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野人転生  作者: 野人
欲望の都市
131/179

トゥロン33

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


このアルフォンスさんは、衛兵の中では珍しく話せる・・・人だ。

M字ハゲが進行している部分もポイントが高い。

自分を卑下するのは許せない。パピーはそう言ってくれた。

強くなる。パピーのために。もう迷いはなかった。

 浅い睡眠から目を覚ますと湧き水で顔を洗い、しっかりストレッチをした。体がほぐれたら、野営の後片付けを済ませる。


 森の浅い部分ということもあり、野営中にモンスターの襲撃はなかった。


 適当な獲物でも仕留めて朝食にしようと思ったが、灰色狼グレイ・ウルフと戦ったせいでラービなどの小型モンスターや、ネズミなどの小動物は周囲にいないようだ。


 戦う力が弱い分、彼らは危険に敏感だ。灰色狼グレイ・ウルフの体臭、排泄物や血の匂いを感じ取り逃げ出したのだろう。



 朝食を現地調達できなかったのは残念だが、町に帰って屋台で少し遅めの朝食を買って帰るのも悪くない。


 慣らしついでにパピーと少しだけ森を走り回った。パピーのストレスも随分と解消されたように見える。


 俺も、パピーとイチャつきながら運動をしたことでリフレッシュできた。


 いつもの定位置フードのなかにパピーを入れると、足早に町へと向かった。商人の馬車や、その護衛を刺激しないよう街道を少し外れた獣道や森を移動する。


 ついでに、依頼品のナール草を探す。


 街道からそれほど離れていない森だったが、運良く群生地を発見。欲張らず、依頼の数だけ丁寧に採取する。


 群生地の場所を頭に叩き込むと、再び町へと向かって移動した。


 トゥロンの町が近くなり、森が途切れた。ここからは街道を歩くしか無い。トゥロンへと続く街道は、馬車がひっきりなしに通っている。


 食料品などを持ち込み、帝国の品を積み込んで帰るのだろう。


 人の往来が多いため、町の近くでは盗賊など存在しない。それでも、高価な品を積んでいる商人が多いため、護衛たちはピリピリしている。


 治安の悪いこの世界で一人行動する人間など、なにかやらかして他所から逃げてきた冒険者ぐらいのものだ。


 俺の特徴的な外見もあり、いつも過剰なほど警戒される。


 なるべく護衛たちを刺激しないよう。彼らから距離を空けゆっくり歩く。森を移動するより、街道を移動する方が気を使う。


 まったく、皮肉な話だ。面倒臭いが、変に誤解されてぶった斬られるよりはいい。もくてきちが近くにあるもどかしさを感じながら、俺は街道をゆっくりと歩いた。


 町の入り口は相変わらず順番待ちの列が続いていた。


 トゥロンの町は、今まで見たどの町よりも効率的なシステムを採用している。それでも、訪れる人の数が半端ない。そのため、どうしても順番待ちが長くなる。


 順番待ちの人々をすり抜け、冒険者用の入り口へと向かう。顔見知りの衛兵に、帰ってこなかったことを心配された。


 俺自身が心配というより、俺が死ぬと差し入れが無くなって困る。そんな感じだったが、今はそれでいい。


 俺がいなくなれば損をする。そう思ってくれれば上々。個人的に親しみを持ってくれ、俺がいなくなると寂しい、悲しいと思ってくれれば最高だ。


 こうやって、少しずつ関係を強化していけばいい。



 屋台で串焼きなど、テイクアウトしやすい商品をいくつか購入。冷めないうちにと、足早に宿へと向かった。


 宿に到着すると、予定外の外泊をコンシェルジュさんが心配してくれた。礼をいい、社交辞令をいくつかかわす。


 その後、本題とばかりに「伝言を預かっております」そう切り出した。


 今日中ならばいつでもいい。条件を詰めたいので薬師ギルドに来てくれ。担当者の名前とともに、そう告げられた。


 今日中ならば、慌てることはない。


 俺は、ルームサービスにパンとスープを頼む。普通の市場やパン屋に売っているパンは無発酵のパンが多い。


 インドのチャパティみたいな薄焼きパン。雑穀混じりのライ麦から作られた、酸味のある黒パン。小麦の全粒粉を使った堅焼きパン。などなど、日本の柔らかいパンに慣れた俺には辛いラインナップが多い。


 この宿のパンは、おそらく天然酵母で発酵させたパン種を使っている。


 日本でよく食べていたイースト菌を使い、二次発酵までさせたふわふわのパンほどではない。それでも、他のパンに比べると十分に柔らかく口当たりも良い。


 スープもまた、屋台のスープでは出せない深みと旨味がある。


 うまい分、文字通り桁違いの料金を取られる。ただ、一度慣れてしまうとグレードを落とすのは難しい。


 幸い、金には困っていない。パピーも味覚が鋭敏なのか、味の判別はしっかりできている。屋台のスープに比べて、宿のスープは嬉しそうに飲んでいる。


 屋台のメニューをおかずに、高級パンとスープを食う。アンバランスな食事だが、屋台のジャンクな旨味もまた格別。


 たまにハズレを引くが、それもご愛嬌。パピーと二人で、微妙だね……。と盛り上がれるので、それはそれでありだと思う。


 さて、楽しい時間はここまでだ。


 ルームサービスを頼み、お湯を運んでもらう。お湯を浸した布で体を拭くと、綺麗な下着に着替えた。


 部屋に備え付けてある銅板鏡を見ながら、カミソリで髭を整える。


 今回パピーはお留守番だ。パピーのトイレ用に桶を用意して、食料をいくつか置いて出かける。フロントに、『今日は部屋の掃除を控えてくれ』と伝え外に出た。



 薬師ギルドに向かいながら、冷静になれと自分に言い聞かせる。


 パピーのおかげで勇気をもらった。


 だけど、急に強くなった訳じゃない。俺は相変わらず弱者。薬師ギルドとの交渉も細心の注意を払わなければいけない。



 パピーに指摘されて気付いた。自分がいつの間にか卑屈になっていたことに。自分では冷静に交渉しているつもりで、気が付けば相手の顔色をうかがっていた。


 人間は上から押さえつけられると、知らず知らずのうちに卑屈になる。


 他人に馬鹿にされ、強者に押さえつけられ、自分の無力さを思い知らされる。すると、いつの間にか自信を失ってしまう。


 そうやって失った自信を、パピーは与えてくれた。


 強者に対して強く出られないのは同じだ。でも、相手の顔色を窺って接すると骨までしゃぶられる。


 頭を下げながら、相手の見えないところでは舌を出して笑っている。商人のような『したたかさ』が必要だ。


 俺はもう大丈夫。


 他人がどう思っても関係ない。パピーが俺をすごいと言ってくれた。それだけで十分だ。やけっぱちで考えていた前回とは違う。


 俺のケツ毛をムシっても、そのケツ毛は綺麗じゃねぇぞ。


 俺の骨、しゃぶれるもんならしゃぶってみんかい! 俺は薬師ギルドを睨みつけると、前へと足を進めた。

本日、コミック版野人転生が更新されました。そちらも、お読み頂けると幸いです。


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コミック十巻、本日発売です。
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― 新着の感想 ―
[良い点] 漫画からきました。面白いです。 [一言] 立派なジャングルの王者になっていただきたい
[良い点] 洗練されたストーリーとブレない主人公が活躍するところが最高! [気になる点] 更新止まったのが… [一言] 更新楽しみにしてます。
[一言]  表紙の”野人”と、帯のコピーで( ´∀`)、 コミックスを購入してから、改めてWebで探して、 『物語』に近寄らせていただいております。  事実と出来事の連なりで進行する小説版と違い、…
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