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野人転生  作者: 野人
欲望の都市
108/179

トゥロン10

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


あいからわずくそったれな状況だ。笑えてくる。

「無駄なやり取りは好きじゃない。要件は伝えた」

「それで、どんな情報が必要なんだ?」

情報屋の男が、静かにそう言った。

 雰囲気の変わった男に、袋から出した硬貨を親指で弾く。弾かれた硬貨をキャッチした男が驚きの声を上げる。


「うぉ! 金貨じゃねぇか。アンタ何考えてんだ。こんなところで金貨なんて……」


 この店の客は、ガラの悪い港湾労働者が多い。深夜の酒場で大金を所持しているとなると、帰り道は危険になる。


「大丈夫だ。みんな酒に夢中で見ちゃいない」

「それにしたって」


 なおも抗議の声を上げる情報屋の男。


「静かにしたほうがいい。騒ぐと余計に目立つ」

「ちぃ」


 情報屋は舌打ちをすると口を閉じた。


「確認してくれ」

「あぁ、わかった」


 贋金だったり、金貨の縁を削って重量を誤魔化す奴もいる。トラブルを避けるために、金はその場で確認する。


 ギルドなどのしっかりした組織なら安心なのだが、一般的な取引では必須の行為だ。


「文句なしだ」

「そうか」

「それで? こんなに大金を払って手に入れたい情報ってのはどんな情報だ? やばいヤマはゴメンだぜ」

「大したことじゃない。冒険者が依頼を受ける薬草の特徴。町の勢力図。逆らっちゃいけない権力者。暗黙のルール。時間を掛ければどこででも手に入る情報だ」

「そんな情報に大金を出すなんて、よっぽど金持ちなんだな」

「俺の格好を見て、金があるようにみえるか?」

「……見えねぇな」


 継ぎ接ぎだらけの革鎧を着ている俺は、とても貧相に見えるはずだ。実際はかなりの金貨を持っているが、この場は貧乏人だと思われたほうが得策だ。


「その金は俺が命懸けで稼いだ金だ。金持ちが道楽で渡した金じゃねぇ」

「ほぉ、そんな大事な金を普通の情報に出すってか?」

「あぁ、死にたくないからな」

「死にたくない?」

「依頼に失敗すれば奴隷落ち。町の勢力図が読めないと、巻き込まれて死ぬ。権力者に逆らっても死ぬ。暗黙のルールを破っても死ぬ。よそ者の俺にとっちゃ、情報は命を守る大切な存在だ」

「なるほど……情報の大事さを理解しているってわけだ」


 情報屋が軽い笑みを浮かべる。


「あぁ、情報の大事さは知っている。だから大金を払う」

「ご期待に添えるように頑張るとしますか」


 情報屋は気軽にそういった。


「おい。舐めんじゃねぇぞ」


 俺はそう言うと、情報屋を睨みつける。


「おいおい、いったいどうした」

「俺は命懸けで稼いだ金を払った。てめぇも命懸けで情報を話せ。自分の都合のいいように嘘を混ぜたり、ニセの情報を掴ませやがったら……」


 俺はそう言うと、腰の後ろにあるナイフに手を伸ばした。ありがちな脅しだが、釘を刺しておいたほうがいい。


 コイツは大金を払った相手に対する敬意が足りない、プロ意識が足りないと言ってもいい。所詮は街の情報屋か。俺は情報屋に対する評価を下げる。


「わかったから、落ち着けって」


 ニヤケ面が引き締まったようだ。少しはマシな情報が聞けるといいが……。


 それから店が閉まるまでの時間、情報屋と話して情報を集めた。店を出た後、物陰に隠れて気配察知を発動する。


 気配を消して、情報屋の後を追った。




 月明かりしかない暗い道を、情報屋は明かりも持たず歩く。情報屋はしばらく歩いた後、周囲を確認してから建物に入った。


 雲に隠れていた月が顔を出し、建物が照らされる。建物には、緑の看板が飾ってあった。それを確認した俺は、足早に建物から離れた。


 情報屋には必ずバックがいる。ケツ持ちも持たずに情報を扱う。そんなリスクの高い行動を取れば、長生きは出来ない。


 当然、バックの不都合になる情報は話さない。それだと正確性に欠ける。情報屋の所属を確認しておく必要があった。


 次は情報屋の敵対勢力がバックに付いている、別の情報屋から話を聞く必要がある。


 治安の悪い場所で大金を手にした情報屋は安全を求めて、バックの組織に関係する場所へ行くと踏んでいた。


 大金を餌に、情報屋が安全な自分の所属する勢力へと行くように仕向けた。うまくいくかはわからなかったが、失敗しても情報は手に入る。


 うまく行けば儲けものぐらいだった。俺にしては珍しくついている。問題は、もうひとつの勢力の情報屋を見つける方法だな。


 もうやっている酒場もない、流石に眠くなってきた。頭の中で、手に入れた情報を整理しながら宿へと帰った。


 宿の部屋に戻ると、パピーがコクリコクリと頭で船を漕ぎながら、ベッドの上にいた。その姿が可愛すぎて、思わず頭を撫でる。


 撫でられて目を覚ましたパピーは、ハッとなった。そして、意識が覚醒して俺を認識する。


「わんわん」


 パピーが嬉しそうに飛び込んでくる。何このかわいい生き物。あぁ、死ぬほど癒やされる。


「遅くなってごめんな、パピー。一緒に寝よう」

「わふわふ」


 装備を外し、ナイフを一本もってベッドに入る。ベッドに横になった俺の胸に、パピーが丸まって寝息を立てはじめた。


 パピーを起こさないように優しく背中を撫でながら、俺も眠りについた。




 眠りから目覚めると、ストレッチをする。階段を下りて井戸水を汲み、顔を洗う。朝食を食べて歯を磨く。


 いつもと同じ朝の支度を済ませ、装備と荷物を整え宿をでる。寝不足で少しだるいが、パピーをフードに入れて冒険者ギルドへと向かった。


 掲示板の依頼票は少なくなっていた、少し寝坊してしまったようだ。美味しい依頼はなさそうだ、常設依頼の食肉の買取を狙う。


 依頼票を取ると、受付嬢に渡す。門で見せる木札を受け取り、門へと向かって歩いた。


 ランクアップには塩漬け依頼をこなさないと行けないが、それ以外の普通の依頼を受けれないわけじゃない。


 体を鈍らせないためにも、定期的に森へ入る必要がある。入ったときとは別の、東側の門から町をでる。


 気配察知に反応はない、尾行はされていないようだ。俺は駆け足で森へと向かった。


 受付嬢から塩漬け依頼を押し付けられたとき、別の町でランクを上げようか迷った。だけど、ここから一番近い大きな町グラバースは、ゲイリーを殺したせいで近付けない。どんなトラブルに巻き込まれるかわからないからだ。


 更に遠くの街となると、かなり時間が掛かる。それに、その町でも同じ扱いを受けるかもしれない。


 別の町に移動して、ランクを上げる。その後、トゥロンの町に戻って装備を作る。というのも手間がかかる。


 別の町に移動しても同じかもしれないし、更に酷い扱いを受けるかもしれない。すんなりランクアップしてくれる大きな町を探すまで、各地を転々としながら、教会にレベルスフィアを使用する謝礼を払い続けるのも大変だ。


 それなら、多少大変でもこの町でランクを上げたほうがいいと判断した。それに塩漬け依頼のなかに、結構な数の採取依頼があった。


 森での移動が得意で気配系のスキルを持っている俺なら、戦いを避けながら森の奥地に入って、採取をこなせるかもしれない。


 採取系は報酬もよかったので、報酬が釣り合わないのではなく、難易度が高いから塩漬けなんだと思う。


 うまいこと依頼をこなせれば、金が儲かりランクも上がる。


 やって無理そうなら、別の町に行けばいい。どうせ誰もやらない塩漬け依頼だ。素直に受ける義理もない。


 失敗しても違約金を払わなくていいとか、こちらからも色々注文を付けてみよう。うまくいけば、あのムカつく受付嬢たちを少しは見返せるかもしれない。


 今日は森の様子を見て、食肉をゲット。人気のないところで空手や野人流小刀格闘術(笑)の鍛錬もしたい。


 ただでさえ、自分の名前が付いた痛いスキルなんだ。そこに(笑)とか恥ずかしすぎる。パピーも最近は宿の部屋で窮屈な思いをさせていた。


 今日は森で思う存分動き回って欲しい。


 そんな事を考えながら、体感で一時間ほど移動した。わりと森に近い。運が良ければ日帰りで行けるかもしれない。


 川を見つけ、全身を綺麗に洗う。体や荷物にハーブを擦り付け、準備を完了する。ここからはモンスターの領域。油断せずに進むとしよう。

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