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野人転生  作者: 野人
欲望の都市
114/179

トゥロン16

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


ナール草や虫下し用の毒草を見かけるが、無視して進む。

昆虫の針は恐ろしいほど機能的だということもある。

魔素の影響を昆虫も受けているからだと思う。

樹液ちゃん、しっかり蟻を追い払ってくれよ。

 はっきりと境目があるわけじゃない。ただ、なんとなく深層に入ったと感覚でわかった。植生や気配察知に感じる反応に違いはない。


 肌感覚というか、なんとなく空気が違う気がした。


 魔素の濃度を感覚で察知したのかもしれない。俺の勘違いという可能性もあるが、こういった原始的な感覚は馬鹿にできない。


 危険地帯だと、最初からわかっていたはずだ。今更引き返すことなどできない。


 移動しようとして、何時もと体の感覚が違うことに気付いた。知らず知らずのうちに、体に力が入っていたようだ。


 俺は深呼吸をして体をほぐす。手や足の指をワキワキと動かし、末端を刺激することで体の感覚をなじませる。


 ビビるな、平常心だ。パピーに目線をやると、真っ直ぐ俺を見つめ返してくれる。見かけはちっこいが頼りになる相棒だ。


 自然と笑みがこぼれ、こわばっていた体がほぐれていく。圧迫感を感じていた森の様相も、何時も通りに見えるようになった。


 空を覆うように伸びた木々の葉が光を遮り、森を薄暗くしている。木々の隙間から溢れる木漏れ日は、幻想的な美しさを感じさせる。


 人の手が全く入っていない原生林。


 長い年月を掛けて形成された森は、樹齢を重ねた太い木が多い。巨大な木々は、自分のちっぽけさを思い知らされるほど、圧倒的な存在感を示している。


 その巨大な木に向かい、ジャンプをしてしがみつく。そして、小さな突起を足がかりに上へと登っていく。


 パピーも爪をうまく使い、木の上へと移動していた。ある程度の高さまで登ると、フードにパピーを入れる。


 そして、猿のように木から木へと飛び移る。


 逃亡先の山で、木から木へと飛び移る練習は重ねていた。あのときは、我が家マイホームへ続く痕跡を残さないために行っていた。


 その経験を生かして、木の上を移動することにしたのだ。


 森での採取依頼を成功させる自信はあった。その根拠のひとつが、木の上を移動することだ。蟻塚は大抵地面に作られるものだ。


 もちろん、例外はあるかもしれない。何らかの理由で木の上に蟻が大量に生息している可能性もある。


 ただ、地上を歩くよりは安全なはずだ。情報屋から入手した情報にも、蟻が木の上に巣を作ったという話は聞かなかった。


 木の上を移動する。レベル補正で身体能力が向上した冒険者なら、誰でも出来そうな移動方法だ。


 しかし、実際やるとなると難しい。


 俺のような軽装で森に入る人間は珍しい。大抵の冒険者はそれなりに重量のある装備をしている。


 斥候役は軽装かもしれないが、深森狼フォレスト・ウルフが徘徊する危険な森に、戦闘能力が低いと言われている斥候がソロで入るなど自殺行為だ。


 重い装備を着たまま、不安定な木の上を移動する。足を踏み外したり、枝を踏み折ってしまえば、それなりの高さから落下してしまう。


 落下すれば、当然怪我のリスクは高い。落下音も周囲に響く。


 もちろん、爆音というわけじゃないが、普段の森では聞かない音だ。音量は大したことがなくても、普段聞き慣れない音というのは耳によく残る。


 重い装備、不安定な足場。怪我のリスクにモンスターの注意を引いてしまうリスク。それらの理由から普通のパーティーでは厳しいはずだ。


 俺は軽装の上に、木から木へと飛び移るのに慣れている。通常の冒険者ならこうはいかないだろう。


 俺だけが通行可能な特別なルートという訳だ。


 木々を移動しながら、気配察知を使ってモンスターを避ける。多少遠回りになっても構わない。


 正確なマップがある訳じゃないが、ファモル草とギーオの群生地の場所は聞いている。ギーオは特定の木の根元に生える習性があるため、発見は容易だ。


 ファモル草は、ギーオの群生地を少し進んだ場所にあるそうだ。


 ギーオが生える木が立ち並んでいる場所は、他の場所と明らかに植生が違うため、遠くからでも発見しやすいと情報屋は言っていた。


 ただ、その地域は毒蟻の蟻塚が多い場所でもある。希少で見つけにくいのではなく、採取自体のリスクが高いため塩漬けになっている依頼だ。


 ファモル草はギーオの群生地ほど蟻塚地帯にはなっていないが、蟻塚地帯を抜けた先にある。それにファモル草の群生地にも蟻塚がない訳じゃない。


 移動距離がギーオよりあるため、こちらはこちらでリスクが高い。


 慎重に木の上を移動していると、森の一区画だけ地面の色が変わっていた。あそこがギーオの群生地か……。


 赤茶色の土に針葉樹が密集して生えている。


 その地帯だけ、赤いペンキを土の上にぶちまけたような色をしていた。茶色、赤茶色、赤色が混じった薄気味悪い色をしている。


 その土に、蟻塚と思われる小山が点在していた。


 地面の色が変わる境界線には木が生えていない。俺は慎重に着地をして、周囲を確認する。


 地面には蟻が列をなして移動していた。


 俺は蟻を刺激しないように、慎重に移動した。そして、針葉樹に登る。木の上に蟻はいなかった。


 情報通り、木の上に蟻が巣を作るといったことはなさそうだった。それでも油断せず、慎重に確認してから次の木へと飛び移る。


 この針葉樹は松だろうか? 松の根本に生えるってマツタケっぽい。こちらの世界でもマツタケは高級品なようだ。


 食べると美味いだろうか? いや、マツタケって味自体はそうでもなかった気がする。油断はしていないが、そんなことを考える余裕すらあった。


 木々を移動しながら、根本を確認する。ギーオらしきキノコがモリモリ生えている。人間が誰も取りに来ない上に、蟻に守られているからだろうか? とにかく、依頼にあった5本は余裕で揃えられそうだ。


 これだけ大量にあるのだ、大金を稼ぐチャンスだ。


 そう思ったが、踏みとどまった。あまり大量に持ち帰ったら値崩れしてしまう。特殊な処理が必要な素材だし、数がさばけるかもわからない。


 幸いマツタケと違い、旬や生えている時期などは決まっていない。一年中生えているようだ。焦ることはない。


 俺は蟻がいないことを慎重に確認してから、下に降りる。欠けたりしていない綺麗なギーオを、慎重に採取する。


 木々を移動しながら、依頼の倍。10本を採取して、この場を離れる。赤土から離れ、俺はふぅと息を吐く。


 蟻のサイズは普通だった。それに、刺激さえしなければおとなしいものだった。


 油断する訳じゃないが、意外と楽勝じゃないだろうか? これは大儲けするチャンスかもしれない。


 慎重に木々を移動していると、草原地帯に出た。ここがファモル草の群生地だ。森にポッカリと穴が空いたように、草原地帯が現れた。


 ここで昼寝をしたら最高だろうな。眼の前には、思わずそう思ってしまう風景が広がっている。草原には様々な花が咲き乱れ、緑の絨毯じゅうたんに彩りを加えていた。


 爽やかな風が吹き抜け、サワサワと草を揺らす。鼓膜をくすぐる優しい音色。真上からは陽の光が降り注ぎ、花々を美しく照らしていた。


 草の爽やかな香りに交じる、花々の甘い香りが俺を優しい気持ちにさせた。思わず気を抜きそうになる自分に喝を入れ、俺は警戒を続ける。


 これは恐ろしい罠だ。


 見るからに危険そうな赤土地帯を越えると、そこには素敵な草原が広がっている。誰でも思わず気を抜いてしまうだろう。


 だが、ここは危険地帯だ。それもとびきりの……。


 何の遮蔽物もないこの草原で、深森狼フォレスト・ウルフに発見されれば襲撃は免れない。


 草原の緑は深森狼フォレスト・ウルフの体を覆い隠してしまう。深森狼フォレスト・ウルフに気付いたときには、すでに包囲されている。そんな事態に陥るかもしれない。


 甘い香りを放つ美しい花に引き寄せられれば、花の蜜を集めに来た蟻に毒針を刺されてしまう。


 自然界が作り出した天然の罠なのか? 性格が悪い神の悪質ないたずらなのか? 俺には判断出来ない。


 ただ、この場所がとびきりの危険地帯だってことは分かる。明らかに人間を殺しに来てやがる。


 最悪の事態になる前に、採取を済ませてここから去ろう。俺は逸る気持ちを抑え、慎重に動き出した。

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コミック十巻、本日発売です。
↓の画像をクリックすると詳細が表示されます。
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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いけど、目的のモノを依頼主に聞いたり出来ない理屈は何だろ? うっかり主人公でしたとかなのか?
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