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野人転生  作者: 野人
欲望の都市
122/179

トゥロン24

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


兄貴にも聞いて欲しかったってことね。

影響力の高い女性に不埒な妄想をするのは止めよう。

できるだけ要望を伝えておくことにした。

これがモテない男のメンタルコントロールだ!

 目を覚ますと、いつものようにストレッチをする。部屋から出ると、ベンとエマさんは既に作業をしていた。


 井戸を借り、顔を洗う。朝食をごちそうになり、昨日の続きを話した。


 昨日は色々と話が脱線してしまった。二人がインスピレーションを刺激され、興奮状態だったからだ。


 ベンは、昨日は興奮しすぎた。そう言って頭を掻いた。


 エマさんは、兄さんは仕方がないと苦笑いしていた。エマさんも同じだったが、そのことを指摘するほど俺はアホじゃない。雄弁は銀、沈黙は金である。


 落ち着いた彼らは、昨日と比べると事務的とも思える冷静さで細部を確認してきた。俺はその質問に丁寧に答えていく。



 防具は染料を使い、ある程度色は変えられるらしい。だけど、極端に元の色と違う色にはできないそうだ。俺は森での活動が多い。できれば緑系にしたかった。


 少し迷ったが、元の色に近い配色から選び、赤黒系にしてもらう。


 なぜ、赤黒なのか? 真っ暗だと、黒一色は逆に目立つからだ。詳しいことは分からないが、赤外線の関係だった気がする。


 そのことをエマさんに告げ、闇に紛れやすい配色をお願いした。


 スニーキングスーツに、闇に溶け込む配色。完全に暗殺者仕様だ。流石に怪しいと思われるか? そう思ったが、特に何も言われなかった。


 後は、脇腹の部分に棒手裏剣を2本ずつ。肋の隙間を埋めるように配置して貰う。立体加工に紛れて、暗器だとは気付かれにくいはずだ。


 他にも、体正面の強化装甲だけではなく、膝も装甲を厚くすることにした。膝パットのような物を、なるべく動きを阻害しない形でつけることになった。


 肩と肘は迷ったが、なるべく今の感覚で動かしたかったので強化はしなかった。ナイフを使っての受け流しや、空手の受けの感覚が狂うのを恐れたためだ。


 ナイフの受け流しは非常に繊細な操作が求められる。失敗したときのリスクも大きい。なるべく、感覚を変えたくなかった。


 グローブも、手の甲と拳の部分を切り抜き、海牛セレニアの革を貼り付けて強化することにした。


 指の後ろ側の部分まで海牛セレニアの革にしようとすると、接着面積が増え強度に不安が出るそうだ。


 追加で海牛セレニアの革を貼り付けるのではなく、切り取って付け替えるのは、グローブの厚さを極端に変えないためだ。


 手の重量バランスがおかしくなると、感覚が狂ってしまう。



 こちらの世界の人間は、スキルで体を動かすことが多い。そのため、重量バランスをここまで気にする人間はいない。スキルが最適な動きを取ってくれるからだ。


 野人流小刀格闘術は、(笑)がついているせいか、スキルとして処理してくれない動きが多い。


 今は体を動かしながら、この動きもスキルとして認識してくれ。そう思い動くことで、徐々にスキルを拡張している状態だ。なんとなく、AIに学習させているような感覚に近い気がする。


 スキルなしで体を動かすことが多い俺は、自分の感覚をとても大事にしている。


 俺の特殊なオーダーを聞いて、二人は不思議に思っていた。詳しく話すと、すぐに面白いという表情に変化する。


 ベンは子供のように目を輝かせ、色々とアイディアを出してエマさんと話し込んでいた。


 二人が若くして町一番の職人へと成長できたのは、この柔軟な思考と好奇心も影響していると思う。俺は、二人の若き天才?に出会えた幸運を噛み締めていた。



 防具の全体像が固まり、後は調整を繰り返しながら仕上げるだけになった。


 初めての試みが多い作品のため、こまめに工房に来て確認作業をする必要があるそうだ。より良い防具を完成させるためだ。そのぐらいの労力は惜しまない。


 防具の話は終わったが、細々とした物を揃える必要がある。海牛セレニアの革は、内側の汗などはこもらないようになっている。


 だけど、それにも限界がある。


 金属の鎧を着るときに使用する鎧下のようなゴツい服は必要ないが、汗を吸ってくれるシャツが必要になる。


 そこでエマさんにおすすめされたのが、スパイダーシルクを使ったシャツだ。名前がめっちゃラノベっぽい。ちょっとテンションが上った。


 肌触りが良く、吸水性が高く、防刃性に優れている。下着にするには理想の素材だと言われた。


 ダンジョンで採取が可能なため、素材の数自体は出回っている。


 ただ、小国家群だとメガド帝国からの輸入になってしまう。加工出来る職人も少ないため、高価になってしまうそうだ。


 シャツとパンツを2枚ずつ注文した。本当はもっと欲しいが、あまり多いと荷物になってしまう。


 後は頭の防具だ。強度を求めるなら金属製だが、俺のスタイルは回避重視だ。


 気配察知と五感強化を融合させたことで、空間把握とも言える能力が使える俺には、重い防具で攻撃を耐える。というスタイルが合わない。


 固く強化した革の頬面と革の帽子。エマさんのようなペストマスク。色々試したが、最終的にはスパイダーシルクでバラクラバを作ってもらうことにした。


 バラクラバは、目出し帽と呼ばれている防寒具で、銀行強盗が装備しているのでおなじみのマスクだ。


 鼻と口を出すタイプのやつではなく、目元だけ出ているタイプのやつにした。サバゲーなどでよく見る、特殊部隊っぽいやつだ。


 シャツより生地を厚めにして、ベン特製の金属糸を少量編み込むことになった。普通のやじりぐらいは弾き返してくれるそうだ。


 スパイダーシルクは、染料で染めやすい。バラクラバは防具の色と合わせてくれるみたいだ。


 これで防具が揃った。いったん頭の中で、すべての装備品を装備した状態を想像してみた。黒いバラクラバとバキバキボデイーのスニーキングスーツ。


 完全にメタル◯アのモブ兵士だな。いいね、中二心がうずくぜ。



 すべての注文を終えた後、エマさんは少し気まずそうに言った。


「代金は金貨50枚って話だったけど、流石にこの注文は50枚じゃ受けられない。悪いね。極端に安くすると、組合ギルドが色々と言ってくるからさ……」


 個人的には、タダでもいいぐらいなんだけどね。エマさんはそう言いながら頬を掻いた。


「いくらになりますか?」

「そうだね、下着や顔の防具なんかの細々とした物を全部含めて金貨100枚でどうだい? 金貨50枚は手付ってことで、残りは後でいいよ」


 一気に値段が倍になった。その金額は逆さに振っても出てこない。


 しかし、破格の条件であることは確かだ。


 下着や顔の防具などの小物だけで金貨20枚はするはず。複雑な加工の代金が金貨30枚となると、かなりお得になる。


 手付金が総額の半分なのも、日本で見ると高く思える。普通は1割から2割が相場だからだ。


 だけど、今回購入するのは俺専用の装備。転売できる車や家と違い、現金化できない。俺が残りの代金を払わず飛んだ場合、残りの半金は損をすることになる。


 オーダーメイドで注文するときは、全額先払いが基本だ。それを後払いにしてくれるだけでも、かなりの譲歩だと言える。


 貴族とも取引があるエマさんたちの工房。その収益からしたら、金貨50枚など誤差の範囲だと思う。


 エマさんの言った通り、組合ギルドからのクレームがなければ、タダにしてもいいぐらいなのだろう。


 エマさんにしたら大した金額ではなくても、俺には大金だ。


 ファモル草とギーオの採取。さらに猟での素材販売。それらをフルに回しても、数か月は掛かる。


 こんな好条件で装備を手にできる機会など今しかない。だけど、金貨50枚はあまりにも高額過ぎる。


 俺が顔を歪ませ懊悩おうのうしていると、ベンがさらに悩みのタネを投下した。


「これだけいい装備なんだ。自己修復を付与した方がいいよ」


 ベンがつぶやいた言葉を聞き、様々な感情や思考が爆発した。


 自己修復! 付与魔法! 異世界なのに、ファンタジー要素が薄かった日常に放り込まれたパワーワード。


 自己修復とか便利そう。めちゃくちゃ料金高そう。魔法って貴族の領分だけど大丈夫なのか? 色々な思いが頭をぐるぐる駆け巡る。


 ただでさえ性能の悪い俺の頭が悲鳴を上げ、頭が真っ白になってしまった。


 ポカーンと間抜け面を晒す俺を見て、エマさんがベンに怒った。


「ちょっと、兄さん。付与魔法なんていくら掛かると思っているのよ!」

「金貨100~200枚ぐらいだろ? 防具に普通の値段を付けるなら金貨500~600枚はするんだしさ、新しく作り直すより付与魔法の方がお得じゃない?」


 ベンは技術馬鹿で生活力が欠如している。エマさんが家事全般や経理を担当していなかったら、この工房はとっくに潰れていたに違いない。


 あまりに浮世離れしたベンの感覚に突っ込むことを諦め、エマさんはため息をついた。


「すまないね、ヤジンさん。兄さんはちょっとアレなんだ」

「エマ、アレってなんだよ!」


 エマさんとベンが、また二人でイチャイチャしだした。普段なら、うへぇと口から砂糖でも吐き出すところだが、そんな余裕はなかった。


 俺は頭の中で、どうにか金を都合できないかと考えていた。



 防具に関して、最大の懸念はメンテナンスだった。トゥロンという巨大な町で一番の職人が作り上げた先進的な防具。


 そこら辺の職人では修理などできない。ずっとこの町に滞在するならいいが、俺にそのつもりはない。


 俺はもう35歳だ。この先、何年冒険者をやっていられるか分からない。ちょっと裕福なレベルの現状で満足していたら、老後は惨めなことになる。


 レベルの壁を超えるために、より強いモンスターの生息地域へ行かなければならない。この町の森でも、深部に行けば格の高いモンスターはいるかもしれないが、深部で戦うにはリスクが高すぎる。


 無傷ですまなかった場合、帰り道が遠いと危険だ。深部の情報が乏しいため、予想外の危険に晒される可能性もある。


 そういったリスクは避けるべきだ。


 レベルの壁を越えやすい環境の場所がある。ダンジョンだとか、比較的倒しやすいモンスターが生息している場所などだ。


 装備と資金が整ったら、そういった場所におもむく必要がある。


 なるべく安全な環境で壁を越え、大金を稼ぐ。高レベル高ランクに到達して、40までには悠々自適なご隠居生活を送りたい。


 大豪邸に住んで奴隷ハーレムを築くのもいい。田舎でパピーと二人、まったりスローライフを楽しむのもいい。


 どちらにしても、武力と金がなければ不可能なことだ。


 ハイペースでレベルの壁を越えるため、あちこちに移動する必要がある。移動先に腕のいい職人が居るとは限らない。


 ベンがこぼした金貨500~600枚という言葉からも、制作される防具はかなりの品質のはずだ。


 その防具のメンテナンスがフリーになる。俺にはとても魅力的に思えた。


 しかし、値段が高すぎる。追加の金貨50枚でもひぃひぃなのに、更に100~200枚なんて到底無理だ。というか、金額の幅がおかしい。


 金貨100~200枚ってなんだよ、倍じゃねぇか! どうなってんだよ、金持ちの感覚。頭おかしいぞ。


 最高金額で考えると金貨250枚。そんな大金稼いでいる間に40歳になっちまう。


 何か現代チートで大金を稼ぐ手段はないだろうか? 既存の商売と喧嘩せず、後ろ盾が無くても儲けられる商材。


 だめだ、思いつかねぇ。ねずみ講でもやって、大金稼いでトンズラするか? 危険なシステムを持ち込んだとして、国に命を狙われそうだ。


 欲をかき過ぎても良くないか……。諦めが肝心だな、断腸の思いで諦めよう。


 そう思ったとき、一つのアイディアが思い浮かんだ。


 この世界に来て、初めての知識チートが出来るかもしれない。昔テレビで見た、皮なめしの歴史。その映像が、頭の中で再生されていた。

野人転生の漫画版が、ニコニコ静画とComicWalkerに掲載されています



毎月「第1・第3水曜日更新」


ニコニコ静画


https://seiga.nicovideo.jp/comic/41841



ComicWalker


https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM05200934010000_68/

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コミック十巻、本日発売です。
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