6つ。つまり最低でも“動力炉”は6つあって、しかもその動力炉は世界各地に点在し秘匿されている』


「―――っ」

 ようやくゴーズの言っている意味が分かり、ラージ以外の3人も顔を青くした。

 もしここで“動力炉”を潰したところでマレディオーヌの戦力は最低でも六分の一削げるだけだ。焼け石に水とはこのことだろう。


――【焼滅超磁砲(エンデバニッシュ)】。


 魔石で魔力を供給しているからマレディオーヌ自身にリスクもない。

 それもあの火力を――いや、教会で見せたのはある程度火力を落としているようだったし、それ以上の砲撃を、しかもほぼ“永久”に撃ち出せる。


「しょ、正真正銘……化け物やないか………」

 呆然とメビウスが口にした。


『そう、その通り。だから“動力炉”は無視して、マレディオーヌと遭遇したときは一目散に逃げるべきですな』

「――ゴーズ、貴重な情報提供に感謝する」

『余計なお節介で言わせてもらえば、ラグバーズに亡命するのが一番賢明な判断だとボクは思うけどね。……常人が枢機卿員を敵に回すものじゃないよ』


ラージへ向けて言い捨てた後、ゴーズの姿が消えると「そんなこと、最初から分かっている」と掠れた声で呟く声が聞こえた。


 ……それでもラージは、反乱軍は、戦うことを選んだ。

 彼らにはその理由が、意味があるのだろう。確固たる覚悟が。目的が。願いが。想いが。

 ――それが、堪らなく悲しかった。


 どうして人と人が戦わなきゃいけないんだろう。

 なんで傷つけ合うんだろう。


 教会は。

 女神教は――どうして戦うことに加担しているんだろう。


「……ティフィア、話を戻そう。――明日の地下での動きだが、」

 深呼吸したのちに気を取り直したラージが再び地図を指差し、彼からの作戦案を聞きながらティフィアは思う。


 もし。


 もしも魔の者との戦争が止められたとして―――それはこの世界の“救い”に、本当になるんだろうか、と。


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