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勇者が死んだ世界を救う方法  作者: くたくたのろく
四章 墓標【前編】
138/226

3-2


「テメェは枢機卿のカメラ・オウガンだったか。この国は持ち場じゃなかったはずだよなぁ? なんで居る」

「……逆に尋ねるけど、君はどうしてそのことを知っているのかな?」

「さあな、歳をとるとすぐに忘れちまっていけねぇよ。――まぁ、枢機卿員が動いてるってことは『勇者』か『証』関連以外ありえねぇーか」


「……」カメラは静かに槍を振り回し、再び超加速で、今度はガ―ウェイの死角を狙う。

 術で強化した瞬発力。本来これを目で追うことなど出来ないはずだ。


 ――はず、なのに。


 ガッ!

 彼の足を狙った矛先を杖で弾かれ、更に体勢を整える間も与えないよう“槍”を狙って攻撃を繰り出す!

 直接カメラへ攻撃出来ないから槍を壊すか、手放させる気だ。それが分かっていながら、カメラは回避も出来ず防戦に徹するしかなかった。


 ガガッ、ガッ、ガッ、ガガガッ! ガガガガガッ!


「おらぁ、どうしたよッ! 最初の威勢がなくなってんぞ! テメェの持ち札は加速だけか!?」

「くっ……!」

 苦戦しているカメラの様子に、ティフィアは駆けつけたい気持ちはあっても二の足を踏んでいた。

 彼らの戦いに入り込めるほどの実力を、ティフィアは持ち合わせていないからだ。


 それに、と横にいる黒鬼面の方を一瞥すると「ここから見てると団長、本当に悪者みたいですなぁ!」ハッハッハッ! と笑いながら観戦している。


 ……この人たち、何をしにきたんだろう。


 バフォメットの屋敷への転移が出来ないようにされ、ガ―ウェイと呼ばれる男の人がカメラと戦っている。

 彼らが昨晩の襲撃犯の仲間だろうか。カメラが狙いだったのか。――ううん、どれも違う気がする。


「……」ティフィアは逡巡し、それから黒鬼面と向かい合う。それに反応し、黒鬼面は細長い針のような武器を構えた。


 先ほど魔術紋陣を破壊した様子から、おそらくこの人は魔術師だ。

 この人だけなら僕だけでも何とか出来るかもしれないけど……。


 そう思いつつ、しかしティフィアは剣を鞘に納めた。


「ん?」急に戦意喪失した彼女を不思議そうにする黒鬼面へ、ティフィアは言う。

「――僕は『勇者』のティフィア・ロジストです。……あなたたちは何者で、何が目的ですか?」


 まさか自己紹介し、なおかつ直球で聞いてくるとは。

 黒鬼面は面食らったものの、そんな彼女にお面の裏側で笑みを浮かべた。


「馬鹿正直で結構、ボクはそういう人が好きなんだ! だけれど残念。無念でもすらある。ボクは君のその問いに答えることは出来ない。――何故なら、君が『勇者』だからね。君とボクらは“敵”だ」


“敵”。


 明確な関係性をぶつけられ、拒絶された。

 ノーブルさんもそうだった。

 向けられる敵意。本来ならば人類を守る立場にある『勇者』に向けられるはずのないモノ。


 どうして、と思うよりも先にティフィアはなんとなく感じた。

 ……ああ、この人たちはきっと知っているんだ。

 僕が知らないことを。

 僕が知りたいと思っている何かを。


「団長! 目的は達成しましたぞ、時間稼ぎご苦労でした!」唐突に黒鬼面が声を上げ、それにガ―ウェイは杖を巧みにカメラの槍に絡ませてその手から引き剥がすと―――バギッ! と叩き割った。

「っ!」


 少しずつダメージが蓄積していた槍は呆気なく真っ二つに砕け、武器を失ったカメラを気にすることなくガ―ウェイは黒鬼面の元へ駆け寄る。

「さっさとずらかるぞ! 今度は失敗すんなよ!」

「あっはっはっ! 不得意な転移魔術、今日のためにかなり練習しましたから! 7割くらい安心してもらって大丈夫ですよ!」


 7割ってけっこう確率低い方なんじゃ……。しかも“今度は”と言われていたから、前回は失敗したのかな。とティフィアが内心ツッコミながら、黒鬼面とガ―ウェイの足元に転移の魔術紋陣が浮かび上がるのが見えた。


「!」

 行っちゃう! そう思ったら咄嗟に体が動いて、黒鬼面の袖を掴んでいた。

「逃がすな! 神父!」

 視界がぐにゃりと歪む直前、カメラが叫ぶ声と神父の男が聖書を開き「“許されざる罪に慈悲の浄化を与え給え”!!」と唱えるのが聞こえた。


 そして。

 一瞬真っ暗になった視界の隅で、バキンッと何かが割れる音が聞こえた刹那――


「う、わっ!?」

「ぐぇ!」

「ぉあ”!?」


 急に視界が開けたと思ったら体が何故か降下し、黒鬼面を下敷きに3人は地面に落ちた(・・・・・・)

 周囲を見回せば、3人の後ろには教会の玄関口があり、外に出たもののそれほどの距離は転移出来なかったようだ。


「むむっ、どうやら術を途中で妨害されてしまったようですなー」

「チッ。そんな芸当まで出来んのかよ……。つーか、なんでコイツまでいるんだ?」


 コイツ、と視線を向けられたティフィアは反射的に「ご、ごめんなさい!」と謝るが、自分でも咄嗟に動いてしまったことなので説明が出来ない。

「まぁいいではないですか、団長」それよりも、と黒鬼面は正面を向く。


「―――なんだか楽しそうなことしてるじゃァないか、カメラ・オウガン! 是非アタシも混ぜてもらいたいなァ!」

 外出先から戻ってきたのか、正面からマレディオーヌが愉快そうに深く笑みを浮かべる。


「別に……遊んでいるわけじゃないんだけどね。やっぱり術式が違う(・・・・・)とやりにくくてたまらないよ」

 更には背後の教会の玄関からは、再び5枚の窓を展開して今度は炎の弾を10個ほど浮かべたカメラまでもがやってきた。


「おいおい、さすがに枢機卿員2人――しかもマレディオーヌ相手は俺でもキツいぞ……!」

「戻ってきちゃいましたなー! あっはっはっ!」

「笑ってんじゃねぇよッ! そもそもテメェが転移術式を最初に失敗しちまったから悪いんだろぉーが! 猛省しやがれ!!」

「まあまあ、落ち着いてくだされ。それよりも現状の打開策を考えるべきでは?」

「ンなことは分かってんだよ! テメェは少し黙ってろ!」


「――そろそろよォ、話し合いは終わったかぁ……!? 早く()り合おうぜ? もォ体が疼いて仕方ねェわけよ!」

 バッ! と唐突にマレディオーヌが礼服を脱ぎ捨てる。


 さすがに裸というわけではなかったが、恥部だけを隠した限界まで露出度を高めたその体は、意外にも白く、更に筋肉も薄らとしかついていない。

 しかし、その美しい肌には隙間なく魔術紋陣が刻まれており、マレディオーヌの魔力に反応して淡く光り輝いている。


「なんと下品な術式……! あれは魔術そのものを冒涜している! 団長、懲らしめてやって下さい!」

 簡単に言うんじゃねーよ、と内心思いながらガ―ウェイもまた杖に刻まれた魔術紋陣を発動させ、物質硬化によって強化する。黒鬼面もまた針のような武器を取り出し、いつでも魔術を使えるように構えていた。


 まさに一触即発。

 ――駄目だ。そう思ったときにはすでに「待って!」と声を上げていた。


 全員の視線と意識がこちらに向けられる。……良かった、蚊帳の外になってない。


 無視される可能性もあるかと思ったけど、ガ―ウェイたちはともかくマレディオーヌとカメラは教会の人間だから、やっぱり無視は出来ないのかもしれない。


「ティフィア様、危険だからすぐに離れた方がいい」

「頼むから水を差さないでくれよ、勇者」

 二人の言葉に首を横に振る。


「嫌だ。二人とも、この人たちを殺すつもりだ。確かに教会を襲撃してきたことは良くないことだけど、でも教徒の人を傷つけるようなことはしてないよ? そこまでしなくても――」


「残念だけど、それは出来ない。……今までは特に大きな動きを見せなかったから泳がせていたんだけどね」

「ふんっ、ついに教皇からお達しでも出たか? よっぽど『遺跡(・・)』を見られたくなかったわけか。まぁ、おかげでこっちも大方の察しはついたけどな。――8年前(・・・)グラバーズのあの街で(・・・・・・・・・・)何が起きたのか(・・・・・・・)、とかな」


 8年前。

 グラバーズ。

 そのキーワードに、思わず「え」と声が漏れた。


「ありゃまぁ、そこまで分かったンかよ。ただの脳筋かと思ってたけど、なるほど、教皇が警戒するわけだぜ」

「ちょうど良い機会だ、教皇(おやだま)に伝えろ。俺たちは必ず復讐を果たす。高みの見物気取ってる『()』共々テメェらを引きずり下ろしてやるってな!」



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