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野人転生  作者: 野人
欲望の都市
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トゥロン09

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


重厚で頑丈そうな作りの建物だ。

こいつ目が飛んでやがる。

5級冒険者として登録することはできません

この展開は予想外だ。

 俺を使い潰す。その意図を隠そうともしない冒険者ギルド。正直、はらわたが煮えくり返る。


 俺は怒りを抑え、ポーカーフェイスを保つ。塩漬け依頼を見ながら、気になる単語だけを覚えておく。


 脳が残念な俺は、記憶力が低い。細かい部分まで覚えちゃいられない。気になる単語だけ、必死に頭に叩き込んでおく。


 塩漬け依頼に目を通し、受付嬢に尋ねた。


「この依頼にあるファモル草はどんな形をしているんですか? 現物、もしくは、絵の書かれた図鑑などを拝見させて頂きたい」

「申し訳ございません。ファモル草の在庫は品切れです。図鑑は図書館に行けば見られると思いますが、貴族様、一定額以上の税金を収めた方、それ以外の方は入館できません」

「ファモル草がどのような草かわからないと、採取のしようがないのですが……」

「情報を集める。それも冒険者の腕だと思います」


 受付嬢は、完璧な笑顔でそう言った。


 ムカつくが正論だ。情報収集は冒険者に必要な技術。アルは情報収集に余念がなかった。アルほどうまくやる自信はないが、頑張るしかない。


「了解しました。情報を集めてから、改めて依頼を受けさせて頂きます」

「はい。当ギルドへの貢献、よろしくお願いします」


 俺はニッコリと笑い頭を下げた。受付嬢はニッコリと笑っているが、頭は下げなかった。


 俺は頭を上げ、冒険者ギルドを出た。


 

 ギルドを出た俺は、ふぅーと長い息を吐く。怒りを呼吸と共に排出するイメージで精神を落ち着かせる。


 冒険者ギルドは国の組織であり、冒険者という武力を束ねている。受付嬢として、そこの顔を任されている女性だ。


 顔がいいだけのお飾りじゃない。


 俺の身長と装備から、将来性がないと判断した。そして、ギルドの最大利益になるよう、使い潰すことに決めた。


 おそらく、そんなところだ。


 チビで装備がボロボロのソロ冒険者。レベル20とはいえ、いいお付き合いをしたいとは思わないだろう。


 装備を整えてからギルドに行けば良かったか? いや、大金を使って装備を整えるんだ。いい工房で装備を手に入れたい。


 それには、ランク5のギルドタグが必要だ。


 自分の作った武器や防具は、それなりのレベルの人間に使って欲しい。腕のいい職人ほどそう思う。


 職人としてのこだわりもあるし、実利的にもそうだ。


 上質な武器、防具は制作に時間が掛かる。こだわって作れば、月に数点作成できればいい方だ。


 作れる数が少ない。厳選した相手に商品を販売するのは当然だ。


 購入した冒険者が活躍すれば、いい宣伝になる。ブランド力を高めるために、そこらへんの冒険者には使って欲しくない。


 客を選ぶ商売をしているが、腕のいい職人なら当然のこと。供給より圧倒的に需要のほうが多いのだから。


 つなぎの装備を買うことも考えたが、資金には限りがある。それなりの装備とはいえ、かなりの金額がする。


 金銭的につなぎ装備を買う余裕はない。


 塩漬け依頼をこなすのに装備が欲しい。だけど、いい装備を買うにはランク5の身分が必要だ。


 あいかわらずくそったれな状況だ。笑えてくる。鬱々うつうつとした気持ちを振り払い、宿へと向かった。


 屋台で適当に昼飯を購入する。宿の部屋で昼飯を食べ、パピーをなでて癒やされる。夕飯になるまでパピーと戯れた。


 部屋でパピーと夕食を取り、出かける準備をする。パピーは宿でお留守番だ。寂しそうにしているパピーの頭をなで、夜の街へと向かった。


 俺の低スペックな脳が、塩漬け依頼の単語を忘れる危険がある。その前に、情報を集める必要がある。必死に脳に叩き込んだが、すでに記憶が怪しい。


 この残念な脳とも長い付き合いだ。今更落胆することもない。忘れないよう、頭の中で単語を繰り返しながら酒場へと向かう。


 冒険者として必要な情報は、地元の冒険者に聞くのが一番だ。ただ、ギルドの雰囲気を見た感じだと、素直に教えてくれるとは思えない。


 図書館は貴族と金持ちしか入れない。ギルドに資料室がある、なんて親切なこともなかった。


 冒険者ギルドでは、人を育てて依頼の達成率を上げる。そういった考えはないのだろう。死んでも死んでも田舎から新しい冒険者が追加される。


 丁寧に冒険者を育てても、別の町に移動されておしまいだ。それなら、使い捨てにした方が効率がいい。


 地元の冒険者、冒険者ギルド、図書館。知識を集められそうな場所が全滅した。こうなると大変だ。


 思いつく方法がひとつしかない。気は進まないが、他に方法がない。


 適当な酒場に入り、エールを注文する。


 気配察知と五感強化を発動。温くてまずいエールを飲みながら、酔っぱらいたちの話に耳を傾ける。


 しばらく、酔っぱらいたちの話を聞いていた。ここには居ないか……。


 俺は店をでると、別の酒場に入った。さっきと同じように、スキルを発動して耳を澄ました。


 ここもダメか。


 そうやって、いくつかの酒場を巡る。5件目も空振りに終わった。今日はここまでにしよう。


 町の噂話程度だが、酔っぱらいの話も聞けた。酒場限定だが、町の物価もある程度把握できた。


 お目当ては空振りに終わったが、得るものはあった。


 俺は宿へ帰ることにする。トゥロンは、わかりやすく碁盤の目状に整備されている。それでも、地形を把握するため、行きとは違う道で宿へと向かった。


 すると、一軒の酒場が目に入る。


 夜も更け、閉店する店もちらほらある。というのに、この店からは楽しそうな笑い声が響いていた。


 俺は興味をそそられ、酒場へと入る。


 一瞬笑い声が静まり、鋭い視線が飛び込んできた。店内の客筋は、お世辞にもいいとは言えない。


 ガラの悪い客たちは、俺に一瞥をくれると興味を失った。店内に騒音が戻り、下品な笑い声が響く。


 俺はエールを頼み、席に着く。これで6杯目だ。相変わらず温くてまずい。温いエールは美味しくはないが、店によって味に変化がある。


 この店はハーブを混ぜて味を調整しているようだ。この店のエールは酸味が少なめで、ミーン草のフレーバーがしっかり感じられる。


 海外の癖の強い飲料として、日本でも販売されていそうなクオリティだ。冷蔵庫で冷やせば、それなりに飲めるかもしれない。


 今まで飲んだエールの中で、一番マシな味だった。


 俺がエールの味に感心していると、スキルがお目当ての存在をキャッチした。


 その男は、壁際の席に居た。干し肉をあてに、チビチビとエールを飲んでいる。


 浅く焼けた肌に特徴の薄い顔。服装も普通で、店内にうまく溶け込んでいた。どう見ても、仕事終わりの酒を楽しむ港湾労働者だった。


 俺はエールのジョッキを持つと、男の隣に移動した。


「にいちゃん、どうした? 俺に何か用かい?」

「情報を売って欲しい」

「……何を言っているのかわからねぇ。変に絡むのはよしてくれ」


 男はうざったそうに手を振る。


「無駄なやり取りは好きじゃない。用件は伝えた」


 俺は男を睨む。


 俺に睨まれた男から、一瞬表情が消えた。そして、口で三日月を描くように笑みを浮かべた。


「それで、どんな情報が必要なんだ?」


 情報屋の男が、静かにそう言った。

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