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野人転生  作者: 野人
欲望の都市
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トゥロン08

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


さすが大都市のギルド職員だ。全く油断ができない。

アレが教会なのか? あまりにも巨大で武骨な建物だ。

教会ってのはろくでもない。

怪物の口に、人々が飲まれていく。

 教会に足を踏み入れた俺は、その威容に圧倒されてしまう。入ってすぐ、大きな空間が広がっている。吹き抜けになっていて天井が高い。広い空間には、太い柱が何本も並んでいる。


 重厚で頑丈そうな作りの建物だ。それだけでも威圧感がある。


 しかし、地味な外見とは裏腹に、室内は様々な彫刻に彩られている。天井には羽を付けた鎧姿の戦士が、ゴブリンらしきモンスターを成敗する絵が描かれている。


 太くて頑丈な柱の一本一本に繊細な模様が彫り込まれ、天井から差し込む光と共に、荘厳さを感じさせられた。


 俺が教会の威容に飲まれていると、さっきまで無口だったギルドの役員が饒舌に喋りかけてきた。


「素晴らしいとは思いませんか?」


 突然の抽象的な問いに、俺は曖昧に返事をする。


「えぇ、素晴らしいですね」


 俺がそう答えると、ギルド職員は満足そうにうなずいた。


「そうでしょう、そうでしょう。荘厳にして華美に有らず。神の御威光を表現するのに、過剰な装飾は必要ないのです。こちらの教会は緊急時、避難所としての役目もあります。ゆえに、他の教会に比べて重厚な作りをしています。そのことを揶揄やゆする愚か者もいます。ですが、違うのです。華美な装飾で神を彩る必要などないのです。神の存在そのものが、その威厳が、人々に安寧を与えているのです。この教会の重厚で威厳溢れるその姿は、神の威厳を表すに相応しい。神の家このきょうかいは、あらゆる困難から我々を守ってくれるでしょう」


 うわぁ、やべぇ。こいつ目が飛んでやがる。こいつが狂信者ねっしんなしんじゃなのはわかった。ギルドに教会の勢力ががっつり潜り込んでいるのもな。


 適当に話を合わせながら、歩みが極端に遅くなった狂信者の後を付いていく。冒険者は罪を犯すことが多い。神に許しを請えば、安寧が得られる。


 新興宗教の勧誘みたいな、ギルド職員の熱いお話を適当に流しながらついて行く。勧誘のつもりかもしれないが、逆効果だろ。


 こんなの見たら、教会でやべぇ洗脳でもしてるんじゃないか? なんて思っちまう。正直、おっかねぇ。


 べらべらと口の回る狂信者が、漸く司祭っぽい人のところに付いた。司祭と親しげに話している。これだけの狂信者だ、教会の覚えもいいのだろう。


 俺は恭しく挨拶すると、金貨を1枚寄付する。相場はわからないが、足りないということはないだろう。


 手のひらに感じる重さに、司祭は顔を歪めた。袋から取り出した硬貨が金貨だと分かると、司祭は露骨に笑みを浮かべた。


 その場で確認するのかよ、俗物め。俺は侮蔑の表情を出さないように気を付けながら、心の中で罵倒する。


 司祭が短い聖句を唱え、俺の額に軽く触れる。俺は頭を下げ感謝の意を示す。すると司祭は、助手に後を任せ何処かへ行ってしまった。


「司祭様はお忙しい中、貴方を祝福してくださりました。良かったですね」


 狂信者ぎるどしょくいんは自分が司祭とコネがあったおかげだと、優越感を滲ませながら恩着せがましく言ってくる。


「えぇ、ありがたいことです。貴方に感謝を」


 俺はそう言うと、頭を下げた。死ぬほどムカつくが、教会を敵に回すのは自殺行為だ。教会と繋がりが深そうなコイツの不興を買うのは得策じゃない。


 俺が頭を下げると、ギルド職員は嬉しそうに笑った。自尊心が満たされたようだ。自覚はないだろうが、神や教会のご威光を盾に自尊心を満たしてやがる。


 こういったタイプは厄介だ。簡単に感情に振り回される。いいように使われるのも不味いが、目を付けられるのも不味い。


 大都市は一筋縄ではいかない。出会う人間すべてに危険性がある。俺はうんざりしながら、狂信者と助手の後を歩く。


 大きな礼拝堂の奥に進み、祭壇の横にある道へと入った。そのまましばらく進んで行くと、助手が部屋の前で止まった。


 部屋の前には、板金鎧プレートアーマーを着た衛兵が立っていた。貴重な秘宝アーティーファクトだと聞いた。しっかりと警備をしているのだろう。


 助手が一言声を掛けると、衛兵たちは扉の前から横へと移動した。扉が開けられ中に入る。部屋の中は意外と狭い。


 奥には祭壇があり、その上に大きな水晶のような物が鎮座していた。占い師が使うような水晶っぽい、球体のやつだ。


 助手に促され、水晶に触れる。電気が流れるようにビリっとくるだとか、ものすごい輝きが球体から溢れ出すなんてことはなかった。


 水晶にぼんやり、20とだけ表示される。


 それを確認したギルド職員は、一言確認しましたとだけ言った。本業の方はやたら無口な男だ。普通逆だろ、狂信者め。


 その後、助手に案内されて教会の外へ出る。お見送りなんて気持ちのいい物ではなく、監視をしているのを隠そうともしない態度だった。


 自己紹介も受けていないので、あの助手君が何ものなのかもわからない。助祭なのか、ボランティアの一般人なのか、所属と階級ぐらいは名乗るべきだろう。


 確かに冒険者はろくな人間がいない。だけど、ああ露骨に態度に出されるといい気持ちはしない。


 改めて教会の傲慢さが浮き彫りになった。信者たちは頭を下げ、恭しく接している。そのせいで人に頭を下げられる状態が普通になってしまっている。


 教会でも傲慢は罪とされている。神に身を捧げ、教義を体現する必要がある宗教関係者がこれだ。


 司祭どころか、下っ端の案内役ですら増長している。体感することで、文字としての認識だけではなく、感覚として強く認識できた。


 適度に距離を取るのが一番だ。あの様子では、教会に尽くしてもあっさり見捨てられそうだ。


 教会は気に入らないが、強い権力を持っている。寄る辺の候補として考えていたが、他者への侮蔑を隠さないほど傲慢な人間とは、うまく付き合えない。


 教会内とは打って変わって、無口になった職員とギルドに戻る。教会のミサに勧誘されたが、予定が合えばと曖昧な返事で誤魔化した。


 狂信者ぎるどしょくいんの勧誘攻撃はきつかったが、レベルが20になっていることを確認できた。これで俺も晴れて5級冒険者だ。


 一目置かれる存在になる。パピーの存在もオープンにしていきたい。パピーには窮屈な思いをさせている。


 色々とトラブルを引き寄せるかもしれないが、パピーには人間の町を見て貰いたい。文明の素晴らしさを伝えたい。


 そして、人の優しさ、強さ、醜さ、汚さを学んで欲しい。俺以外の人間を知って欲しい。子狼には厳しいかもしれないが、パピーは賢い。


 俺以外の『人間』という物を学んで欲しかった。


 そんなことを考えていると「ランクアップ申請の手続きをされていた方!」とギルド内で声が響いた。


 俺のことだろう。個人名を認識しないと不便だと思うが、交易都市で人の出入りが激しい上に、冒険者は簡単に死ぬ。


 いちいち個別に認識などしていられないのだろう。もっとも、この町で長く活動している人たちは名前で呼ばれている。


 個人的に親しくなったから名前で呼ばれているのかもしれない。日本だと有り得ないが、この国だとこんな物だ。


 冒険者ランクが上がると、ギルドタグがどんどん豪華になり、3級を超えると個人名が刻印される。


 それ以下の、一山いくらの冒険者たちは名前を覚える必要すらない訳だ。


 呼ばれた受付に向かうと、いつもの受付嬢ではなく、別の女性だった。明るい茶色の髪を三つ編みにした、目のぱっちりした可愛らしい女性だった。


 このギルドは美人受付嬢が多い。ようやく巡り合えたラノベテンプレ。なんて素晴らしいギルドなんだ。


 もっとも、前の受付嬢は油断ならない女性だったが。この女性もランクアップ申請と大声で言っていた。


 プライバシーの保護なんて概念はなさそうなので、当たり前のことかもしれない。ただ、前の受付嬢は明らかに故意だった。


 この受付嬢も食わせ物かもしれない。俺は警戒しながら意識を集中させた。


「レベルの確認が終了致しました。おめでとうございます」


 受付嬢はまぶしいほどの笑顔で俺を見つめる。耐性のない人間なら、これでいちころだろうな。だが、警戒心MAXの俺には胡散うさん臭いとしか思えない。


「ありがとうございます」


 当たり障りのない返事を素っ気なくすると、一瞬だけ受付嬢の笑顔が歪んだ。男を手玉に取る系の悪女みたいだ。


 俺みたいな、如何にもモテそうにない男が、目をハートマークにしながら鼻の下を伸ばさないことにプライドが傷付けられたようだ。


「レベルの確認ができたのですが、このままでは5級冒険者として登録することはできません」


 予想外の言葉に、表情を歪めてしまった。相手のペースになる。ポーカーフェイスは崩さないようにしなければ。


 俺が気に入らないから、嫌がらせをしているのか? いや、受付嬢にそんな権限はないと思う。落ち着いて話を聞こう。



「ギルドの規約にもありますように、ランクアップするためにはレベルの確認が必要です。ですが、それ以外にもランクアップのために必要な条件があります。それは、ギルドへの貢献度です」


 ギルドへの貢献度……。確かに規約に書いてあったと思う。だが、レベル20になるまでにはそれなりに依頼をこなしているはずだ。


 他の職業から冒険者に転職する人間はほとんどいない。レベル20に到達するまでには、かなりの数の依頼をこなしていると見られ、何の問題もなくランクアップされるのが慣例だと聞いていた。


 この展開は予想外だ。


「貢献度といいましても、実際は5級相当のクエストをこなせる実力があるのか確認する試験のようなものです。当ギルドの指定する5級相当の依頼を受けて頂き、5級に認定するに値するギルド員だと証明して頂きます」


 なるほど、レベルに見合った実力があるのを証明するために、依頼をこなせということか。しかし、それがなぜギルドへの貢献になる。


 俺が思案していると、受付嬢がいくつか依頼表を持ってきた。


「これらの依頼を完了して頂きます。十分に結果をだし、ギルドへの貢献度が規定値に達すると5級冒険者としての資格が得られます」


 受付嬢が笑顔でそう言った。


 俺は依頼表を見て顔を歪めた。そういうことか……。依頼は所謂いわゆる塩漬け依頼と呼ばれている物だ。


 仕事と報酬のバランスが取れていなかったり、依頼の達成その物が困難だったりする。普通の冒険者はまず受けない類の依頼だ。


 汚いまねをする。ランクアップを盾に、塩漬け依頼を片付けさせるつもりだ。


 貢献度が規定値になんて、小難しい言葉をこねくり回している。教育を受けていない冒険者のほとんどは理解できない。


 明確な数字や、依頼ひとつでどのくらいの貢献度が加算されるのか。それらの説明がなされていない。


 つまり、ギルド側の気分次第でいくらでもこき使えるわけだ。


 思わずポーカーフェイスが崩れ、受付嬢を睨んでしまう。俺の視線など、どこ吹く風と言わんばかりに、ニコニコと笑う受付嬢。


 しがない冒険者の俺は、ギルドには逆らえない。唇を噛み締めながら、少しでもマシな塩漬け依頼を探した。

新しいSSを投稿しました。

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小倉ひろあき様が書かれている、好色冒険者エステバンとのコラボ作品です。

好色冒険者エステバンの方にも、野人が登場します。

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コミック十巻、本日発売です。
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― 新着の感想 ―
[一言] ギルドの受付嬢を見ていると、村娘(ベル)の純朴さが懐かしいわ。
[一言] ここまで読んで思ったが野人というか5chの底辺メンヘラおじさんだな薬師編あたりが読みやすかった今はただの人間不信のメンヘラ基地
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