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野人転生  作者: 野人
欲望の都市
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元気いっぱいだねぇ

コミック十巻、発売中です!

あとがき下のバナーをクリックして頂くと、販売リンクに飛べます。

よろしくお願いいたします。

 前世と折り合いを付けることに成功した俺は心機一転、今まで以上精力的に動いた。


 組織の下っ端が片付けるような仕事も、組織のお偉いさんにカテゴリーされる俺が出張っている。


 今から俺がやるお仕事は、ヒキニートで家庭内暴力を振るうダメ人間に極みと『お話』をするお仕事だ。


 裏ギルドがなんでそんなことをやってんだ? そう思うやつもいるかもしれない。というか、俺がそうだった。


 俺が裏ギルドで任されたお仕事といえば、殺人か拷問。もしくは、拷問してからの殺人である。


 そんなヤベェ組織が、なんでご家庭のお悩み相談みたいなことしてんだよ。温度差ありすぎて風邪引くわ! 


 そんな風に、誰ともなしに突っ込んでしまうほど意味不明だった。

 


 地域のお悩み解決というのは、エムデンが行った組織改革の一環らしい。


 今までの組織といえば、暴力を振るって『奪う』ことが主目的であった。


 しかし、一方的に奪う関係はいつか破綻する。


 エムデンは裏の人間ではあったが、その性質は商人に近い。


 金を受け取るなら、何か対価を支払うことの重要性をしっかりと理解していた。


 エムデンは店から『みかじめ料』を取る代わりに、しっかり組織の力を使って店を守った。


 当たり前のように見えるかもしれないが、実在の『みかじめ料』はボディーガード料やバックに付いてもらうために支払うコストでは『ない』ことが多い。


 日本でも『トラブルが起きたら警察を呼ぶので大丈夫です』そう言ってヤクザのみかじめ料を断ると、断られたヤクザが客として店にやってくる。


 そして、逮捕されないギリギリの嫌がらせを繰り返すのだ。


 ヤクザがたむろする店に客など寄り付かない。


 店側は泣く泣く『みかじめ料』を払うことになる。


 つまり、嫌がらせをされたくなかったら金をよこせ。そういった脅迫の一種なのだ。


 ヤクザへの規制が厳しくなると、みかじめ料は店に納入するおしぼりや観葉植物に形を変えて商売というテイで金を払わされ続けることになる。


 そうやって店側から一方的に搾取するのが、いわゆる『みかじめ料』と呼ばれる金なのだ。



 エムデンはそういった旧来のやり方を嫌った。


 そして、料金の対価として実際に店を守ったのだ。


 それだけなら義侠心に溢れた侠客といった感じで、エムデンのイメージが良くなって終わりだろう。


 エムデンが非凡なのは、そこからビジネスにつなげたことである。


 店で暴れて備品を壊したり、料金の支払いを拒否するなどの厄介な客がいたとする。


 そういった迷惑客を衛兵に引き渡しても、店の損害は補填されない。


 しょっぴかれた迷惑客が罰金を支払ったとしても、それは市の収入になり店側にはビタ一文支払われない。


 ここで、エムデンの出番である。


 エムデンの本業は金貸しなのだ。


 店側の損失をエムデンからの借金で賠償する形を取らせる。


 エムデンは店側から手数料をもらい、金貸しとしての顧客も増える。


 そして、よっぽどの馬鹿じゃない限り裏ギルドの借金を踏み倒したりはしない。


 店はある程度損失が補填され、エムデンは手数料と新しい顧客を手にする。まさにWin-Winの関係なのだ。


 一方的に奪うことを止めると、市民の反応が変わってくる。


 自分たちの生活を守ってくれない衛兵より、裏ギルドの方がよほど頼りになるのではないか? と。


 エムデンは市井の人々への無意味な暴力を禁止して、取引を誠実に行った。


 裏ギルドの信用は高まり、大小さまざまな悩みがギルドへと持ち込まれることになる。


 家庭内暴力など、民事不介入として衛兵が無視する案件。そうしたトラブルの解決を依頼されたりするのだ。


 俺が対応した件も、そうした依頼のひとつである。


 大した金にはならないが、民衆の人気と信頼につながる。


 また、市井の人々と直接関わることで彼らの生活や動向がよく分かるようになるのだ。そのため、何か異変があると気付きやすくなるといったメリットも存在する。


 エムデンは裏ギルドという『民衆の異物』をうまくコントロールして、民衆に受け入れさせてしまった。


 民衆の人気というものは馬鹿にならない。


 前世でも、犯罪組織の人間が民衆に施しをして人気取りを行うケースが非常に多かった。


 組織に心酔した彼らは組織の目や耳となり、あらゆる情報を組織にもたらした。


 また、組織を取り締まる政府の人間からの盾となり組織の人間が逃げる時間を稼いだりもした。


 組織はアメとムチをうまく使い分け、民衆を自らの『力』へと変えていったのだ。


 エムデンが非凡なのは、そういった現代の手法を中世レベルの文明でしかない小国家群で行っていることだ。


 先見の明があり、それを形にする実行力もある。


 組織のことを知れば知るほど、エムデンの怪物っぷりが見えてくる。


 俺には怪物という称号があるが、俺よりエムデンの方がその称号によっぽどふさわしいと思う。


 エムデンレベルは無理でも、身近な手本であるドミニクに少しでも近付けるよう、今日も俺はお仕事を一生懸命こなすのだ。




 俺の前には、震えながら正座をする男がいる。


「おう、にいちゃん。元気がありあまってんだって?」


 俺はそういうと、顔に痣を作った男の母親を見る。


 母親は悲しそうに目を伏せた。


 その母親に隠れるように、幼い少女がひとり震えている。


 おそらく、ヒキニートの妹だ。少女の体にも痣があり、このヒキニートの家庭内暴力にさらされているのだろう。


 母親はこの少女を守るため、俺たちを頼ったのだ。


「こんなにちいせぇガキを殴るほど元気がありあまってんだ、ちょっと俺らの仕事を手伝ってくれや」


 俺がそう凄むと、男は震えながらもクビを横に振る。


 俺は男の目を覗き込むと、頭の中でこの男をぐちゃぐちゃにしながら睨みつけた。


 いつでもてめぇを肉塊にできるぞ、そう意志を込め睨むのだ。


「腹決めろよ。一所懸命働いて、迷惑かけた家族に少しでも償いをするんだな」


 俺は顎をくいっとやると、手下が両脇をガッチリ掴み男を立たせる。


「お、おい! 止めろ! おいババア! 見てんじゃねぇ! 止めろ! ぶっ殺すぞ! 止めろ、うがああああ」


 ヒキニートが暴れ出す。


「元気いっぱいだねぇ、これならキツイお仕事にも耐えられそうだ」


 俺は暴れるヒキニートの肩を強く掴むとギシリと骨が鳴った。


「痛い、痛い、止めてくれ!」

「にいちゃん、少しおとなしくしよっか? じゃないと、お仕事できない体になっちゃうよ?」


 俺はそう言ってヒキニートを睨む。ヒキニートは観念したのか、だらんと力を抜き男たちに引きずられていく。


「奥さん、息子さんは預かった。心を入れ替えるならそれで良し。そうじゃないなら……まぁアレだわな」


 俺がそう告げると、母親は無言で頭を下げた。


 母親は、俺たちとヒキニートが見えなくなるまで頭を下げ続けていた。


 この男が真人間に変われるかはわからない。


 おそらく難しい。このクズは多分『いなくなる』。


 それでも、こいつが更生してあの家族に良い未来が訪れることを……俺は祈らずにいられない。

カクヨム様で先行公開。

こちらも、よろしくお願いいたします。


https://www.kadokawa.co.jp/product/322312000758/


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