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勇者が死んだ世界を救う方法  作者: くたくたのろく
四章 墓標【前編】
136/226

2-4


 メビウスだけはぎょっとした顔で驚いていたが、他3人は乱入者に不審そうな眼差しを向けてくる。


 緊張に固唾を飲み、部屋の中へと足を踏み入れた。

「突然入りこんできた非礼には謝罪します。俺はアルニ。勇者ティフィアの仲間です」

 ああ、どォりで見覚えが、とマレディオーヌが呟く隣で女王が目を細めた。


「……勇者様のお供の方が、何故この場にいるのかしら」

「旅の安全経路を確保するため、勇者代理として反乱軍の幹部と話をつけたくメビウス傭兵団へ助力を請いに訪ねた次第です」


 敬語は苦手だ。ボロが出る前にさっさと用件を済まさなければ。


「そう。ならば反乱分子はじきに沈静化しますので、暫しお待ちをと勇者様へ伝えてくださる?」

「申し訳ありませんが、なにぶん急ぐ旅でして。そちらにいるラージという方を捕獲すれば、反乱軍も黙ってはいないでしょう。……出来れば、俺たちがウェイバード国から出るまでの間、手出ししないで欲しいのですが」


 ここカトリプトサ港町からグラバーズまで徒歩5日。馬車を使えば3日ぐらいか。

 マキナ女王は嫌そうに眉を顰めたが、「数日ぐらい問題ねェよ。だろ? 女王サマ」と意外なところから援護射撃が来た。

「力も数もこっちが勝ってンだ。数日くらいで戦況をひっくり返せるわけもねェし、教会としては勇者サマの行動を妨げることはしたくねェのよ」


「ですがマレディオーヌ様、そうなると帝国側(・・・)と足並みが揃いません」

「言ったろ、問題ねェよ。あっちにいる優秀な“駒”に調整してもらうさ」

 なんで『帝国』が出てきたのかはアルニには分からないが、渋々といった様子で女王は一つ頷いた。

「……いいでしょう。勇者様のご意志に反することは、わたくしとしても心苦しいところでしたし」


 ただし、と彼女は付け加える。


「反乱軍に関してはこの国の問題。勇者様には一般人たちの混乱を避けるためにも関与しないよう、条件を提示します。それから馬車も御者はこちらで用意しましょう。明日中には出立していただき、国境を越えた時点で我々は作戦を開始します」


「分かりました。勇者に必ず伝えます」

 アルニが受諾すると、話は済んだとばかりにマキナ女王とマレディオーヌは席を立ち、部屋を出て行った。

 そして。


「アルニお疲れさん、助かったで! 思った通り(・・・・・)に動いてくれて、ありがとな!」

 ぐっじょぶ! と親指を立てたメビウスに感謝された。

「……は?」


「いやぁ、さすがラージ! 本当にシナリオ通りの展開やん。あの暴徒の下りは最高やった……! 偽情報掴まされて、まんまと自分らの身内やのに消してもうたわけや!

まぁ、あちらさんもアルニが登場した辺りで怪しんでたみたいやけど、気付いたところで『勇者』が絡んでしまえばどうにも出来へんもんな!」


「教会という後ろ盾は強力だが、『勇者』の動きによっては枷にもなり得る。今回は本当にタイミングが良かった」

 さっきまでの悔しげな表情とは一変、ふふんと得意げに眼鏡をクイッと上げて笑みを浮かべるラージと、そんな彼に称賛を浴びせるメビウス。


 その様子に、あれは全部演技だったのかと愕然とした。

 ――嘘だろ、迫真すぎやしないか!?


「……メビウスさん、さすがに説明して欲しいんだけど」

 余計混乱してきたと白旗上げるように手を挙げれば、悪びれた様子もなく「そうやった! ごめんなぁ」と彼は笑いながら謝ってきた。


「アルニはこの国の状況をどれくらい知ってるん?」

「政府軍と反乱軍が小競り合いしてるってことだけは……」

「そうやな。まぁ、おおまかにはそういう認識でエエよ。――ここにいるラージは、その反乱軍の指揮官や」


「正確には“ウェイバード隊”の、だ」

 ソファから起ち上がり、アルニの前に来ると右手を差し出してきた。


「『薬草商会』の会長兼、『反乱軍』ウェイバード隊指揮官のラージ・ブランタークだ。出来れば宜しく願いたい」


 さっきまでは頑なに認めなかったというのに、反乱軍の人間であることを明言したことに戸惑いつつ「あ、ああ。宜しく……?」と握手を交わし、それからメビウスに促されるままソファに座る。


「――まず先に誤解しているようだから言っておくが、昨夜お前達を襲撃しようとしたのは『反乱軍』ではない」

「……それを信じろと?」


「勇者一行を襲撃すればデメリットしか生じない。下手すれば勇者を敵に回すだけじゃなく、民衆にすら反感を持たれる。俺たち反乱軍はあくまで『教会』のやり方に反発するための組織であることを知ってもらいたい」

「教会のやり方……?」

 アルニの疑問にラージは首を横に振った。


「知らないなら――分からないのであれば、……そのままが良いだろう」

「簡単に言えば、反乱軍にいる人たちはみんな教会の被害者なんや。それぞれ理由も違うし、そこは流して聞いて欲しいん」

 メビウスが反乱軍に協力しているのも、そこに理由があるような気がした。


 分かったと頷くと話が続けられる。


「昨夜の襲撃犯は政府軍だ。俺たち反乱軍と接触しないよう教会へ逃げ込むように誘導したのだろう。――勇者は教会に属している。だから勇者を味方につけることは出来ない、と俺たちに牽制をかける意味もあったんだろうが」


「反乱軍は勇者に味方して欲しいのか?」

「当たり前だ。勇者がつくということは、それだけでこちらに『義』があると見なされる。それに戦力としても政治的にも多大な影響力があるからな。……だからこそ、『勇者』を独占し続けているミファンダムス帝国は、世界的にも“強い”んだ」


 勇者の名を使って笠に着ているというわけか。


「話を戻すが――実を言うと俺たちはどうしても教会と本格的に争う前に、しなければいけないことがある」

「あー……もしかして、時間を稼いで欲しいって言うつもりか?」

 さっきの会談が全て演技で、それを上手くいったと言っていたのだから、察しがつくというものだ。


「だいぶ女王様は焦れててなぁ。小競り合いも頻発してたし、いつ爆発してもおかしくなかったん。まさしく一触即発の緊張状態や! だからこそ、今回この会談を開いて確実に得られる『時間』が欲しかったんや」


「勇者一行がグラバーズを目指していることは知っていた。帝国ではまさに魔の者との戦争を控えているこの時期に、わざわざ反対の位置にある場所を目指し、なおかつ帝国も教会もそれを黙認している理由から――お前達、或いは勇者個人が、グラバーズ国へ急いでいること、そして戦争に間に合うようすぐに帝国へ戻るつもりなのだと推理した」


 まじかよ、コイツ。名推理にもほどがあるだろ。


「会談ではそれを利用させてもらったわけだが、稼げた日数は今日を含めて4日ほど。正直、あと1日欲しい」

「一応聞くけど、その理由は話せるのか?」きっと無理だろうなと思って尋ねれば、意外にも彼は答えてくれた。


「――『行方不明事件』。その被害者を捜している」


 会談で話題に上がった話だ。確か8年前から数年に渡り、行方を眩ませてしまった人たちがいるとか。

 それをラージは教会と政府のしわざではないのかと糾弾していたが。


「……利用したことは謝る。だから頼む! もう少しで分かりそうなんだ! 1日、いや数時間でも良い。時間稼ぎに協力して欲しい!」


 頼む、と頭を下げてきたラージに言葉を詰まらせる。

 これも演技なのか、それとも……。

 どちらにせよアルニの一存で決められることではない。


 結局「勇者に伝えておく」とマキナ女王に返したのと同じ言葉を口にするしかなかった。






 アルニが退室して少し経ったあと、ラージはポケットから取り出したチョコを一粒口に放り込んだ。

「勇者は絶対に断らないはずや。大丈夫、きっと上手くいくで!」

 そう笑顔を向けるメビウスに頷く。


 そうなればいい。

 何もかも上手くいけばいい。


 そんなふうに楽観視出来れば――どれだけ良かっただろうか。


 不意に声繋石のピアスから繋がる気配を感じ、ラージはそろそろ拠点に戻ると言って『薔薇(いばら)の館』を後にすると、そこでようやく通信をとる。

「グアラダか」

『はい、若。ご報告ですが、――――――――』


 彼女からの報告を聞き終えると、ラージは小さく「そうか」とだけ答えた。


 ほら、やっぱり。

 また(・・)上手く出来なかった。


「――分かった。拠点に戻り次第、会議を開く」

 通信を切り、それから空を仰ぎ見る。

 今度こそ――本当に駄目かもしれない。


 そんな悪い想像を振り払うように首を横に振り、ラージは次の手を考え始める。


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