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勇者が死んだ世界を救う方法  作者: くたくたのろく
四章 墓標【前編】
126/226

0.約束


***


 ―――8年前。




 燃え広がる炎が全てを焼き尽くさんと舐め溶かし。

 人も、建物も、そこに宿る想いたちも――どれも関係なく平等に、無に帰そうとしている。


 それを眺めながら「なんて美しいのだろう」と“彼”は思った。


 どれほど望んだとしても、人の心は必ず歪みを産み落とす。

 不平等で不条理で、欲望と理性が矛盾を孕む。


 しかし、この炎はどこまでも平等だ。


 何もかもを平等に、燃えて溶かして消して――――。

 思い描いてきた“理想”が、そこにはあった。


「これが……『勇者の証』の完成形(・・・)か」


 黒い煙が立ちのぼる闇夜に浮かぶ紋章。

 それは禍々しい紅い色をした三つの魔術紋陣だった。


 一つは片翼に太陽、一つは片翼に月、そして最後の一つはプリアムという花の大輪を象ったものだ。


 美しいその“式”は、だけどすぐにボロボロと崩れ落ちていく。

 壊されたのだ(・・・・・・)。――この子供に(・・・・・)


「っ、はぁ……はぁ、はぁ………!」

 息を荒げて地面に這いつくばる少年は、金色(・・)の瞳からポロポロと涙をこぼしながら睨み付けている。

「なん、で―――」


 可哀想なアルニ(・・・)


 おれ(・・)のことが許せないのだろう。

 騙したことを、嘘を吐いたことを、利用したことを。

 そして彼にとって大事な存在すら――壊してしまったのだから。


 哀れで……救われない(・・・・・)


「ねぇ、アルニ」

 ――だからこれは、きみのためでもある。


「約束をしよう」


 世界を救いたいおれと。

 世界を呪うきみ。


 これほどまでに利害が一致する(・・・・・・・)望みは他にないだろう。


「世界に蔓延る悲しみの連鎖を終わらせるために、」


 すべてはそのためだけに。

 その願いのために。


 だからあの日――リウル・クォーツレイ(勇者)は死んだのだから。


 ――そうして『勇者の亡霊(・・・・・)』は言った。




「おれが世界を救ってあげる」




 それが勇者の使命なのだから、と彼は嗤った。



***


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