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それはまるでタイムカプセルのように

 中学2年の冬。バレンタインへの希望は既に捨てた。

 この約14年間で僕がモテない系男子だということは貰ったチョコの数を数えれば分かりきってしまう。

 0です。1すらない。むしろあげてるからマイナスがつくレベル。

 だから、今日は平日だ。僕にとっては平日なんだ……!

 バレンタインに浮かれている連中をうざいと思うことなんてない。

 むしろ当然だ。心ウキウキワクワクするのが通常の男子だろう。

 とは言っても僕が普通じゃないわけじゃない。妬む男子だっているもんだ。

 この嫉妬と幸福が入り混じる混沌としたXデーこそ、バレンタインというのだ。

 僕はその混沌とした日を、学校というさらに混沌とする居場所で過ごさなければならないのだ。

「……キッツ」

 もらえないとわかっているからこその、辛さ。

 噛み締めながら、雪を踏みつけ学校へ向かう。

 これが、人生最大の、不幸な日の始まりだ。







 ×××







 下駄箱には張り紙が貼られていた。

 そこには涙が出るほど虚しい男達の叫びが綴られている。


『何年もチョコをもらっていません!!』
『絶賛恋人募集なう』
『愛が欲しいんです』
『イケメンさんチョコをおすそ分けください』


「こいつら……」

 最後に至っては意味がわからない。バレンタインチョコってなんなのか知らないのか。

 僕はそんなことしない、無駄だと知っているからだ。しかも何よりこいつらのアホなところは、昨日のうちに貼っていないところだろうな。

 今日の朝、好きな人のために持ってきたチョコレートをお前らみたいなこんな気色悪い文を書けるやつに渡すなんてありえないでしょ。

 ……まぁ、半分男子のネタでしょうけどね。

 いつも見る変わらない下駄箱を開け、上靴を取り出す。

「ん?」

 なんかカサリと音がした。

 ゴミでも入れられたのだろうか。そこまで悪い人間なつもりはなかったけども。

 下駄箱の中に手を伸ばしそのゴミを掴んだ。掌に固いものにあたり、固形物も入っていると確信する。

 固形のゴミってなんだろう。そう思い、ゴミであるという俺の考えが少しずつ薄れていく。

 そういえば今日は、バレンタインデーですね。

 ふとそんなことを思い掴んだものを下駄箱から取り出した。


 





「……は?」








 くしゃりと音を立てて掌に出現したものは、紛れも無いチョコレートでした。

 本当の、チョコレートでした。

 うんことかじゃなくて、甘い匂いがするハートの形をしたチョコレートでした。

 いや、え? どういうことなの?

 混乱した頭じゃ何も考えられない。春か? まだ吹雪吹き荒れる冬真っ只中だというのについに僕にも春が来たと言うことでいいんだな?

 いや待て落ち着け。いや落ち着いていられるかっ!?

 とりあえずここは危険だ、男子トイレにでも隠れて内容だけでも……!

「逃げろっ!」

 とりあえず一番近いトイレに駆け込んだ。上靴は走ってる最中に履いた。僕は手先が器用なんだ。








 ×××






 全速力で朝の廊下を走り込み、個室に侵入。

 なんだこの気持ちは、心臓がドキドキする。

 走ってきたからと言うのもあるだろうけれど、きっとバレンタインチョコの効果がデカすぎる。

 すまんバレンタイン、正直お前を舐めていた。

「クッソー……あんなにバレンタイン絶縁体だったって言うのにぃ……! 嬉しいなぁ!?」

 いざもらうとやっぱり嬉しいものだ。

 小包を開ける手すら震える。

 心不全で死ぬんじゃないかってぐらい心臓は跳ねてる。

 呼吸もまた過呼吸になりかけてる。

 童貞力が前回まで高まっている。

 さぁ、誰からの貰い物だ? 僕は一体誰に好かれていたんだ?

 小包を開けて、メッセージカードなるものを取り出した。

 まさに天にも昇る心地で、そのメッセージカードを上から読み上げる。

「えーっと、なになに? 『佐々木さん、あなたのことが好きでした』……か」

 なんて、なんて心にくる文章だ。もうこの一行だけでお腹いっぱい。

 彼女の不器用な愛を感じる。今まで伝えられなかった悲哀も込められていると思うと涙が出そうになってきた。

 だが、一つだけ。気に入らない点があった。


















「僕は、佐々木じゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

















 死んだ……真っ白に、燃え尽きた……。

 これは、下駄箱を間違えるという、うっかりミス……。僕の上靴の名前は正しいから、間違えたのはこれを入れた彼女……。

 なんて、なんてことをするんだよ。

 夢を与えて希望を奪うなよ!

 もう、こんなことがあったら、平日なんて思えねぇよ……!

 結構まじで涙が出てきた。涙もろい性格じゃないのは自分が一番知っている。なのに、とめどなく涙が溢れてくる。

 そして、じわじわと感情が湧き上がってきた。『憎しみ』がじわじわと。

 いくらうっかりミスとはいえ、童貞をここまで弄んだ罪は深い。犯罪だギルティーだ。

 このお返しはホワイトデーでたっぷりとしてやる……!

 そのためにはこのチョコを僕の下駄箱に入れたアホの名前を知らなければいけない。

 見たくないけど復讐のためには見るしかない。可愛いうさぎのメッセージカードを更に読み進めた。

 最後に書かれていたのは、差出人の名前。復讐対象。

「……よりによってお前かよ」

 その名を見てガックリとうなだれた。下駄箱選択ミスのダメージが大きかったせいか、全力で悲しむことが出来ないけれど、この名前を見ても十分傷ついた。

 僕のクラスメイトで、初恋の人の名前だった。

 ……幼馴染、だった。







 ×××







 授業中、全然内容が入ってこなかった。

 初恋の人の方を見る。チラチラと視線が迷子になっている。心が動揺している証だ。

 心臓が痛い。

 厄日だ、いや、単なる厄日なら良かった。なんで今日を厄日にしてしまったのだろう。

 恋した彼女は失敗した。

 恋した僕は失恋した。

 なぜ僕の下駄箱に入れてしまったんだ。

 どうして僕なのだろう。

「神様、僕は悪さをしましたか?」








 ×××








「……ねぇ、ねぇ!」

「……ん?」

 どうやら本格的に授業中眠ってしまっていたらしい。

 色々あった頭が重い。沈みかけてる瞼を起こしてくれた人に、声がした方に向けた。

 今一番見たくない人がそこにいた。

「ど、どうしたの? そんな落ち込んで……」

 初恋の人が、彼女が立っていた。

 何か言おうと口を動かすけれど言葉が出てこない。

「ははーん? 今年もチョコもらえなかったんでしょ? 悲しいなーモテない系男子は!」

 彼女はいつもみたいな軽口を叩く。僕もいつもみたいに言って返そうと思った。「なんだと腐女氏が」とか言ってやろうと思ってるのに言葉が出てこない。

 お前のチョコはここにあるんだよ。

 お前が間違えて入れたんだ。まだ間に合うから渡してこい。

 それすらも言えない。

 僕の心は、彼女を見るうちに少しずつ黒くなっていった。

 このまま持っていれば、佐々木くんに彼女の想いは伝わらない。

 僕がこの真実を握りつぶしてさえいれば、彼女の恋を先延ばしにできる。

 佐々木くんに、チョコなんてなかったことにすればいいんだ。

 そんな答えを導き出す自分が嫌になる。男らしくなかった。最低な人間の考えることだと自覚した。

 分かってるのに、言葉が出ない。出てこない。

「……っ」

「な、なんか調子悪いみたいだね……ま、またね!」

 そう言って、彼女は自分の席へ戻って行った。

 放課後になっても、彼女とは一切話さなかった。周りの音は何一つ聞こえず、机の中のチョコレートをただ弄っていた。

 帰宅するときにチョコを佐々木くんの下駄箱に入れようとも考えたけれど、僕はそれを握りつぶした。

 さらさらと降り注ぐ雪が熱を奪う。大したことのないはずなのに、今の僕は死にたくなるほど苦しい。

 下向をしている今、心臓や脳がどうにかなりそうだ。それはもう壊れてしまうほど、もう壊れているのではないかと錯覚するほど。

 早く眠って、少しでも気分を落ち着かせよう。そして最低な自分をどうにか援護する言い訳でも考えよう。

 長い1日もこれで終わると思うと、少し気分が落ち着いた。

 でも、こんなんで終わりじゃなかった。次なる不幸はすぐそばにあった。




 ×××




「……引っ越し?」

 家から帰ってきた僕に告げられたのは、あまりにもタイミングの良すぎる不幸の告知だった。

 お母さんは、申しわけないと言ってくれたが仕方のないことだと思う。

 話によると急遽、引っ越しが決まったらしい。理由はなんとなくわかる。再婚だろう。

 僕が小学生ぐらいの頃、父が死んだ。事故で亡くなった。

 父が死んだということだけは覚えている。母と泣き喚いていたのも覚えている。今思い返すと、母が泣いたのはあれきりだった。

 それから何年かたって、お母さんは別の人と付き合うようになった。お父さんのことを忘れたの? という疑問は出てこなかった、その人はいい人だったし、いつかこの人が僕のお父さんになるんだろうな、と思っていたから。

 でも、でもでもでも。

 なぜ、今なのだろう。

 あと一ヶ月後とかじゃダメだったのか。

 どうして、明日からの土日2日で家を出るんだ?

 余りにも、余りにも……。

 虚しくて、声も出ない。

 誰も悪くないのだ、そう、僕以外は。

 結局、僕がしたことは、ただの馬鹿な行為だ。バレンタインにちょっと浮かれて、たったそれだけで自分を見失った。

 この時をもって、このバレンタインの日に起きたチョコレートの事件の真実は、闇の中に葬られることとなった。

 後悔だけが、残る。

 お母さんには、「分かった」とだけ伝えて、自分の部屋へ戻った。






 ×××






 目が冴えて、眠れない。

 やり直したい、と心の中で何度も叫んだ。

 そうだ、好きな人の幸福を願わないで、何をしろというんだ。

 仮にも幼馴染だろ、僕は。何をしているんだよ、馬鹿。

 電気の消えたくらいくらい部屋の中で、尽きぬ後悔に苛まれる。今日の自分を振り返り、忿怒と悶えが込み上がる。

 そして自分の弱さに涙した。もう一度、もう一度、あの場面に立ち会わせてほしい。

 今ならきっと、応援してやれる。祝ってあげられるんだ。

 佐々木くんの下駄箱に、チョコを入れるだけなんだ。

 そう、僕の右隣に……?





「……あれ?」





 何かが、噛み合わない。

 なんだこの、気持ち悪さ。スナック菓子を食べたらふにゃりとしたガムだった時のようなおかしさは。

 戻れ。

 心臓がそう言った。

 確認しろ。

 脳がそう伝えた。

 この想いを解きあかせと。そう、聞こえた。

 ……やり直すんだ。あの日を、あのバレンタインを、やり直す。

 絶対に次は間違えない。そのためには、時間を超越する必要がある。

 何年かけても構わない。僕は、あの日に戻るために、全てをかける決心をした。

 ちっぽけなことだと笑うかもしれない。何も気にしすぎだと嘲るのも自由だ。

 だが、僕は、僕にとっては大事な出来事だ。

 これだけは、清算しなければならない。

 僕の時間は、恋は、あの時止まった。

 あの日をまた迎えることで、きっとそれは動き出す。




 作り出すんだ、過去へ行く道具を。



 過去で、未来に歩くために。







 ×××






 そして何十年が過ぎた。

 14歳の時止まった時間を動かす機械は完成した。

 このプロジェクトに参加してくれた協力者には感謝しても仕切れない。本当にありがとう。そしてすまん。大層なことには使わない。

 僕にとっては、重大なことなのだがな。

 そして今日、ついにこの機械を動かす。

 唾を飲む。このために色々やってきた。その集大成だと思うと、心臓も脳も激しく蠢いた。

「では動かしますよ」

 作業員の一人がそう言った。僕はそれを頷くことで了解を示す。タイムマシンに乗り込んで時間軸の設定を行った。

 あの日だ、時間が止まったあの日に向かう。

 設定を行うと、タイムマシンが激しく動き出した。

 過去へのリープが、開始された。

 僕は目を瞑って、到着を待つ。あの日のことを思い出しながら、その光景を瞼の裏に浮かべて。





 ×××





「……成功だ!」

 ついガッツポーズをしてしまった。でもそれぐらいはいいだろう。ここまで綺麗に成功したことは、このタイムマシン設計者として喜ばしいことなのだから。

 一応タイムマシンは上空に避難させておこう。見られたらパラドックスだ。……する予定ではあるがな。

 しかし、どんぴしゃりと校庭に着地できた。まだ位置情報とかが不完全である可能性もあったけれど、うまく起動してくれて何より。

 周りを見渡す。時間帯は早朝だ、あの日僕が投稿する前よりも学校に向かうためにだ。真実を確かめる。

 下駄箱周辺で待ち伏せ。彼女が来るのをひたすら待つ。

「……来た」

 ……いや、生徒じゃない。誰だ。大人の……女性?

 手に持っている何かに驚いている。

 ……叫んだ。











 ____________________
 __________

 


「……ついに、来てしまった」

「あの日」渡せなかったものを届けに、過去にまで来てしまった。

 大切なものを握りしめて、()はゆっくりと歩き始める。大丈夫、この時間に人はいなかったはず。





 ()は、後悔していた。

 彼のことが好きだったのに、彼のためにチョコレートも作っていたのに、結局渡せなかった。
 
 彼は、ずっと私のそばに居てくれた。幼馴染だったけど、好きになってしまったのだ。

 好きに理由なんていらないとか、馬鹿らしい。そう思っていたけれど、今自分がそんな状態であると気がつくと、馬鹿にはできなくなった。

 バレンタインになると、いつもいつも、怖がって渡せなかった。

 毎年毎年作っても、毎年毎年渡せない。毎年毎年枕を濡らして。その度に好きって思いは強くなった。

 彼はバレンタインのチョコをもらったことがない。私があげていないからなんだけど、そんなのばれたくないから、いつも毎年からかってる。

 言い合って言い返す。それだがて幸せになれた。

 でも、「あの日」だけは違った。

 彼の様子がどうしようもなくおかしかった。

 普段バレンタインとか気にしない感じの彼だったのに、どうも様子がおかしい。軽口を叩いて見たけども、言いにくそうに口をもごもごさせながら、結局何も言わなかった。

 ……今年はいけると、当時は思ってたんだ。

 その時後ろに持っていたチョコレートを渡すために近づいたのに、結局それも渡せなかった。

 また枕を濡らす羽目になってしまった。

 土日を挟みメンタルを回復させ。また来年頑張ろう、と思い、登校した。

 彼は、もういなかった。











 その日の授業は、まるで耳に入ってこなかった。

 すぐに帰宅し、ベッドに飛び込む。枕に顔を埋める。視界が黒く塗りつぶされた。

 なんで、なんで渡せなかったのだろう。どうして、好きって言えなかったんだろう。

 腕を少し動かすだけでよかったのに、「あげる」って、一言言えば済む話だったのに。

 悔し涙が溢れ出す。後悔が心臓を突き刺して来る。

 このヘタレ、根性無し、チキン。馬鹿。

 自分が、自分が嫌いになってしょうがない。

 また会いたい、今なら絶対に渡せる。今なら絶対に渡せるんだ。

 どうかあの日をもう一度、そしたら彼に今度こそ、チョコを渡して告白する。

 好きだって、はっきりと言えるんだ。









 ×××









 そうして、私はタイムマシンを開発した。

 研究を一緒に手伝ってくれた人たちには感謝の言葉しか生まれない。だがこのタイムマシンが生まれた理由が、チョコを渡すためだと思うと、少し申し訳ない。

 そしてそのタイムマシンで、私は彼が転校する前のバレンタインの日へとリープした。

 今度こそチョコを渡すためにだ。

 今度こそ愛を伝えるためにだ。

 でも直接会って、「好きでした」なんて言葉を20超えたお姉さんに言われても、多分彼は困るだろう。だから、チョコを渡すだけにすることにした。

 彼については、いろいろ調べてきた。なんと彼は今私と同じ研究者として活動しているらしい。素晴らしい偶然。

 名字が変わっていたから、違う人じゃないかと考えたこともあったけど、彼のお父さんは早死にしてしまっていなかった。おそらく再婚でもしたのだろう。それで名字が変わっていた。のだと思う。

 さて大人になって渡す本命のバレンタインチョコだ。それはもう丁寧に文字も書いた。可愛さアピールのうさぎも忘れずに書いた。

 そう色々と昔のことを思い出しているうちに、学校に到着した。大きな足跡が私より先に残っていて、誰かいるのではないかと考えるが、生徒ではないだろう。教師ならチョコを生徒の下駄箱に入れるはずがない。安全だと踏んだ。

 よし、準備は万全。あとはこのチョコレートを下駄箱の中に入れるだけ……。

 しかし、ここで自分の書いた文字を見て驚愕した。

「……って、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 し、しまった! とんでもないミスをしてしまった!!

 名字、間違えてる!!

 変わった方の名字書いちゃった!!

 ど、どうしよう……これじゃあ伝わらない……!

 思いが込み上がってきた。叫ばずにはいられないような思いがふつふつと喉を通ってくる。

 限界だ。






「『佐々木』にしちゃってたぁぁぁぁぁぁぁ!!!」







 はぁ……しっぱいした。帰ろう……

 そう思い、ガックリとしょぼくれながら歩く私の手を、誰かがつかんだ。

 教師に見られた!? 素早くその方向を向くと、そこには見覚えのある顔の男性が、泣きそうな顔で私を見ていた。

 何故だろう、私も、涙がこみ上げてきた。






 ____________________
 __________






 全てが繋がった。

 あの時、僕に起きていた不幸は、幸福だったんだ。

 僕は、好きな人からチョコをもらっていた。

 僕は、その人に今でも愛されていた。

 何十年もかけて、ようやく全てが繋がった。

 おかしいと思っていたんだ。下駄箱の位置を間違えるということは、クラス単位で間違えるか、学年単位で間違えるかのどちらかだ。

 学年はまずない。となるとクラス単位だけになるが、僕の学年の生徒に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 いもしない人物に、チョコをあげるなんて行為まずしない。

 ずっと、悩んでいたんだ。そしてそれが今解けた。

「……ありがとう」

「さ、佐々木くん!? どうしてここに!?」

 彼女がわたわたと慌て始めた。無理もない、まさか二人ともタイムマシンの研究をしていたなんて想像もつかないだろうしな。

「え、えと、えっと!!」

 ぐるぐると目を回しながら、彼女の手はガタガタと緊張で固まっているようだった。ロボットのような手つきで僕に向けてチョコを差し出した。

 懐かしい、14歳の頃に見たあのチョコレートと全く同じものだった。

 そして彼女は、深く深く深呼吸を重ねて、ゆっくりと、はっきりと。






「ず……ずっと前から……好きでした!!」





 告白を、してくれた。

 そこから僕が抱き寄せるまで、一秒もかからなかったと思う。

「僕もだよ……ありがとう」

 あぁ、涙が出るほどに愛おしい。こんなに嬉しいことがあるのだろうかと思えるほど、心は白く輝いてる気がする。

 ぎゅっと、彼女を抱きしめた。彼女の体温が感じられる。秒針を刻むように、彼女の心拍音が聞こえる。

「……うんっ!」

 彼女もまた、激しく頷いてくれた。

 ようやく、未来は歩き出せる。

 そう彼女と、一緒に。














 ×××










「……チョコレート、あそこに置いたままでよかったの?」

「タイムパラドックスを起こすわけにはいかないしな。それに……」

「それに?」

「男子はみんな、本音はチョコもらって少しは浮かれたいものなのさ」

「それが、違う名字が書かれたチョコレートでも?」

「それがあるから、今の僕がいるんだよ」

「……そうかもね」









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