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野人転生  作者: 野人
欲望の都市
170/179

イグナーツは訝しんだ

コミック九巻、発売中です!

あとがき下のバナーをクリックして頂くと、販売リンクに飛べます。

よろしくお願いいたします。

 ドミニクに任された事務所に所属している構成員は十四名。事務作業や雑務を行う人員が八名。そこに、俺とカールを足して総勢二十四名だ。


 ここら一帯を取り仕切る反社組織の事務所とは思えないほどこじんまりとしている。


 ただし、これは正式採用されている人数に限った話だ。


 組織には準構成員とも言える正式に所属していない下部組織のチンピラや、事務所に所属している構成員の舎弟などが存在している。


 そういった人員も含めると、おそらく二百人は下らない。


 組織に関わりのある人間にまで範囲を広げれば、この事務所の管轄だけで数百人には登る。


 最大勢力の反社組織としては少ないと見るか、小さなエリアにそれだけ反社と関わり合いがある人物が存在していることを『強い影響力』と見るかは人によるだろう。


 ひとつ言えることは、この事務所に正式に所属している下っ端の構成員ですら、傘下に何人かを抱えている『小規模集団のボス』であるということだ。





 スラムの子どもたちを任せられる存在。


 すべてを暴力で解決しようとする脳筋を除くと、組織の運用を任せられる構成員は限られてくる。


 この事務所を任されてからまだ一か月ほどしか経っていないが、所属している構成員の背後関係や性格はなんとなく掴んでいる。


 今回、子どもたちの組織運用を任せるつもりなのはイグナーツという男だ。


 生存率が極めて低いスラムを孤児としてを生き抜き、スラムの子どもたちが思い描くシンデレラ・ストーリーを叶えた男。


 叩き上げで大規模組織の正式な構成員にまで上り詰めた期待のホープ。それがイグナーツだ。


 イグナーツはスラムで顔が広く、子供がスラムで生き抜く大変さも経験している。


 スラムには彼の目や耳になる手下が多く存在しているし、子どもたちに何かあったときも素早く対応できるはずだ。


 自分の舎弟たちを『組織的に運用』している点も評価が高い。


 このまま成長を続ければ、俺の後を継ぐ男になる可能性が最も高い優秀な人材だ。



 俺はリビングの奥にある、カールさんがいつも書類仕事をしている部屋を借りてイグナーツと面談することにした。


 この部屋はもともと事務所のトップが使う部屋だったが、ドミニクは忙しくいろいろな場所を飛び回っている。


 そのため、部屋の主が不在の状況が続いていた。


 構成員が集まるリビングの側であり、壁や扉が分厚くて中の会話が漏れにくい。


 これだけ条件のいい部屋をそのままにしておくのはもったいないため、今は事務方のトップであるカールが一般の事務員に見せられない書類を扱ったり、地域の権力者と密談をするための部屋として使用されている。


 ドミニクから俺に事務所のトップが変わったため、俺が自分の部屋として使用してもよかったのだが……。


 こんな部屋でひとり偉そうにふんぞり返っているのは趣味じゃない。


 それに、構成員の人となりを知るためリビングで彼らと積極的にコミュニケーションを取る必要があった。


 模様替えも大変だし、遠慮するカールを説得してそのまま使ってもらっている。


 イグナーツとの話をリビングでやっても良かったのだが、こういう話は大っぴらにするとトラブルに繋がることがある。


 そのため、防音の効いたこの部屋をカールから間借りすることにした。


 カールは部屋の隅に移動させた机で書類の処理を続けている。


 一時退室してもらうことも考えたが、どうせ後でカールにも同じ説明はしなくてはならい。


それに、代替わりのせいで忙しくなったカールを部屋から追い出すのは気が引けた。


 カールは秘密を漏らす人間ではないし、このままでも問題はないだろう。




 そんなとりとめもないことを考えていると、ドアがノックされた。


 俺は分厚い扉の向こう側へ届くよう、大きな声を出す。


「おう、入れ!」

「失礼いたします」

 

 スラムの孤児だったと思えないほど、洗練された所作でイグナーツが部屋へと入ってくる。


 イグナーツには華があった。


 容姿が整っているのはもちろんだが、所作のひとつひとつに人を引き付ける魅力がある。


 タイプは違うが、どこかエムデンに通じるところがあった。


 まぁ、エムデンはレベルカンストの魔王様。イグナーツは、ようやく最初の村を離れたばかりの低レベル。


 共通する部分があるとは言え、実力には大きな差はあるのだが……。


 それでも、イグナーツは将来大物になりそうな気配があった。


「ヤジンの兄貴、今日はなんの話でしょう?」


 イグナーツが俺にそうたずねる。


「おう、ちょっと頼みたい仕事があってな」

「頼みたい仕事……ですか?」


 予想外の言葉だったのだろう。イグナーツは訝しげに俺を見る。


 気持ちは分かる。俺は今まで受動的にしか仕事をこなしていない。


 エムデンやドミニクなどの上からの指示。もしくは、管理している縄張り(シマ)でのトラブル解消。俺は反社としての仕事を積極的に行っていないのが現状だ。


 調子に乗っている商店にユスリを掛けたり、適当なぼったくり店を経営するといったわかりやすいシノギは行っていない。


 その俺から、仕事の話である。


 アンタ、俺に振る仕事なんてないだろ? そんなふうに思われても仕方がない。


 イグナーツ目線で考えると、俺って自分で全然稼いでいない経済力ゼロの上司だな。


 何か、組織の力を借りて商売でもした方がいいのだろうか? 後でカールに相談しようかな……。


 おっと思考がそれている。


 俺は頭の中を整理すると、イグナーツにスリ集団の説明を始めた。

カクヨム様で先行公開。

こちらも、よろしくお願いいたします。


https://www.kadokawa.co.jp/product/322312000758/


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― 新着の感想 ―
>叩き上げで大規模組織の正式な構成員にまで上り詰めた期待のホープ。それがイグナーツだ。 こんな存在ならスラムのガキ共も言う事を聞きそうですね。 彼がこれまで人を使う立場に立った事があるかは解りません…
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