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野人転生  作者: 野人
欲望の都市
119/179

トゥロン21

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


俺は仕方なく妥協案を飲んだ。

若干報酬を増やし、違約金の額を下げる。

今回の依頼達成で、めでたくランクアップ。

俺は教えられた鍛冶師の工房へと向かった。

 ギルドに紹介された工房に向かうため、町を歩く。ギルドから出ると、さっそく何者かが尾行してきた。


 追跡者は紹介状がないため、警備が厳重な工房地区には入れない。装備の秘密が漏れることはない。不意の襲撃にだけ警戒しておけばいい。


 俺は適当に屋台の食事を買い食いしながら目的地へと向かった。


 町全体から見て、東南の方角に工房地区と呼ばれている場所がある。水堀と外壁にも匹敵する巨大な城壁に囲まれた場所だ。


 衛兵が厳重に警備しており、人の出入りを厳しくチェックしている。


 工房地区に近付いていくと、城壁が嫌でも目に入る。かなりの威圧感だ。城壁自体は、町に入るときに見た城壁と変わりはないはず。


 だが、街の一区画だけを囲っているという異様な光景が、威圧感を醸し出しているのかもしれない。


 工房に唯一繋がっている橋に近付くと、金属を叩く音と薬品の匂いが鼻を突く。まさに、職人たちの住処といった感じでテンションが上がる。


 俺はワクワクしながら、橋を警備している衛兵に紹介状を渡した。




 工房地区で働く職人たちの技術を盗まれないように、工房地区は出入りを厳しく制限されている。


 職人たちに不満が出ないよう、工房地区には飲食店は無論のこと、娼館まで完備されているそうだ。娯楽で不満を抑えつつ、高待遇で人材の流出を防いでいる。


 そして、産業スパイなど、技術を盗む相手に対して非常に敏感だ。


 メガド帝国から文化が流入したせいか、技術の重要性というものをしっかりと理解している。


 許可を得た出入りの商人や、紹介状を手に入れた一流の人間だけが入ることを許されている地区。


 そんな場所に、ボロボロの装備をした俺が紹介状を持って現れる。そりゃ、偽の紹介状と疑われて身柄を拘束されるってもんよ。


 身柄を拘束されるといっても、身ぐるみを剥がれて牢屋にぶち込む。なんてことはされていない。


 詰め所で椅子に座らされ、両サイドを衛兵に固められているだけだ。


 万が一本物だった場合、責任問題に発展する。そのため、一応手荒な扱いはしていない。そんな感じだった。


 腹は立つが、仕方ないとも思う。いかにも雑魚丸出しの俺が、相当な実力か強力なコネでもない限り発行されない紹介状を持っている。


 食い詰めた馬鹿な冒険者が、有名工房の武器さえ手に入れれば人生逆転。活躍して、一流冒険者の仲間入り。


 そんな、甘い夢を抱いてやってくるのだろう。


 ろくな教育を受けていない冒険者の中には、そんな馬鹿丸出しの奴も一定数いそうだ。


 おそらく、そんな馬鹿と同じだと思われている。乱暴には扱われていないが、周囲の衛兵からは哀れみや嘲笑に似た視線を感じる。


 正直、居心地が悪いし、茶の一杯でも出しやがれと思っている。こいつらの嘲笑を含んだ視線も気に入らない。


 ただ、紹介状の確認をギルドに行っている衛兵が帰ってきたとき、こいつらはどんな顔をして俺を見るのだろう? そう考えると、仄暗い愉悦が湧いてくる。


 我ながら性格が悪いと思う。しかし、そのぐらいの楽しみがないと、この視線には耐えられない。


 ギルドで確認が取れれば、あっさり解放されると思う。ただ、普段仲良くしている衛兵たちとは所属部隊が違うので、俺のコネも通用しない。


 自分たちの失態を隠すために、俺を殺して証拠隠滅を図る。そんな短絡的な手段にでる奴もいるかもしれない。


 最悪の事態に備えて、連行されている間に間取りと人数の把握は済ませた。両サイドの衛兵が突然襲ってきても大丈夫なように、心の準備をしておく。


 その感じが表に出て、変に警戒されないように抑えているつもりだったが、相手は犯罪者を取り締まるプロだ。


 俺の微妙な緊張感や、警戒モードに移行した意識をなんとなく察知しているようだ。逃亡を図らないように、衛兵たちも緊張感を高めている。


 衛兵の詰め所は緊張感に包まれ、ピリついた空気が肌を刺す。


 相手を油断させることも大事だけど、ある程度の見栄えも重要だと改めて学んだ。俺も5級冒険者になったことだし、革鎧なんかは分かりやすく高級品だとアピールをした方がいいかもしれない。


 今回も汚し加工を頼む予定だったが、止めておくとしよう。



 頭の中で逃亡するハメになったときのシミュレーションを繰り返していると、確認作業を終えた衛兵が戻ってくる。


 一体どんなツラをして報告するんだろうと、少しワクワクした。


「本物だと確認されました。お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」


 衛兵は部屋に入るなり、俺に頭を下げた。正直、予想外だった。


 高圧的に接して、半ば脅迫気味に脅しを掛けてくる。もしくは、事務的に処理して自分たちに瑕疵かしなどないとごかます。このどちらかだと思っていた。


 まさか、たかが冒険者に衛兵が頭を下げるとは思っていなかった。


 丁寧な謝罪に毒気を抜かれた俺は「大丈夫です」という間抜けな返事をした後、紹介状を返却してもらった。


 その場で偽物とすり替えられていないか確認すると、俺の両サイドにいた衛兵が一瞬不愉快そうに眉をしかめた。


 しかし、文句を言うでもなく、すぐに表情を戻した。そのまま衛兵にエスコートされながら詰め所を出る。


 多少待たされたが、俺はあっさり工房地区へと入ることができた。拍子抜けしたが大きなトラブルもなく、工房地区へ入ることが出来た。


 結果的には良かったと思いながら目的の工房へと歩く。俺に頭を下げた衛兵さんは、丁寧に工房への道も教えてくれた。


 冒険者ギルドが持つ権力の凄さを改めて思い知らされた。


 あの衛兵は俺に頭を下げたのではなく、俺の背後に見える冒険者ギルドに頭を下げたのだ。町の権力者である衛兵が、蛮族のボロ装備を着た冒険者に頭を下げる。


 屈辱だったはず。だけど、そうせざるを得ないほど、冒険者ギルドはこの町に影響力を持っている。


 衛兵に頭を下げられた瞬間、なんとも言えない快感が背筋を突き抜けた。『舐められない』の上を行く『畏怖される』快感に酔いしれた。


 権力に狂う人間が多いはずだ。あの快感は、猛毒を含んだ甘い蜜だ。俺は頭を振ると、あの感覚を忘れるように努力する。


 今の俺が求めるには、大きすぎる欲求だ。


 上ばかり見ていると足元をすくわれてしまう。一歩ずつ、足元を固めながら進まないといけない。


 最初は無駄に時間を取られたと思ったが、俺には得るものが多かった。


 注目を集め始めた俺は油断させるより、装備も含めて実力をアピールすべきだと気付くことができた。自分の中にある、権力欲にも気付いた。


 衛兵に紹介状を疑われて拘束される。そんなクソみたいなイベントも、終わってみればいい経験だった。


 そんな風に思いながら歩いていると、目的地へと到着したようだ。


 大都市トゥロンで一番の工房。そう聞いたから、巨大な工房をイメージしていた。しかし、実際は小さな工房だった。


 工房は『Y』のような形で、三つの建物がくっついていた。工房からは、カンカンと一定のリズムで金属を叩く音がする。


 外側に入り口がある真ん中の建物に入り、声を掛ける。


「こんにちはー」


 それなりに大きな声で挨拶をしたが、返事がない。相変わらず工房の奥では一定のリズムで金属を叩く音が聞こえる。


 作業に集中し過ぎて気付かないのだろうか? 邪魔するのも悪いし、音が止むまで待つか。


 そう思った俺は工房内を見回す。


 武器や防具がところ狭しと並んでいるイメージだったが、量産品と思われる装備がいくつかあるだけだった。


 後は素材が入っていると思われる木箱が並んでいる。店じゃなくって工房だからな、装備を飾ったりはしていないのかもしれない。


 そんなことを考えていると、気配察知がこちらに近付いてくる反応を捕らえた。


 金属を打つ音が聞こえる左側ではなく、右側の建物の奥からやって来た人物が扉を開け入ってくる。その人物の異様な出で立ちに思わず、声が出てしまった。


「うわぁ」


 その人物は、地球でペストマスクと呼ばれていた鳥の嘴型の仮面をかぶり、手にはナイフが握られていた。


 ペストマスクの人物は、こちらにナイフを向けて話しかけてくる。


「アンタ、何者だい?」


 マスク越しのくぐもった声が、工房に響いた。

 

野人転生episode1前半が、ニコニコ静画とComicWalkerに掲載されています。


毎月「第1・第3水曜日更新」



ニコニコ静画


https://seiga.nicovideo.jp/comic/41841



ComicWalker


https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM05200934010000_68/

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コミック十巻、本日発売です。
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― 新着の感想 ―
[良い点] いや、ガチで面白かったんだよ 他のラノベで当然のご都合主義ぜんぜんなくて 妙なとこ妙にリアルで [気になる点] 専門的な話になると文字が多いのよ。 この辺、コミックだとあっさりなのよ。イメ…
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