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勇者が死んだ世界を救う方法  作者: くたくたのろく
四章 墓標【前編】
139/226

3-3


 ガ―ウェイのその言葉は、紛れもない“宣戦布告”だ。


「すっげぇ啖呵切ってきたなァおい!………『神』共々ねぇ。ククッ、いいねェそういうイキがり! アタシは好きだぜ! ならさぁ、まずはアタシとイイコトしねぇ? きっと楽しくて愉しくて『神』に感謝したくなるからさあ!」


 マレディオーヌが勢いよく両手を広げると、彼女の周囲に6つの大きな魔術紋陣が展開し、そこからそれぞれ黒い筐体が出現する。

 筐体は人の頭一つ分の大きさをしており、それはバチバチッと黒い火花を飛ばしながら異様な空気を纏っていた。


「マーレ、そこにティフィア様もいるんだ。それにここは街中だってこと、忘れないように」

「勇者はお前が守ればいいだろォが。アタシには関係ないね!」


 マレディオーヌの魔力が一気に膨れ上がるのを感じる。


 ――来る!



「破壊の限りを尽くせ!―――【焼滅超磁砲(エンデバニッシュ)】ッ!!」



 ジジ、ギッ、ギギギ、ギギッギギギギギギィィィイイイギギギギギギギギッ!

 

 激しく何かがぶつかり合い、引っ掻くような耳障りな音と共に筐体に魔術紋陣が浮かび上がると、そこに収束した黒い光がガ―ウェイたちに向かって一直線に放たれる!


ギギギギギギィ――――――――――――――――――ィィィイイイイイイイイッ!!


「団長!」

 黒鬼面に呼ばれるよりも先に、ガ―ウェイは大きく足を開き「うぉおおおおらあああああああああああああああああああああああ!!」極限まで魔力で硬化させた杖を振り上げて黒い光線にぶつける。


 ギィィイイイイ、ギッジジジジジッ! ィィイイイイギギギギギギギギ!


「っ、マーレの“あれ”を防ぐか……。さすがと言うべきなのかな、ここは」

 マレディオーヌのそれは魔術、というよりは魔術兵器そのものだ。ナイトメアほどではないにしろ、その破壊力は加減されてるとしても周囲5km(キロメイテル)は容易に更地に出来るほどだ。


 それが今、一人の人間によって弾かれている。

 本来ならあり得ないことだ。『勇者』ならともかく。


 ――それだけガ―ウェイ・セレットは逸脱している。


 ガロ・トラクタルアースが賜る以前の『武神』は彼だというのは知っていたが、これほどとは。


 ただ弾かれた黒い光線は周囲の地面を抉り、建物や通行人に当たりそうなものは神父が教会の結界を強化し、範囲拡大して防いでいるが、いつまで保つか分からない。

今の内にとカメラはティフィアを奪還しようと慎重に近づこうとするが、そこでふと気付く。


「すごい……!」

 勇者の少女は、まるで魅入られたようにガ―ウェイを見ていた。


 ティフィアにとって強い剣士や騎士とは知り合いが多い。ニアやガロもそうだ。だけど二人は細身だからこそ、剣技によって術や技を受け流す技術があるからで、それも一長一短で身につくものではない。


 でも――これなら出来そうだ、と彼女は思った。


 魔力の流れが見える。

ガ―ウェイ(この人)は確かに杖を強化して折れないように硬化させているけど、どちらかと言えば彼自身の魔力で黒い光線の威力を受け流して分散させているのが大きい。


「こんな魔力の使い方があるんだ……」

 呆然と感心していたら、不意にティフィアの腕が引かれる。「ティフィア様、早くこっちに!」カメラだ。

 カメラは牽制のため黒鬼面へ炎の弾を放つが、いつの間にか彼の周囲に黒い霧が噴き出し、それが炎の弾を包むと霧と一緒に霧散して消える。


「おい、ゴーズ! まだか!」

 未だマレディオーヌの魔術兵器からの攻撃は止む気配がない。

黒い光線をずっと弾いていたガ―ウェイが焦るように黒鬼面を“ゴーズ”と呼び、彼もまた「あと三秒ほど持ち堪えてくだされ!」と答えるが。


「っ!?」がくん、と。


 ガ―ウェイの右足が落ちるように崩れた。


「あ、」

 思わず声が漏れた。


 ガ―ウェイの体勢が崩れる。魔力の流れに乱れはない。――ないが、足が動かないのか踏ん張ることが出来ず、少しずつ体が光線の勢いに仰け反ってきている。


 このままだと体が吹っ飛ばされる。

 そうすれば、ガ―ウェイとゴーズは黒い光線を一身に浴びて、死んでしまうかもしれない。

 ゴーズが魔術を展開しようとしているが間に合わない気がする。


 ―――「お嬢はどうしたいん?」


 不意にリュウレイの言葉が過ぎる。

 どうしたいか。……どうしたいんだろう。でも、分からないまま目の前で誰かが死ぬのは、嫌だよ。


 それが理由でも、いいかな?


「ティフィア様!」カメラの手を振り払い、剣を抜く。

 驚いたようなガ―ウェイとマレディオーヌの表情が視界に入った。


 やり方は見てた。

 出来ると思う。


 魔力を引き出す。剣の周囲に渦巻くように纏わせる。


 抉るんじゃない。

 叩きつけるんじゃない。

 流れる水を割るように―――受け流すように弾く。


「はぁぁぁああああああああああああああああああああああああッ!!!!」


 ガ―ウェイの杖が光線の勢いに負けて弾け飛ぶのと入れ違いに、ティフィアは剣を振り上げた。


 ギギギギギッジッギギギギギギギギギギィィィイイイイイイイイ―――――――ッ!!!!


「ぅ、ぐぅうう………っ!」

 重い!

 想像以上に衝撃がくる!

 一瞬片足が浮きそうになり、半歩下がって体勢を整える。それでもかなりキツい!


「――もっと腰を引け。それから剣身を光線に対して水平に構えろ」

 どうしよう、また足が浮きそう。吹っ飛ばされる。と考えていたら、誰かが背中を押して耳元でアドバイスを告げる。誰か、じゃない。ガ―ウェイって人だ。


「ったくよぉ……そんな小せぇ体で俺の真似しようとするやつがいるかよ」

 呆れたような彼の言葉に、声に出せずとも内心ごめんなさいと謝罪する。

 そのときだ。



【霞む陽炎の如く、隠々と惑わせ!――“黒骨兵の群霧フローゼン・スカルフォッグ”!!】



 ゴーズの魔術が発動、展開される。


その瞬間、全身に感じていた衝撃がなくなりガクリと体が前のめりに倒れた。

 わけが分からず顔を上げるが、あの黒い筐体から光線は放たれたままなのに、それはティフィアの目の前で霞みのように霧散してしまっている。


「ふゥん?」何かに気付いてマレディオーヌが攻撃を止め、今の内にとカメラがティフィアの元へ近づこうとするが、ひゅんっと風を切る音と共に弓矢が足止めをした。

 ――あのレドマーヌ(魔族少女)か!


 今まで傍観していたのに今更なんでと戸惑いつつ、ハッと気付く。

 いない……!?

 いつの間にかガ―ウェイもゴーズも、それからティフィアまでもが姿を消していた。


「あァあ、まんまと逃げられちまッたぜ。厄介な魔術使うやつがいたもンだ」

 再び両手を広げて黒い筐体を消すと、マレディオーヌは大袈裟に肩を竦めて溜め息を吐く。


「ガ―ウェイ・セレットが報告通り怪我してたことが確認出来たことが収穫かねェ……。聞いたときはフェイクかと思ったけど。―――ん?」

 気配に気付いて街の方へ顔を向けると、慌てたように人混みに紛れていった人影がいた。アルニだ。

 薔薇(いばら)の館から戻ってきたところなのだろう。


「追わせますか?」近づいてきた神父の問いに否と答え、ちらりとカメラを一瞥する。

 口角が上がったその表情に、なるほど“予定通り”なのかと判断し、マレディオーヌは踵を返すと光線で抉ってしまった地面を修復すべく魔力を練り始めた。


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