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勇者が死んだ世界を救う方法  作者: くたくたのろく
四章 墓標【前編】
130/226

1-4


 翌朝、ティフィアは寝ぼけ眼を擦りながら身支度し部屋を出る。

 まだ起きるには早い時間のせいか、廊下は静寂に包まれていた。


 ティフィアは大きく背伸びし、ぼんやりとする頭を振って強引に覚醒させると、バフォメットと会ったあの部屋へと足を向ける。


「おはようございます」

 ドアを開けて頭だけを覗かせると、思った通りカメラだけがそこにいた。それを確認して入ると、彼女もまたティフィアの存在に気付き、いつもの綺麗な笑みを浮かべる。


「おはよう、ティフィア様。早いね。バフォメットもアルニ君もまだ寝ているはずだけど」

「はい。あの、カメラさんと話がしたくて」

「自分と?」予想してなかったのか、驚いたように首を傾げた。

「――昨日マレディオーヌさんが言っていた“ここの件”について、僕はまだ答えをもらってなかったなと思って」


 さすがに顔には出さなかったが、カメラはその質問に対して本当に驚いていた。まさかそれほど固執して聞いてくるとは思わなかったからだ。

 正直、カメラとしてはこのウェイバード国で起きている事に首を突っ込んで欲しくないのが本音だが。


「……そうだね、答える約束だった」言いながらティフィアへソファに座るように促し、彼女自身もテーブルを挟んだその向かい側に座る。


「ティフィア様は世界各地に“反対勢力”がいることは知っているかな。彼らは『反乱軍(・・・)』と自称しているようだけど」

 初めて聞いた勢力の名に、ティフィアは首を横に振る。


「秘匿されてるし、知らなくても無理はないよ。

 反乱軍は100の巡りを、勇者の存在を、完全に否定している輩たちのことだ。ミファンダムス帝国や諸国と連携し、勇者を支援し続けてきた我々に対して。……自分も初めて彼らの存在を知ったときは、意味が分からないと思ったよ」


 教会はあくまで女神教という宗教団体だ。派閥はあれど、女神か勇者へ重きをおき、敬っていることに変わりはない。

 それは女神に選ばれた勇者が唯一魔王を倒せるからで、それを否定するというのは――確かに不可解だ。


「――反乱軍の目的は“真実”だそうだ」

「真実……?」


「ありもしない妄想だよ。魔の者から家族や友人知人、職や故郷を失った人たちが、そのやりきれない想いに堪えかねて暴走しているんだ。国の王が、貴族が、教会が、なにか陰謀を張り巡らせているんじゃないかって」


 陰謀、その言葉にふとサハディ帝国でのことが頭に過ぎる。


「国も教会もそれぞれ被害者たちを援助してたつもりだけど、病んだ心はどうにも出来ない。話をしたり住める場所や職を斡旋したりして、それでも精神に異常をきたしてしまったと判断した方々には、更生施設に入ってもらってる」


「そんな施設、見たことないよ?」

「いや、あるよ。認識させてないから、気付かないだけ。――各地の教会支部、それが更生施設の役割をしているからね」

「!」


「寝食を共にし、職に就けるまでは教会の掃除や手伝いをしてもらってるんだ。定期的に医者に診てもらったときに問題ないと判断されたら、少しずつ社会復帰のための支援に移行する。

 今まではそうして彼らにも心穏やかに生活してもらっていたんだが、……数年前に“先導者”が現れてしまったんだ」


「先導者?」

「そう。君も知ってる名前のはずだよ――ヴァルツォン・ウォーヴィス」


 会ったことはないが、確かに知っている。

ミファンダムス帝国の元騎士団長で、前皇帝を殺した罪で指名手配されている人だ。


「彼によって扇動されてしまった人々が、今や『反乱軍』と名乗っている。“軍”だけあって、彼らは武器も用いるし戦闘能力もある。あまりにも規模が大きくなりすぎた場合はさすがに神官たちに相手させるわけにはいかないから、自分ら枢機卿員や教皇が国に協力して沈静化を図っているというわけだよ」


「じゃあ……この国でも反乱軍が活発化してるってこと?」

 カメラは頷き、それから大きく溜め息を吐いた。


「こちらとしても対処に困ってるよ。彼らは人間で、争うべき相手ではない。だけど暴走している彼らが勇者様や一般人にも牙を剥かない確証もない。それで枢機卿員が各地に派遣されて対応するんだけど――マーレは荒っぽくてね。やりすぎてしまうことがあるんだ」


 そのせいかウェイバード国にいる“女神派”も感化されてしまっており、それでカメラが様子を見に来たというわけだ。


「…………あの、一つだけ良いかな」

「どうぞ?」

「ヴァルツォンさんは、どうして反乱軍を作ったのかな?」

「さあ。自分には分からないけど、でも彼も何か大切なモノを失ったんだと思うよ」

「……」


 ここまで話を聞いた限り、おかしな点は感じなかった。少なくともティフィアはそう思う。

 だけど昨日マレディオーヌから忠告されたことが気になっているのか、それとも別の何かが引っかかっているのか、どうにも腑に落ちない。


「――サハディ帝国は、」まだ考えが纏まっていないのに、ティフィアはぼんやりとそれを口にする。「どうして“ああなった”のかな」

「サハディ?」

 急に話が飛んだことにカメラは戸惑ったように声を上げた。


「あ、えっと、なんて言えばいいんだろう……。サハディのやり方が、なんだか反乱軍に似てたような気がして」

 ノーブルは“真実”を追い求めていたように思う。だけど彼は何かに、否、いろんなことに失望していた。だから自分がどうにかしないといけないと思って、あの兵器を造り出してしまった。


 彼は誰一人として信用してなかった。犠牲となってくれた部下ですら。

 信用出来なかったから、あそこまで追い込まれてしまったんじゃないか。


「………どうしてなんだろう」

 どうして誰も信じられなくなってしまったんだろう。

 何がそうさせてしまったんだろう。


 考え込むティフィアへカメラが声を掛ける前に、がちゃりと部屋のドアが開く。アルニだ。


「――二人とももう起きてたのか。早いな」

「おはよう、アルニ。うん、ちょっとお話してたんだ」

「もうこんな時間だったのか……。そろそろバフォメットも来るとは思うけど」

 ちょうどそのとき転移に使う魔術紋陣が淡く光り始め、バフォメットが姿を現した。


「ちょうどお揃いのようですね」

「バフォメット様、教会に行ってたんですか?」

「いいえ、かかりつけの医師のところで定期検診してもらっていただけですよ。――さて、皆さんお腹空いた頃でしょう。専属の調理師に朝餉(あさげ)は用意してもらっているから、こちらへどうぞ」



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