リア充
Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)
小遣い稼ぎで人にナイフぶっ刺すなよ。
山賊を皆殺しにして、お宝をがっぽり頂くってロマンあるよな。
毒・麻痺耐性スキルが生えてる!
毒なんて恐くないぜ。
あれ? なんかフラグっぽい。
ベッドの上でグダグダしている間に、寝てしまったようだ。たっぷり肉を食べて二度寝したおかげか、傷の具合が良くなっていた。
いつものようにストレッチで体をほぐす。顔を洗い、朝食を食べる。食休みのために、部屋で少しくつろいだ。
傷も順調に回復している。今日は新しい革鎧を買いに行くことにした。俺は宿を出て、武防具屋へと向かった。
以前と同じ革鎧を購入する。店の店主に、革鎧や服の袖に棒手裏剣を入れる加工ができないか尋ねた。
店では対応できないので、直接職人に交渉してくれと言われた。その後、職人への紹介状を書いてもらう。地味に高額でムカついた。
教えられた職人街へと向かう。職人街に着くと、入り口に衛兵がいた。武防具屋で書いてもらった紹介状を見せて中へと入る。
鍛冶の音が聞こえ、皮を加工する薬品の強烈な臭いが漂ってくる。臭いに弱い俺は、軽くえずきながら目的の工房へと向かう。
しばらく歩くと、紹介された工房へたどり着いた。革の加工と革製品の製造をしている工房だ。
「こんにち――」
「誰だてめぇ!」
挨拶を言い終わる前に怒声をかぶせてきたおっさんを見て、あーはずれ引いたわと思った。完全に職人気質のめんどくさいおっさんだ。
俺は革鎧と服に加工をしてほしいと頼むと、かなりの額を要求された。簡単な作業のはずなので確実にぼったくる気だろう。
「嫌なら他所に行きな」
おっさんはそういうと、店の奥に行こうとした。
武防具屋の話によると、職人たちはお互いをライバルとして切磋琢磨しているというよりは、既得権益を守るために団結している状態らしい。
職人の気分を損ねると、悪い噂を流されて町中の職人が相手をしてくれなくなる。もっとひどいと、職人たちに気を使って、店も商品を売ってくれなくなるそうだ。村八分に近い状態だ。
それが分かっているから、おっさんは強気なのだ。しかたなく俺は言い値を払うことにした。
ただ、そのままぼったくられるのはしゃくだったので条件を付けた。
怒らせる危険もあったが、脳筋の俺は怒りをうまく抑制できない。ゴンズよりはマシだがやられっ放しは我慢ができなかった。
「その値段を払う。その代わり作業を見せてもらうぞ。高い金払って手を抜かれたら困るからな」
「なんだとてめぇ、俺が手抜き仕事をするってのかこの野郎!」
「高い金払っているんだ、そのぐらい当然の権利だろ」
「技術を盗まれねぇように、他人に見せねえのが決まりなんだよ馬鹿野郎!」
「高い金を取っておきながら、素人が見て簡単にマネできるような仕事をするつもりだったのか?」
「何だとこの野郎、俺の仕事はそんな安い仕事じゃねぇや! 盗めるもんなら盗んでみやがれ」
職人の親父は簡単に挑発に引っかかった。怒りながら大股で工房内へと歩く親父。その後ろを付いていく。
高い金を払ったんだ、技術を盗ませてもらおう。
毎回同じ服ってわけにもいかないからな。別の服にも、棒手裏剣を入れる場所を加工しないといけない。ぼったくり価格で全部の服を頼むと大変なことになる。
ここで技術を盗んで、自分で加工するほうがはるかに安あがりだ。怪我が治るまでの暇つぶしにもなる。一石二鳥だな。
職人のおっさんは偉そうに言うだけあって、すばやく正確な作業をしていた。俺は全神経を集中させ、気配察知も併用して動作を観察した。
一見、普通に縫い物をしているようにしか見えない。しかし、職人ならではの技術が使用されていた。
頑丈に加工するための特殊な縫い付け方、ゆとりの持たせ方など、非常に勉強になった。
異世界に来て、職人から裁縫技術を盗むことになるとは思わなかった。なかなかいい経験だった。
人に仕事を頼むと、必ず情報が漏れる。この親父も金を掴まされたら、俺が加工依頼をしたとあっさり喋るだろう。
棒手裏剣は暗器であり飛び道具だ。素手の状態から、意表を突く遠距離攻撃ができる。それが最大の利点だ。
存在がバレてしまうと、不意を突けなくなる。それは、あまりよろしくない。自分で加工できれば、それだけ秘密は守られる。
これからは、加工系の技術。ゲームでいうところの、生産系のスキルも磨いていきたいところだ。
加工とチェックが終わると、俺は金を支払い工房をでた。市場で針、布、革を購入して早速、宿の部屋で縫い物を始めた。
退院から3日たち、傷も完治した。
その間、ずっと裁縫技術を磨いていた。革は固く、針を通すのに苦労したが、なれてコツを掴めばスムーズに針が通るようになった。
限定的な作業に限るが、俺の裁縫技術はかなり上がっていた。裁縫のスキルを取得する日も近いかもしれない。
前回の依頼から2週間たった。豪遊していたゴンズたちも、さすがに懐が寂しくなった。そろそろ仕事を始めるようだ。
どの依頼を受けるか、パーティーメンバーで話し合う。
その話し合いは、無駄にピリピリしていた。理由は簡単、ゴンズの機嫌が悪いのだ。2週間ゴンズがずっと囲っていた、お気に入りの娼婦が別の男のところに行っているからだ。
定期的に町を訪れる行商人が、町を出る時に次の予約をしていったそうだ。娼婦といえども客商売、約束を破り信用を失えば、悪い噂が流れて客が付かなくなる。
そいつより金を出すとゴンズはゴネた。娼婦はゴンズをうまくなだめすかして、その客の下へと向かっていった。
ゴンズはそれが気に入らないのか、俺たちパーティーメンバー以外が話しかけたら、それだけで斧をぶち込みそうな空気を出していた。
俺はゴンズを持ち上げて何とか機嫌を直してもらおうとしたが、下半身に直結している怒りはなかなか消えてくれなかった。
正直、めんどくせぇと思ったが気持ちも分かる。時間を掛けておだて続け、ようやくゴンズの機嫌が直りかけていた時だった。
「今日の依頼は楽勝だったな」
「その割にはクレイボア相手に逃げ回ってたじゃない」
「な、冒険者は舐められたら終わりなんだぞ。人の多い場所で、そんなこと言うなよー」
まだ垢抜けてない、田舎から希望いっぱい夢いっぱいで冒険者になりに出てきました。そんな感じのリア充オーラ全開の男女4人組が、きゃっきゃうふふしながらギルド酒場へとやってきた。
隣にいたゴンズのハゲ頭に、ビキリと青筋が浮く。娼婦とはいえ、ずっと一緒だった女が別の男の下へ行く。それだけでも気にいらないのに、目の前にリア充たち。
完全な僻みだが気持ちは分かる。俺もリア充たちに少しイラっとした。どうやらリア充たちは、まぐれでクレイボアを仕留めたらしくキャッキャと騒いでいる。
クレイボアは、国境になっている山の奥地に住む猪型のモンスターだ。肉がうまいので、そこそこの値段で売れる。
そこまで強くなく、肉もいい値段で売れるのだが、生息地が山の奥地なのでなかなか出会えない。
山の奥地には、個体数は少ないものの危険なモンスターも多い。リスクを抱えてわざわざ倒しに行くほどうまみがあるわけでもない。
何らかの理由で山から下りてきたクレイボアが、たまに仕留められるぐらいだ。このリア充たちは、クレイボアに運良く出会えたのだろう。
思わぬ臨時ボーナスに気を良くし、普段は怖くて近付けないであろう冒険者ギルドの酒場で飲み食いしている。
こいつらは正気か? 最近、冒険者になりました。といった、初心者感丸出しで、小金持ちになりましたと酒場で騒いでいる。
襲ってくださいと言っているようなものだ。酒場で飲んでいるほかの冒険者の何人かは、粘つくような視線でリア充たちを見ていた。
男2人は殺され、女2人は散々犯された後、非合法奴隷として売られるのだろう。数日もすれば誰も彼らを覚えていない。
ここでおせっかいを出して彼らに注意しても、結局別のきっかけで殺される。慎重じゃない奴はあっさりと消えていく、適者生存だ。
最初はリア充にムカついていたが、今は違う。『かわいそうに』と同情していた。早ければ今晩にも彼らは殺されるか、死んだほうがマシだと思える目に遭うだろう。
キラキラと夢を語る若人たち。ロック・クリフの冒険者たちは、その輝きを許さない。光り輝く宝石は強欲な者を引き付ける。
死に行く者のことは忘れよう。せっかく機嫌が直りかけたのに、へそを曲げてしまったゴンズのご機嫌取りをしなくては。
そう思ったが、すでに遅かったようだ。
「ピーピーうるせぇぞクソガキ!」
ゴンズの怒声が酒場に響く。がやがやと騒がしかった酒場が、水を打ったように静まった。
「酒場で騒いで何がわるいんだよ!」
リア充たちのリーダーらしき少年が、声を震わせながら言い返す。その声には明らかに怯えが見えた。
馬鹿が、やりやがった! さっき、冒険者は舐められたら終わりだと言っていた。それは事実だが、相手を見ろ、ゴンズだぞ。
ゴンズは、ハゲ頭に浮かぶ青筋をビキリと増やし、無言で斧に手を伸ばす。俺はアルの方を見る。珍しくアルのポーカーフェイスが崩れ、首を横に振った。
リア充たちをこの場で殺すとまずいのかもしれない。どうにかして、この場を収めなければいけない。
何か手はないか、高速で頭を働かせていると……。
「ふん、言い返さないってことは僕にびびっているのか。稼いだ僕たちをひがむのは勝手だが、相手を選ぶことだな」
うわああああ、このクソガキ! 火に油注ぎやがった。ゴンズがキレすぎて無表情になってんじゃねぇか!
キモンは相変わらずの無表情、アルは目で俺に訴えかけてくる。あれ? 俺が何とかする流れなの? 俺は涙目になりながら、クソガキへと向かった。