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野人転生  作者: 野人
欲望の都市
173/179

すぐ現地に順応できるサイコ野郎

コミック十巻、発売中です!

あとがき下のバナーをクリックして頂くと、販売リンクに飛べます。

よろしくお願いいたします。

 自分をアップグレードすると言っても、急になにかできる訳じゃない。アップグレードを意識しながら、少しずつ出来ることを続けていくしかない。


 一足飛びに物事を進められるのは『特別』な人間だけ。凡人の俺は、くたばらないように頑張るだけだ。



 まずは服装からだな。


 インナーこそスパイダーシルクの高級品だが、外から見える服は極めて普通のグレードだ。


 動きやすさを重視した、平民にしてはマシな部類の品質。


 冒険者としては小綺麗な方だとは思うが、裏ギルドで事務所を預かる人間としてはあまりにも安っぽい。


 正直、外見を取り繕ってどうにかするのは気が進まない。


 実力主義の気風が強い裏ギルドでは、外見のハッタリより行動がモノを言う。


 それに、荒事が常に付きまとう仕事だ。揉め事で服が駄目になるリスクも高い。


 そんな物に金を掛けるなら、栄養のありそうな食事や体のメンテナンスに使いたいのが正直なところだ。


 しかし、人間は外見が八割なんて言葉もある。


  人の内面は目に見えない。


 ガキの頃から付き合いのある親友でも、意外な一面を見て驚くことは別に珍しいことじゃない。


 数十年付き合った人間でも、知らないことがある。相手の人となりがわかっていてもそれだ。


 付き合いの浅い人間なんかだと、外見ぐらいしか判断材料がないから仕方のないことかもしれない。


 バイトの面接にダボダボのジャージで行くのと、スーツを着て行くのでは印象が違うのは当然だ。


 まぁ、俺はコンビニのバイトの面接にスーツを着て行ったら「そんな格好して面接に来た人は初めてだよ。真面目なんだねぇ」と若干引きぎみで言われた事がある。


 おっと、思考がそれちまったな。


 まぁ、あれだ。マフィア映画の主人公なんかはバリッとした伊達な格好をしている。


 下の人間がひと目見て感心したり、憧れたりするハッタリの効く格好ってのは大事ってことなんだろう。


 俺は外見的に『憧れ』にはなれないだろうが、付き合うと利益があると相手に思わせる程度の服装は着るべきだ。


 今まで以上に気前よく金もバラ撒く必要がある。


 いつの時代も、こういう業界で下の人間がついていく人間ってのは『喧嘩が強くて気前のいいヤツ』だからな。



 ドミニクにいい服屋を紹介してもらうか、それともベンにいい職人を紹介してもらうべきだろうか。


 まぁ、ベンが俺との付き合いを続けてくれたらの話だが……。




 ベンやエマさんに今の俺がどう思われているのか……考えると憂鬱だが、服装のことは後回しだ。今は、イグナーツの代わりを考えなきゃいけない。


 一応候補は考えている。


 ただ、イグナーツと比べると少し頼りない。


 イグナーツの代わりとして考えているのは、デニスという男。


 年はおそらく三十代前半。昔はメガド帝国で冒険者をやっていたそうだ。


 順調に冒険者ランクを上げ、一人前と言われる五級に昇格。順風満帆だったが、お貴族様と何やらトラブったらしい。


 それがケチのつきはじめ。そこから何をやってもうまく行かず、一緒に冒険していたパーティメンバーも散り散りになってしまう。


 他に信頼できるパーティも見つからず、稼ぐためにやばいことにも手を染めて行く。


 色々な都市でお尋ね者になり、流れ流れて気がつけば小国家群まで堕ちてきたそうだ。


 まぁ、本人がそう言っているだけで本当なのかは知らんがな。多少美化はしているだろうが、まるっきり噓って訳でもないと思う。


 このデニスって男は、とにかく覇気がない。


 いろいろな経験をしているからか、イグナーツと違って辛抱強い。組織にも、俺にも表面上は従順だ。


 そして、ある程度のことは何でも器用にこなす。使い勝手のいい人材といえる。


 しかし、だ。


 小国家群に都落ちする過程で何か『心が折れる』経験をしたのか、とにかく覇気がない。


 言われたことを淡々とこなす。


 そして、言われていないことは可能な限りやろうとしない。


 裏ギルドに所属する人間が持つ、ギラギラとした向上心がない珍しいタイプ。


 なんというか、前世でよく見た生きるために仕方なく仕事をしているサラリーマンのような印象を感じる男なのだ。




 スリをやっているガキたちの集団をデニスに任せれば、大きなトラブルでもない限り通常に運営はされる。


 ただ、スリ組織の発展やガキの待遇が改善される訳じゃない。


 俺としては別にそれで構わないが、冒険者のヤジンくんは甘っちょろいことにガキの暮らしが少しでもマシになるように願っている。


 スラムでのし上がったイグナーツが、うまいことスリ組織を運用してガキたちの状況が改善されるのがベストだと思っていたのだろう。


 しかし、他でもない自身の能力不足でその道はついえた。


 俺がガキたちに掛かりっきりならなんとかなるかもしれない。


 だが、ガキたちに過剰に関わると俺の『弱点』として見られてしまう可能性が高い。


 そうなると、余計に危険だ。


 他人に管理を任せて、ある程度距離を取る方がガキたちも安全に過ごせるはず。


 色々考えたが、結局無難な選択が一番だと結論づけた。


 むしろ、当たり障りのないデニスの方が目立たなくて安全かもしれない。


 そもそも、他人の心配をしているほど俺に余裕があるとは思えない。


 考えなきゃいけないこと、やらなければいけないことはいくらでもある。


 いつまでも、ガキのことにリソースを割いてはいられない。



 カールのいる部屋に戻った俺は、なんとなくカールにイグナーツの代わりは誰がいいか聞いてみた。すると、返答はデニスだった。


 カールは、最初からイグナーツよりデニスに向いた案件だと気付いていたフシがある。


 最初からカールに相談すればよかったのかもしれない。もっと、うまく人を使うことを覚えないとな……。


 人間、死ぬまで勉強だと言うが……まさか異世界に来て管理職の勉強をするハメになるとは。


 人生ってのは複雑怪奇。


 この経験をポジティブに楽しむぐらいの鬼メンタルがないと、異世界では生きていけないかもしれない。


 でも、前世の感覚からしたらそんなヤツ真正のサイコ野郎なんだよな。


 そういや、前世でラノベの主人公がサイコすぎるってネットで一時期話題になっていた。


 現地の倫理観にすぐ馴染んだり、逆に現地の倫理観を捻じ曲げて地球の倫理観を押し付けたり。


 登場人物としてあまりに人間味がない。サイコ過ぎる。そんなふうに突っ込まれていたけど、逆なんじゃないだろうか。


 神が無作為のフリをして、現地にすぐ順応できるサイコ野郎を選んで転生させていたとしたら?


 そう考えると、辻褄が合うような気がする。


 その説でいくと、俺もすぐ現地に順応できるサイコ野郎ってことになる。


 何か嫌なことに気付いたが、気にしないようにしよう。


 あのクソ神に、また変な称号でもつけられたらたまらないからな……。

カクヨム様で先行公開。

こちらも、よろしくお願いいたします。


https://www.kadokawa.co.jp/product/322312000758/


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コミック十巻、本日発売です。
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― 新着の感想 ―
 10巻、ゲット!  薬師のコラムためになります~
待ってました! 更新が続くといいなぁ 必要に迫られて順応している感じが良かった…けど、失敗して逃亡ルートが見える…
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